第67話
〈少しw〉
〈ルカちゃん、食いしん坊なんだよお兄さん。だから、あとその三倍くらいは倒しておいたほうがいいぞw〉
「マジかよ……」
流花の体のどこにそれほどの量が詰まるのだろうか。
麻耶に比べると女性らしい体つきをしているのは、それだけ食事の量が多いからだろうか?
「べ、別に大丈夫だから。気にしないで」
「いやいや。いくら俺へのお礼と言われてもな、目の前で腹すかしている奴を見ながら食うのは気分良くないしな」
「さすがにそこまでじゃないからっ」
顔を赤くしながら声を少し荒らげる彼女だったが、もう少し狩りを続けることにした。
「もっとまとめて出てきてくれればラクなのにな」
〈草〉
〈Aランク迷宮の魔物相手にそんなこと言えるの頭おかしいんだよなぁ〉
〈でもお兄さんの言う通り、まとめて100体とか出てきたほうがお兄さん的にはいいんだろうなw〉
〈その光景は普通に迷宮爆発のときみたいなのよw〉
それからさらに倒し、100体を記録したところで俺は今度こそ終わりだ。
〈Aランク迷宮のボスモンスター100体狩り達成!〉
〈おめでとう!〉
〈こんな耐久配信見たことねぇぞw〉
〈普通の人がAランク迷宮のボスモンスター討伐できた! って喜んでの配信とかなのにお兄ちゃんのベクトルが違いすぎるんだよなぁ〉
〈なんでこれボスモンスターの連続攻略配信になってるんですかねぇ……〉
〈以前高ランクの冒険者が10万人に行くまでボスモンスター狩り続ける! っていう配信してたけど、あれって確かDランクくらいだったなw〉
〈マジでお兄ちゃんの戦闘はすべてが規格外すぎてみてるだけで楽しいわw〉
流花に視線を向け、問いかける。
「そういうわけで、100体分だ。……さすがにこれで大丈夫か? 足りるか?」
「うん、大丈夫」
流花は今度は笑顔である。
……さっきは完全に取り繕うための表情だったんだな。
「涎垂れてるぞ?」
「え……?」
「冗談だ」
カメラを奪って彼女の顔を映すと、むっと頬を膨らませてそっぽを向いた。
「嘘つき」
〈ナイスお兄ちゃん!〉
〈ルカちゃんの涎見たかったなぁ……〉
〈お兄様完璧なカメラマンだなw〉
「んじゃこれでとりあえず迷宮での作業は終わりだな。近くに料理できる場所を借りているんだよな?」
「うん。そこに移動しよう」
素材の入ったカバンを俺が持ち、それから姿を隠すようにフードをかぶり、迷宮の外へと脱出した。
俺たちが移動した先はキャンプ場だ。
「美食の森」近くにあるこのキャンプ場では、「美食の森」で獲得した食材たちを焼肉として楽しめる空間が広がっていた。
休日ということもあって賑わっているのか、あちこちで似たような冒険者たちの姿がある。
すでに事務所のスタッフ四名が場所の確保と食材をずらりと運び込んでくれていた。
全員今日は動きやすい服装での参加であり、スマホを見ていた彼らはこちらに気づいて手を振っていた。配信でも見ていてくれたのかもしれない。
ぺこりと頭を下げてきた霧崎さんと、その後ろでは流花のマネージャーの人も頭を下げている。
「お疲れ様です、お兄さん、流花さん。こちら、すぐにでも焼ける準備はできていますので、どうぞ。ご利用ください」
「ありがとうございます。そんじゃ流花、早速焼いていくか」
「う、うん……っ」
すでに流花は俺へのお礼という目的は忘れているのか、俺の取り出した肉に目を輝かせている。
今度は本当に唾液がこぼれおちそうである。
……まあ、俺としてはそっちのほうがお礼になるな。
変に気を遣われるよりも、こうやって自然体で楽しんでくれている姿を見るほうが好きだ。
カバンから取り出した肉は今も魔力の膜に覆われていて、傷や汚れの一つもない。
薪がバチバチと火をあげていて、もう今すぐ金網にのせても問題なさそうだ。
「んじゃ、迷宮の食材についての簡単な解説をしましょうか」
〈そういや、迷宮の食べ物って変な膜に覆われてて汚れとかないんだっけ?〉
〈あくまで一日程度だけどな。ただ、高ランク迷宮の魔物の肉とかだと魔力の膜は頑丈だし、肉自体にも魔力の鎧が張り巡らされてるんだよな〉
「コメントの奴詳しいな。そういうわけで、まずは魔力の膜を破壊する必要がある」
俺は見本を見せるように金網の上に肉を置き、それから魔力の膜を破壊する。
そして、流花に渡されたトングを使って火であぶっていくが、軽く表面が少し焼ける程度。
「ただ、肉自体にもまだ魔力の鎧があるんだよ。だから、これも完全に破壊する必要があって……それは魔力を通すことでしか破壊できない。つまりまあ、Aランク迷宮の食材だと……だいたいBランクかCランクの上位くらいの冒険者の力がないと、加工することもできないってわけだ」
〈……マジで?〉
〈そうなんだよなぁ……回収するのも大変だし、加工するのも大変というわけ〉
〈一応、ギルドとかで食材を買い取った場合は、加工してから適切に流通されるけど……新鮮さはなくなるからな〉
〈新鮮なAランクの肉を食えるとか、まずないんだよ……〉
俺が魔力の鎧と膜を破壊したところで、肉にようやく火が通る。
そうして、とりあえずスタッフ六人分の肉を焼く。野菜とかは後回し。
まずはこのグラントレックスの肉だ。
肉はぷるぷると震え、肉汁を漏らしていく。
「……これ、ごはんにかけて食べるだけでも美味しそう……」
「たぶん、うまいだろうな」
ごはんなどはすでにスタッフの人たちが用意してくれている。
少し焼いただけでも肉の香りが鼻孔をくすぐる。
これまで、迷宮の食材は色々と食べている俺だが、もうすべて美味いの一言だ。
匂いに反応したのか、スタッフ四名たちも我慢できなくなってきているようで、表情が変わっている。
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