第143話





「”おまえがジンだな?”」


 こちらを見てくるのは頭一つほど大きな男性だ。

 その近くには、ジェンスとその取り巻きたちもいる。

 ジェンスが以前やったことを覚えていたので、俺としてはあまり友好的な気持ちはない。


「”誰だあんた?”」


 恐らくは彼がヴァレリアンなのだろうが、初めて見るので問いかけた。


「”オレを知らずに、冒険者をやっているのか?”」

「”別にいいだろ。何の用だ? 今は麻耶のビーチバレーを見るのに忙しいんだが?”」

「”……オレの仲間たちを随分とコケにしてくれたようだな”」

「”……ああ、もしかしてその仇討ちってか?”」

「”仇討ち? ”」


 同時に魔力を放出しこちらへと踏み込んできた。

 一撃目の拳をかわすと、すぐに蹴りが放たれ、俺は海へとはじきとばされる。

 海に沈む前に足場を作って体勢を整えたが、背後から蹴りを放たれる。


 俺は振り返りながら、ヴァレリアンの拳に合わせ、拳を振りぬく。

 お互いの拳がぶつかりあい、俺の体が弾かれる。


「”堅実鎧(プロテクトアーマー)”」


 ヴァレリアンが叫びながら足に鎧をまとい、蹴りを放つ。

 それが俺の腹部を捉え、弾かれる。

 砂浜を転がるように体を起こした瞬間、地面へと叩きつけられる。


「”どうした!? その程度か!?”」


 ヴァレリアンが拳を何度も振りぬいてきて、叩き潰される。

 そして――足を掴まれ、放り投げられる。


 俺が地面を転がった先は、ジェンスの前だ。

 ジェンスが俺を見て、楽し気に見下ろしてくる。

 同時に、ヴァレリアンが近づいてくる。


「”まだ息はあるだろう? ジェンスたちに謝罪すれば、許してやる”」


 俺を見下ろす視線の数々。

 俺はゆっくりと体を起こしてからジェンスたちを見る。


「”謝罪? なんで俺がそんなことしないといけないんだ?”」

「”まだ減らず口を聞く元気があることだけは認めてやろう。貴様が、ジェンスたちに傷をつけたからだ。オレの大切な仲間を、よくもやってくれたな”」


 一方的に無茶な行為をしてきて、それで仲間の仇討ちって……いちゃもんのつけかたがうまいことで。


 それか――ジェンスが嘘を吐いたか。

 だとしたら、いい機会ではあるか。

 誤解したまま、というのはアレだが――せっかくの機会だしな。


 これほどの力を持った相手と戦えることは、そうそうない。

 ……悪いが、俺もそれなりに戦うのは好きなほうなんでな。


 思わず口元が緩んでしまった俺を見てか、ヴァレリアンが眉間を寄せながら蹴りを放ってきた。

 ヴァレリアンの蹴りをかわすと、すかさず拳が迫り俺の腹部を捉えた。

 弾かれながら俺は冷静にヴァレリアンの様子を確認していく。


「”……オレも殺すつもりで来たわけじゃないんだぞ? いい加減にしないと――”」

「”殺す?”」


 俺は小さく息を吐いてから、ヴァレリアンの手首を掴んだ。

 振りほどこうとしたヴァレリアンだったが、俺が思いきり力を入れると顔を顰める。


「”貴様……っ”」

「”一方的にボコしたら、そっちがなんで来たのか理由が聞けないからな。それで、俺の麻耶のビーチバレー観戦を邪魔しにきた理由はそんなものなのか?”」

「”なんだと……っ? 舐めたことを言っているんじゃないぞ”」

「”そっちこそ……さっさと全力出してくれないか? 俺は相手の手の内を全部見てから相手を倒すようにしてるんだよ。そうしないと、相手が可哀想だろ? まあ、人の命がかかっている状況とかは別だけどな?”」

「”舐めたガキが……っ。まるで、勝つことが前提だな”」

「”ここがどこか知っているか?”」

「”……何?”」

「”俺が麻耶の前で負けるわけないだろ?”」

「”……やれるものならやってみろ!”」


 ヴァレリアンが拳を振りぬいてきた。

 特殊魔法は使用していないな。

 まだ本気を出してくれないのか。なら、本気を出させるまでだ。

 俺はその拳を片手で払い落としてから顔面を殴りつけた。

 吹き飛んだヴァレリアンがすぐに体を起こすが、その背中を蹴り飛ばす。


「”がっ!?”」

「”ば、馬鹿な!? ヴぁ、ヴァレリアンさんが……っ!?”」

「”そ、そんな……っ。あ、ありえない……っ!?”」

「”な、なぜあの男は怪我をしていないんだ!? あれだけヴァレリアンさんに殴られたくせにっ!”」


 そんなもの、身体強化でそもそも喰らっていなかっただけだ。

 悲鳴のような声がジェンスたちがあげているが、恐らくヴァレリアンが彼らの最後の手なのだろう。

 砂を払い落しながら体を起こしたヴァレリアンは、額から血を流していた。


「”はっ、そんなに見たいのならば……みせてやろう。オレの特殊魔法を――”」


 ヴァレリアンがそう言った瞬間、その全身を鎧のようなものが覆っていく。

 最初に部分的に展開して攻撃してきたが、あの完全武装した状態がヴァレリアンの本気なのだろう。






―――――――――――

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