第66話
流花には階段にいてもらい、俺はボスモンスターの入室と退室を繰り返していく。
すでに俺としては、作業感覚だ。
完全に、ゲームの素材集めでもしているような感じでグラントレックスの肉を集めていく。
カメラをこちらに向けながら、俺の代わりに雑談してくれている流花に問いかける。
「これで、何体目だ?」
「……三十」
流花が持っているカバンには、グラントレックスから回収できた肉が入っていた。
見た目はサーロインステーキ用のお肉だ。
サイズは、両手の指を合わせてできた楕円くらいだろうか。
グラントレックスの見た目に反して、ドロップする肉はあまりない。だからこそ、結構集めていた。
魔物の素材はその表面の魔力の膜を破らない限り、内部の肉が腐食することなどはない。
この魔力の膜は、おおよそ一日程度は残るため、むき出しで運んでいても問題ない。
カバンの中を流花が映すと、コメント欄に驚愕の声がまぎれる。
〈ルカちゃんのトーク聞いてて忘れてたけど……これかなりの量だよな〉
〈グラントレックスの肉って店で食べようとしたら十万は余裕でいくよな?〉
〈十万どころじゃないぞ? 百万コースだぞ?〉
〈グラントレックスの肉を毎週日曜日のみ提供している店のコースメニューがこちらhttp――〉
〈ファッ!? 150万円!? そんなに!?〉
〈当たり前だろwお兄ちゃんで感覚麻痺しているが、グラントレックスの討伐ってAランク冒険者が複数人集まって行うもんなんだぞ? Aランク冒険者一人雇ったらどんなに安く見積もっても十万は行くんだぞ? 安全に討伐するために十人くらい必要だとしたら、それだけで100万円だからな?〉
迷宮でとれる魔物の食事は基本高いんだよな。
魔力を微量に含んでいるので、食べれば魔物を倒したときのように肉体が僅かに強化されるのだが……だからといって、それを食べられるのなんて一部の裕福な家庭くらいだろう。
〈この店は、あくまで飲食店も経営しているギルドだから比較的安価で提供してるけど、高ランク迷宮の食材とかって普通に1000万円とか必要だからな?〉
〈やばすぎるだろw冒険者ってそんなに稼げるってことだよな!?〉
〈ていうか、これルカちゃんへのご褒美になってないか……?〉
今回の目的はあくまで流花から俺へのお礼、ということだ。
ただ、ここまで集めまくるということは予想していなかったようだ。
〈グラントレックスの肉を食べられるとか、これ普通にルカちゃんに嫉妬してんだけど……?〉
〈初めはルカちゃんの手料理を食べられるお兄さん死ね! とか思ってたけど……今はルカちゃんのほうが羨ましいぃ〉
〈俺も冒険者なりてぇなぁ〉
〈冒険者っていっても、成功者は凄い稼げるけど失敗している人もいるからな……〉
〈失敗=死だから、あんまり情報もないというね……〉
〈有名な配信者が事故ったときとかはニュースになるけど、それくらいだもんな〉
〈世の中冒険者が凄いっていう情報ばっかりだもんなw〉
〈お兄ちゃんの貯金とかやばそうだよなw〉
〈お兄さん貯金いくらくらい持ってんの?〉
コメント欄で勝手に盛り上がっていたが、俺に質問がくる。
お金関係の問題は色々とシビアであるが、隠したほうが変に勘繰られそうだよな。
「俺の貯金はまあ、一応長期で休んでも生活できるくらいには稼いでいるけどそんな非現実的な額じゃないぞ?」
〈マヤちゃんは?〉
「麻耶の貯金は生活に困らないくらい確保してるぞ? 何当たり前のこと聞いてんだ?」
麻耶は俺が働けなくなっても、あるいは彼女に何かあったときのために確保してある。
それは兄として当然のことである。
ただ、基本麻耶に使うつもりはない。麻耶に優しくはするが、俺に頼らなければ生きていけない、というのは違うだろう。
本当に万が一、麻耶に不幸があって自分で生活費を稼げなくなってしまった時のために、稼いだにすぎない。
だから、麻耶が一人で生きていけるように、俺が教えられる冒険者の技術は教えているわけだ。
よく言うだろう。魚をあげるのではなく、魚を手に入れる方法を教えるというやつだ。
〈草〉
〈お兄ちゃん結婚してください!〉
〈私もお兄さんと結婚したいですw〉
「現金な奴らめ。でもまあ、冒険者は一生できるわけじゃないしな。怪我する可能性だってあるし、最悪死ぬ可能性もある。だからまあ、稼げるときに稼いでおいたってわけだっての」
〈お兄さん、そこらへん堅実的だよな〉
〈お兄ちゃんの適当さと真面目さの奇妙なアンバランス〉
そんな話をしながら、俺は流花に改めて問いかける。
「スタッフの人たち含めて……三十体分の肉があれば、しばらく食事には困らないよな?」
これから俺たちは近くのキャンプとして利用できる施設に行き、そこでこの肉を焼くことになっている。
事務所のスタッフさんたちが今日は四人。
俺と流花のマネージャーと、さらに野菜などの食材の準備のためにもう二人だ。
……俺と流花合わせも、一人あたり五体分の肉が食べられるし大丈夫だろうと思っていたのだが、
「………………う、うん。大丈夫」
流花の反応はあまりよくない。
……スタッフにそんだけ食べる人いるのか? これらをすべてステーキで焼いても、一枚200グラムくらいはあるはずだ。
多少の誤差はあるかもしれないが約3キロ分になるので、まあ大丈夫かと思っていたのだが、流花の返事は少し引っかかるような感じだ。
どういうことだろうと思っていたが、それはコメント欄を見て分かった。
〈そういえば、スタッフも一緒にいるんだっけ〉
〈スタッフはともかく……ルカちゃんも食べるんだよな?〉
〈ルカちゃん食べるなら話が変わってくるよな〉
「流花も食べるが……どういうことだ?」
不穏なコメントの数々に俺は首を傾げる。
〈足りないぞw〉
〈ルカちゃんの食べ放題配信とかみたことないか?〉
〈ルカちゃん、めちゃめちゃ食うぞ?〉
〈コラボ配信で皆で雑談しているときも、ルカちゃんずっと注文してて草生えたんだ〉
……マジ?
流花の細身の体をじっと見ると、彼女は顔を真っ赤にして首を横に振った。
「……きょ、今日はあくまでお礼の配信だから。私はそんなに食べない」
「そんなに?」
「……人より少しだけ食べる量は多いから、驚かれるかも、だけど……」
頬を赤らめながらそっぽを向く流花。
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