第172話
――レコール島で迷宮爆発が発生して数時間後。
各国への要請の返事はまだ帰らないまま、レイネリアたちは結界の外に拠点を構え、Sランク迷宮を眺めていた。
実際、計測器の示した数値はSランクの中でも上位のものだったが、それ以上のランクはなかったため、暫定的にSランク迷宮と名称した。
災害級の迷宮――そういうこともできたが、その文字の与える絶望感から、迷宮に対して災害級という言葉は過去一度も使われたことがない。
あくまで、人類の最強が迷宮の最高難易度を上回っている。世界はその状況を求めているからだ。
もしも、誰も攻略不可能な迷宮が存在してしまったら……?
そのときは全世界の人々に恐怖を与えてしまうから。
レイネリアたち【バウンティハント】は、レイネリアの構築した結界の外から時々チームで連携し、少しずつ魔物を討伐していたが、迷宮爆発の原因を倒せていないため、状況は悪くなっていく一方だった。
そんな時だった。
「れ、レイネリア様! ゴルド様から連絡が来ました!」
「ゴルド……確か、世界ランキング四位の冒険者ですね」
彼は世界ランキング一位のルーファウスと同じで、ギルドに所属はしていないし、どこかの国に留まっているということはない。
転々とそれこそSランク冒険者の特権を活かし、全国を旅行している人だった。
ただ、彼はホームページを持っていて、金になる仕事であればどんな仕事でも引き受ける、という冒険者でもある。
今回、報酬に関しては出せるだけ出すつもりであったため、レイネリアたちもゴルドに連絡を取っていた。
「お繋ぎしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いません」
電話を転送してもらったレイネリアは、すぐに耳に受話器を当てた。
電話口から、ひくっとどこか酔っ払いのような声が聞こえたと思ったら、それから低い男性の声が響いた。
『レコール島の担当者か?』
「……はい。レイネリアと申します」
『こっちの自己紹介は必要ねぇな? 世界最強のゴルド様だ』
災害級の冒険者たちは、世界ランキングこそ発表されていたが皆の実力は大きく変わらない……とされている。
特にゴルドは、自分こそが最強だと考えていて、自分の上に数人もいるという現状が気に食わないとは何かでインタビューされるたびに話していた。
レイネリアはなるべく彼を刺激しないよう、落ち着いて丁寧に対応する。
「……ゴルド様。すぐに対応していただきありがとうございます。連絡いただけたということは、今回の依頼を受けてくださる……ということでしょうか?」
『報酬次第だがな』
「……報酬に関しては、二億出しましょう」
『そいつは最低限だな。今回のレコール島の迷宮爆発、やべぇんだろ?』
報酬に関してはいくらでも用意はしている。
ただ、それでも見合っていない金額を出すつもりはなかった。
「……そうですね。五億までは出せますが――」
『それなら、まあいいか。そんで、一つ確認したいんだが、今回の依頼はオレ以外にも出してるよな?』
「そうですね。どの方が受けてくださるかは分からない状況でしたので」
それに、レイネリアは災害級一人でも対応しきれるかどうか分からないと考えていた。
だからこそ、現在災害級が拠点としているアメリカ、中国、日本にはもちろん連絡をしていたし、特に所属先を決めていない人たちにも伝わるようにメディアでアピールもしていた。
しかし、そこでゴルドの声の調子が変わった。
『それに関してだが、オレ一人で受けさせろ。代わりに、全員に支払う報酬ももらうがな』
「……ですが、危険な迷宮です。万が一のことも――」
『……オレが攻略できないとでも思ってんのか?』
怒気の含んだ声に、レイネリアは眉間を寄せるしかない。
彼の意見には反対だったレイネリアだったが、ここでゴルドの協力を断りたくもなかった。
ゴルドは国のしがらみなど関係なく依頼を受けてくれる人間でもある。
だからこそ、真っ先に連絡が返ってきたのであり、ここで断られることは避けたかった。
万が一、各国に断られた場合、レイネリアたちは自力で解決するしかなく、そしてそれは不可能だと理解していた。
それでも、レイネリアはこの迷宮の危険性を把握していたため、ゴルドの提案は無謀だとも考えていた。
「いえ、そういったことではなく……」
うまい言い訳が思い浮かばず、言葉を濁しているとゴルドからはさらに怒りを感じられた。
『こっちはな……色々と気に食わなくてな。そもそも、オレは世界最強だっていうのに、世界ランキングの三位だぜ? そんでもって、この前いきなり出てきた頭のイカれた東洋人のほうが上? それで、四位に格下げ? 冗談じゃねぇ』
「……つまり、あなたは自分の立場をあげるために、今回の依頼を一人で受けたい、と?」
『ああ、そういうわけだ。今回の迷宮攻略で改めて誰が最強化を証明してやろうってわけだ。普段のオレ様はこんな面倒なクエストは受けやしねぇがな。世界ナンバースリーとナンバーフォーだと、ナンバースリーのほうが聞こえがいいだろ?』
「……そうですね」
災害級の人間は皆自分の力に自信を持っている。
彼らは生まれおちた瞬間からの天才が多く、低ランクから順調に成長していった……という人は少ない。
だからこそ、災害級の人たちは自分の力を過信してしまう傾向が強かった。
「ですが……通常モンスターであるブレードマンティスでさえ、Sランク冒険者複数で対応する必要があるほどの脅威です。本当に、大丈夫なんですね?」
『当たり前だ。今からそっちに行って、オレこそが世界ナンバーワンの災害級ってことを見せてやるよ』
にやりと笑みを浮かべる彼に、レイネリアは不安を覚えながらも従うしかなかった。
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