第29話
俺が校庭に出るころには、生徒たちもすでに集まっていた。
中等部の一年から始まると聞いていたが、まだ幼さの残る顔たちをしている子どもたちが多くいる。
……ちらと視線を向けると、端のほうにはマスコミの姿もあった。
カメラがいくつか向けられていて、何やら報道している様子もある。
「……あちらは迷宮省の関係のマスコミですね。本日に関しては多少ニュースにも流れるので」
「うえ、マジですか? 俺あんまり映りたくないんですけど……あっ、一緒にマヤチャンネルの宣伝とかもできますか?」
「……露骨に宣伝はできませんが、こういうチャンネルを運営している、位なら可能ですね」
「じゃあ、それやってくれるように伝えてもらっていいですか?」
「分かりました」
下原さんが苦笑しながら、マスコミのほうへと向かう。
これでまたマヤチャンネルも伸びていくはずだ。
「お兄さん。それじゃあ、私も配信していきますから。これからよろしくお願いします」
凛音の言葉に頷く。
といっても、今日の配信は垂れ流しのような状態だ。
別に俺が何か話をする必要はないので気楽なものだ。
「了解。とりあえず、あの壇上に上がればいいのか?」
校庭にはおあつらえ向きに壇上が用意されている。
すでに生徒たちの視線がこちらに集まっていて、早いところ始めたほうがよさそうな空気が出ている。
「はい、大丈夫です。それじゃあ、お願いしますね」
凛音がカメラをこちらに構えていて、俺はすたすたと壇上へと向かう。壇上にはマイクも用意されていて、俺はそれを手に持った。
一学年、だいたい100人程度とは聞いていたが、壇上からずらりと眺めるとなかなかの迫力だ。
こんなに期待されているところ申し訳ないが、そこまでのものはできないぞ?
生徒たちはジャージ姿だが、今日ばかりは全員左胸に番号札をつけてもらっている。
さすがに、全生徒の名前を把握するのは無理なので、何か指示を出すときはこの番号で呼ぶというわけだ。
『あー、あーマイクテスマイクテス。よし問題ないな。そんじゃ、皆さん。初めまして? でいいのか? 今日は一学年あたり一時間ほどで冒険者としての指導を行っていくんで、よろしく。まあ、指導っていってもやることは魔力を正しく使えているかの確認くらいのものだからそんな肩ひじ張らずに受けてくれればいいんだけど……とりあえずさっさとやっていこうか。ほれ、全員身体強化を普段通りに使っていってくれ。問題があれば、適宜指導していくからな』
俺がいつもの調子で始めると、少し生徒たちは動揺しているようだったが、すぐに魔力を使い始めていく。
それでだいたい分かったので、四つのグループに分ける。
まったく使えていないグループ、そこそこ使えていないグループ、そこそこ使えているグループ、かなり使えているグループだ。
かなり使えているグループは極めて少ないな。
一番時間のかからないかなり使えているグループから指導を行っていく。
「君たちはもうかなり練度は高い。あとは、魔力をより引き出していって、身体強化の限界値を伸ばしていくことだ。全員、俺の……まあ体のどこかに触れてくれ」
手で、と思ったが10人くらいいるからな。
それでも、俺の周囲を囲んで十人ほどが限界だ。
「え? い、いいんですか!?」
「お、お兄さんのお兄さんとか……」
「セクハラした奴は警察呼ぶからな」
一部過激な奴らがいるのだが、中学生というのはこういうものなのだろうか?
俺の背中や肩、手を握りしめてくる人たちがいる。まるで福を授かるかのように撫でまわしてくるやつもいるのだが、これは警察案件でいいのだろうか?
