第170話




『ま、まさか美也が鈴田さんと付き合っているとかそういうわけじゃありませんよね!?』

「迅、どう返答したらいい?」


 美也はからかうようにこちらを見てくる。

 どうやらこの状況を楽しんでいるようだ。最初から、俺を使ってマネージャーをからかいたかったのかもしれない。


「正直に話せばいいんじゃないか?」

「えー、それじゃあ恥ずかしいしー」

『かっ……! はっ……!?』


 何か吐血したかのような音が聞こえているんだけど、マネージャーさん大丈夫か?


「まあ、ただ名前で呼び合ってるだけだから気にしないで、今は、ね。それで……とても申し訳ないんだけど、今からだと一時間くらいかかるっていうか……」

『わ、私の美也が……私の美也が……が、あ……み、美也。分かったから、とりあえず戻ってきてください……』

「ほんとごめんなさい……次からは気を付けるから」

『い、いいわ……わ、私も復活まで……時間……かかるから……』


 何やら生気が抜かれたかのような美也のマネージャーさんに、美也は電話越しで必死に頭を下げていた。

 美也とマネージャーの会話を聞きながら……俺はマネージャーの魔力を探っていく。

 以前、撮影のときに会っているので魔力自体は覚えていた。

 あと、美也の事務所の場所がリトルガーデンから比較的近いことも聞いたことがあったので、その辺で探知していく。


「有原、ちょっとマネージャーさんにお願いしてもいいか?」

「え? 何を?」

「魔力を練り上げてくれないかだ」

「え? ……あー、マネージャー。魔力ちょっと練り上げてくれない?」

『……え? い、いきなり何ですか?』

「とにかく! ほら、トイレで踏ん張るみたいなつもりで、お願い!」

『……いや、普通に練り上げるだけですから』


 そうマネージャーが言ったとき、俺が狙いをつけていた魔力が膨れ上がっていった。

 よし、これで間違いなさそうだ。

 俺はすぐにシバシバの空間魔法を発動し、無理やり穴を広げてから中を通る。

 そこには、マネージャーがいて、ぎょっとした目でこちらを見てきた。


「な、なぜここが分かったんですか!?」

「さっき魔力を練り上げてくれっていったじゃないですか。それです」


 俺が答えると美也のマネージャーは頬を引きつらせていた。


「……いや、凄すぎてやばいです」

「あっ、お届けものです」


 俺は美也を引っ張ってマネージャーの前に移動させた。

 美也はひらひらと手を振り、マネージャーの隣に並んだ。


「……はぁ、まったく。美也……? 最近ちょっと迷宮に潜りすぎよ」

「……それはでも、あーしの夢の一つだし」

「そ、それと……さっきの件なんだけど………………本当に二人の関係は」

「それはまあ、今後次第じゃない? ね、迅」

「まあ、仲はいいけどあくまで冒険者仲間って感じですよ」


 あまりにも美也のマネージャーの体から生気が抜け出しているので、一応ちゃんと伝えてあげるのだがマネージャーはどうにも半信半疑という様子だ。


「美也がこんなに可愛いのに、何も進展しないなんてありえません……っ」

「確かに美也は可愛いですけど、だからって何かあるとは限らないじゃないですか」

「いや、ありえません!」

「そこまで断言できるって何か根拠でもあるんですか?」

「私が男なら、マネージャーの立場を使ってあれこれしてやりますから!」

「えぇ……」


 美也は会話に混ざらず照れた様子で頬をかいている。

 いいのか、このマネージャーで。


「それで、どうなんですか鈴田さん……っ」

「確かに美也は可愛いですが、それでも俺の心には天使麻耶がいます。あなたが美也信者なら分かりますよね?」

「……それはつまり、色々な関係を持ちたいということですか!?」


 邪教徒か?

 俺の推し活理論では、推しのことは応援するがプライベートはわける考えだ。

 マネージャーが俺と相反する考えをもっているのは確かだ。

 そう言われると、マネージャーは困ったように額に手をやって、頷いた。


「と、とにかくね。美也。……あんまり異性と行動しすぎなのもよくないわ。他の人に見られたらどうするのよ? 迷宮内で見られたら、迷宮デートとか疑わちゃうでしょ?」

「あっ、じゃあ、彼氏的なことにしちゃうってのはどう? そうしたらあーしへの変な付きまといも減るっていうか……」


 勝手な提案をするんじゃない。

 マネージャーは頭を抱え発狂してから、叫ぶ。


「仕事が減っちゃうわよ! 美也の魅力を全世界に発信できなくなるわ! 何よりあなたの夢の、一流モデルだって遠ざかるかもしれないわよ!」

「……うーん、そこは売り方次第だとは思うけど。まあ、とりあえず迅。ここまでありがとね」

「あああああああああ! 私の前で親し気に男の名前を呼ばないでぇぇ! 美也ぁぁ!」

「もう、ちょっとうるさいよマネージャー」


 ……美也も色々と苦労しているのかもしれない。

 俺は俺に関わってくる変人たちを脳裏に浮かべながら、美也に少しだけ同意した。


「ああ、また今度な。マネージャーさんも、ちょっと迷惑かけちゃってすみませんでしたね」

「………………いえ。まあ……色々とありがとうございました。美也、行きましょう……」

「うん、それじゃあばいばーい」


 美也はひらひらと手を振り、マネージャーは目に敵意を忍ばせながらも頭を下げてくれた。

 とりあえず、今回は問題なさそうだったが……これからは俺も彼女の予定をちゃんと聞いたほうがよさそうだ。

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