第171話
レコール島。
太平洋にあるこのレコール島は、決して大きくはないが冒険者たちがまとめあげる一つの冒険者島として成り立っていた。
その島にいる人々の多くが、冒険者として活動しており、たくさんある迷宮から自由に選んでそれぞれが攻略していた。
そんな、レコール島にいたSランク冒険者の一人にして、世界ランキング三十位の冒険者、リョイルは数名の部下を連れて街のパトロールを行っていた。
彼はレコール島を管理している冒険者ギルド【バウンティハント】の人間だ。
島に滞在している冒険者が多い都合から、街の治安維持を行うには実力のある冒険者たちが必要であり、この【バウンティハント】にはそんな冒険者が多く所属していた。
パトロールとはいえ、今では【バウンティハント】に逆らうような愚かな冒険者などいなく、どちらかといえば迷宮などを見て回るほうがメインとなっていた。
今日もリョイルは部下を引き連れ街を歩いていたのだが、そのとき、異変を感じていた。
「……おまえたち。今異常な魔力を感じなかったか?」
「……いえ、私は特には」
「俺も特には感じませんでしたけど、何かありましたかね?」
「……」
リョイルは質問しながらも、その一瞬感じた異様な魔力の原因を探るため、動き出していた。
この場にいた冒険者の中で、リョイルがもっとも実力ある冒険者であるため、自分の勘を信じての行動だ。
彼らとともに魔力を感じ取った先へと向かったときだった。
「……なっ!?」
声を張り上げたのは、リョイルの部下たちだった。
リョイルもまた声をあげそうになったが、それでも冷静にそれを見ていた。
とはいえ思わず冷や汗が浮かぶほどの強力で嫌な魔力が感じられていた。
リョイルたちの眼前には巨大な迷宮があった。
「こ、この迷宮って……Gランク迷宮だったものじゃないですか……?」
「……場所的に、そうかもしれないな」
元々ここには小さなGランク迷宮の入口があったのだが、今ではその面影がないほどに成長してしまっている迷宮があった。
大きな洞穴は生み出される魔力を含め、まるで地獄の入口のようにも見える。
「ひとまず、本部に連絡を――」
リョイルがそう言いかけたときだった。迷宮の入口の階段を駆け上がるように一体の魔物が姿を見せた。
人型をしたそいつは右手に一人の人間を掴んでいた。
すでに息はなく、無残な死体となってしまっている。
突然変異に巻き込まれてしまった冒険者だろうとリョイルは思いながら、腰に差していた剣へと手を伸ばす。
「リョイルさん! この迷宮、すでに迷宮爆発を起こしています!」
「迷宮のランクはいくつになる?」
「……携帯測定機では記録できないほどの数値です! Sランク迷宮……いえ、それを遥かに超えていま――」
そう声を上げた隊員へ、一瞬で距離をつめたのは現れた魔物だ。
そいつは人型をしたカマキリのような見た目をしていた。
人間でいう両腕の部分は、両刃の剣のようになっていて、その腕がまさに今、測定器を所持していたAランク冒険者へと振り下ろされ――。
リョイルはすかさずその間に割って入り、自身の得物である剣で受け止めた。
両腕がへし折れそうなほどの威力に、リョイルが顔を顰めていると、そこでようやく気付いたAランク冒険者が顔を真っ青にしていた。
「おまえたちは……っ、すぐに本部へこのことを報告しろ!」
「りょ、リョイルさんは!?」
「こいつを倒したらすぐに本部へ戻る……っ!」
リョイルは力を込め、魔物を弾き飛ばした。
恐怖に支配されていた部下たちがそれでも、すぐに皆が動き出し、迷宮から離れていく。
【バウンティハント】ではどんな状況でも動けるように訓練していたため、それが活きた形だ。
リョイルは力を込めてカマキリの魔物をはじき返し、改めて剣を握りしめなおした。
「おまえがボスなら……ここで倒して迷宮爆発を止めてや――」
リョイルがそう言いかけたときだった。
ぞろぞろとカマキリのような見た目をした魔物たちが迷宮から現れる。
「……ま、さか」
迷宮爆発は、発生してから一定時間は通常モンスターが出現し、その後でボスが姿を見せることが多い。
多少のイレギュラーはあるが、この迷宮も同じ基本を守っているというわけで。
「こいつが、通常モンスターだ……と……」
焦りと驚き。
一体のカマキリと切り結んでいたリョイルは、後から生み出されたカマキリにまで対応が間に合わない。
数の暴力。
リョイルは周囲を魔物たちに囲まれてしまい、抵抗むなしく胸を貫かれてしまった。
【バウンティハント】のリーダー、レイネリアは部下の報告を受け、事態の深刻さを瞬時に理解していた。
「……つまり、Sランク級の魔物たちが今もあふれだしている、ということですね」
報告を受けたレイネリアもまた、すでにレコール島で発生していた異常については理解していた。
島全体を覆いつくすほどのまがまがしい魔力だ。
高ランク冒険者であれば嫌でも感じ取れるほどのものだったからだ。
「……は、はい。レイネリア様……どうしましょうか」
完全に怯えきってしまっていた冒険者たちに、レイネリアは小さく息を吐いた。
彼女はリョイルの魔力が小さくなっていくのを感じ取りながら、ぐっと唇をかんだ。
「……この事態は、Sランク冒険者だけでは手に負えません。他国の災害級の冒険者に依頼を出すしかありません。すぐに各国の冒険者協会へとこのことを伝えてください!」
「分かりました……っ!」
レイネリアは自身の大事な部下の悲しみにふける暇などなく、すぐに己のもつ結界魔法の展開を開始していった。
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