ともかく、ひとまず魔力操作はできるようになった。
「お兄さん、それって相手の魔力操作をするために触れさせているんですよね?」
凛音は、配信で解説するために問いかけてきたようだ。
「ああ、そうだ。それじゃあさっきと同じように全員身体強化を使ってくれ」
凛音に答えると、すぐに配信のほうで解説をしてくれる。今日の配信はこんな感じだ。事前に凛音には指導をしているので、だいたい内容は分かってくれている。
皆の魔法の様子を確認した俺は、まだ使いきれていない魔力を操作していく。
全員のものを同時にだ。
これは結構疲れる。人によって限界値が違うので、わりと繊細なのだ。
「え!?」
「な、なにこれ!?」
「その状態が、おまえらの魔力をさらに引き出したときの身体強化だ。皆バランスのよい身体強化はできているんだけど、まだまだ優等生すぎるんだ。もっと使える魔力はあるから限界を伸ばしていくように。使えば使うほど、成長していくから自分の体内の魔力が成長したと思ったらさらに先を目指すようにな。疲れるし、負担もあるけどそうすれば確実に成長していくからな」
失敗すれば痛みもあるが、その失敗ぎりぎりの身体強化を繰り返していけば成長できる。
それらを伝えていくと、皆感動した様子だった。
「は、はい!」
「す、すげぇ……まだこんなに使いきれていない魔力があったなんて……」
「さすがに、この量の制御は……難しいな……」
とはいえ、今の時点でかなり使いこなせている彼らはある程度コツをつかむのも早いようだ。
すぐにそれなりに形になる人たちも多く、まあこのグループの指導はこのくらいでいいだろう。
「魔法を使う場合も同じだからな? とにかく、扱いやすい状態をさらに超えるラインで訓練を積んでいくようにな。このグループは以上。次の第二グループと交代だ」
『ありがとうございました! お兄さん!』
「大合唱でお兄さんと呼ぶんじゃない」
全員が声を合わせて頭を下げ、別のグループと交代する。
……同時に指導していくので、凛音にしたときのように徹底的に教える時間はないが、感覚を理解するには十分だ。
一番使えていなかったグループには、特に時間を使って指導をしていき、皆が最低限今後も自主的に訓練ができる程度まで引き上げたところで、予定していた一時間は終了となる。
すでに校庭には次の学年の生徒たちも集まり始めている。
俺は軽く息を吐いてから、最後にマイクで全員に話をする。
『今日の指導で劇的に強くなるわけじゃなくて、今日教えたことを徹底的にやり続ければ。俺も同じように訓練していって、今の力を身に着けたわけだからな』
俺だっていきなり今の力を出せるようになったわけじゃない。
そのことを、皆が理解してくれれば何よりだ。
『そういうわけで、解散だ。皆、頑張れよー』
ひらひらと手を振ると、皆から感謝の言葉が返ってきて最初の指導は終わりとなる。
二十分ほどの休憩を挟み、次の中等部二年となる。
休憩時間の間に校庭では生徒たちがクラスごとに並んでいき、俺は用意してもらっていた飲み物をいただく。
オレンジジュース。霧崎さんが用意してくれた二リットルのそれを飲んでいく。
「これなら黒竜と戦ってるほうが気楽だな」
「お兄さん……コメント欄が草まみれになってます……」
「ああ、まだ配信はやってるんだっけ? どうも、マヤチャンネルの登録よろしくなー」
「はいはい。いつものですね。私とお兄さんのもよろしくお願いしますねー。って、そうじゃないです。今回のお兄さんの指導の目的は、感覚をつかんでもらう、という感じですかね?」
「そうだな。あくまで俺は努力の方向性を示しただけで、ここから成長できるかどうかは本人次第って感じだな」
「そうですね。でも、私も簡単に指導受けましたけど、その感覚を覚えて訓練していかないと意味ありませんもんね」
「そういうわけだ。って、もうそろそろ次始まるよなー、トイレにでも行ってくるか。あっ、そこも撮影するのか?」
「し、しませんよ! いいから早く行ってきてください!」
顔を赤くした凛音に苦笑しながら、俺はトイレへと向かった。
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