第28話
俺は薄着ではあったがフード付きの服を身に着け、第三冒険者学園へと来ていた。
……最近は素顔晒して歩いているとあちこちで声をかけられるからな。
フードをかぶり、気配を消していれば案外気づかれないで済む。なぜ日常的に訓練をしなければならないのか、という思いはあるが。
今日、俺はこの学園の講師として、中等部、高等部の生徒すべてを指導することになっている。
学園の裏門に来た俺は、そこで霧崎さんに出迎えられる。
なぜか、安堵した様子の霧崎さんに首を傾げる。
「どうしたんですか? 何かありました?」
「何もなくて安堵していたんです。寝坊しなかったんですね」
「麻耶に起こしてもらったので、凛音もおはよう」
霧崎さんの隣にいた凛音に声をかけると彼女はぺこりと頭を下げてきた。
「……はい、おはようございます」
ただ、この前と比べると少し元気がないように見える。
黒竜の迷宮に連れまわしたことが影響しているのかもしれない。
……まあもう俺ができることはない。
凛音がどのような決断を出すか、俺は見守るしかなかった。
「それでは、行きましょうか。神宮寺さん、案内お願いしてもいいですか?」
「はい。こちらから来てください」
凛音が先頭を歩き、俺と霧崎さんは彼女の後ろをついていく。
裏門から校舎へと入る。学園内では特に変装する必要はないのだが、朝早く来ていた生徒たちとすれ違うたび、「うそ!?」、「本物だ!?」という声が聞こえてくる。
その反応が完全にテレビに出るような有名人に対してのもので、頬がひきつってしまう。
「……なあ、凛音。俺って学園だと結構有名なほうなのか?」
「たぶん、下手な芸能人よりも知られていると思いますよ……ていうか、冒険者界隈でお兄さんのことを知らない人はほとんどいない可能性が高いです」
「……え? そこまで? マジ?」
「マジです」
凛音が微笑とともに言ってから、霧崎さんがあきれた様子で答える。
「……一応、迅さんはすでに登録者数100万人突破しているんですからね? うちの事務所の通例だと、イメージソングの発表とかもあるくらいなんですが……」
「いや、そんなのやらないです」
「……ですよね。ただ、あとで記念配信くらいはやってくれ、という話ですのでそこだけはお願いしますね」
「今回のに、記念配信、ってタイトルつけておけばいいんじゃないですか?」
「ダメです」
俺の見事な提案を霧崎さんは一瞬で否定した。
……残念だ。
「あっ、こちらが職員室になりますね。中で冒険者協会の方ももう待っているみたいですね」
霧崎さんの言葉に、俺は首を傾げた。
「冒険者協会?」
「今回の指導の依頼も冒険者協会を通してでしたからね」
「ああ、そういえばそんなことちらと言っていましたね」
「……冒険者学園は基本的に協会、もっといえば迷宮省の管轄ですからね」
霧崎さんがそういってから、服装を少し正して中へと入る。
職員室へと入ると、皆の視線が集まる。
……教員たちの視線も、途中ですれ違ってきた生徒たちのものに似ている。
その中で、ひときわ異彩を放っていたのは、スーツをきっちりと身に着けた男女一名ずつの人たちだ。
魔力が濃く、纏う雰囲気からして熟練のものだ。
彼らが、恐らく冒険者協会の人たちだろう。
すっとこちらにやってきた二人が、名刺を取り出す。
「初めまして、冒険者協会所属の下原正太郎と申します」
「同じく。冒険者協会所属の飯原茜と申します」
二人がすっと名刺を差し出してきて、俺はとりあえず受け取る。
ただまあ、俺は何もないので、あとは霧崎さんに任せる。
「初めまして。こちらの鈴田迅のマネージャーを務めている霧崎奈々です」
霧崎さんが二人と名刺を交換する。
それから下原さんの視線が俺へと向いた。
「鈴田迅さん……ですが、お兄さんと呼んだほうがよろしいでしょうか?」
「お兄さんは勘弁してください。鈴田でも迅でもどっちでもいいですけど、どっちかでお願いします」
さすがに明らか年上の下原さんにその呼ばれ方はな……。
俺の言葉に、下原さんは微笑んでいた。
「冗談です。鈴田さん。まずは今回の依頼を受けていただいてありがとうございました」
「いや、まあ子どもたちの支援に関しては俺も別に嫌じゃないですし」
「それなら良かったです。本日は私たちもお兄さんの指導を拝見させていただこうと思っていますので、よろしくお願いいたします」
「あっ、こちらこそ。でもただ魔力反応見て、おかしな部分があれば指摘するだけですよ?」
今日の指導の流れは、だいたいそんな感じだ。
あまり時間も確保できないので、そのくらいしかできない。
「……指摘するだけ、というのでも常人では難しいことなんですが」
「そうなんですか? 高ランク冒険者ならある程度魔力を感じ取れるんですよね?」
「それは、そうですが……ですが、鈴田さんのように正確にはっきりとは感じられません。あくまで、自分より格上か格下か。その程度の判断ができるくらいです」
「……そうなんですね」
「だから、鈴田さんのそれは凄すぎますよ」
他のSランク冒険者との交流はほとんどないので俺も詳しくは分からない。
ただ、冒険者協会の人が嘘をつくはずもないので、そういうことなんだろう。
時計を見ていた霧崎さんが、口を開いた。
「そろそろ時間ですので、校庭に移動しましょうか」
……確かに開始の時間だ。
学園生にはせっかくの授業一時間分を潰してもらっているため、無駄にはできない。
「それじゃあ、行きますか」
こうして、俺たちは校庭へと向かっていった。
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