第62話

 流花とともに迷宮を進み、俺たちは五十階層まで来ていた。

 途中、流花に指導をしていたのだが……流花もかなりの才能を持っている。

 少し指導しただけでも、三十一階層からの魔物ともそれなりに戦えるようになっていて、三十一階層から四十階層までは流花メインで戦い、俺はカメラマンのような立場になっていた。


 そして、今は俺がメインで戦闘だ。

 五十階層に現れる魔物は、グラントレックスという魔物だ。

 恐竜のような形をしていて、ティラノサウルスなどが近いか。

 ただ、体はそれほど大きくはない。全長で四メートルほどだろうか。

 見た目は青と緑の鱗を持っていて、非常に頑丈だ。魔法への耐性が高く、生半可な魔法ではダメージを通すことは難しい。


 ぎろりと大きな瞳がこちらを睨みつけてきて、流花がカメラをこちらに向ける。


「お兄さん。あれが美味しい肉をドロップする」

「集めまくれば流花がステーキにしてくれるんだよな?」

「うん。色々料理あるけど、グラントレックスはバターとかと一緒に焼くかそのまま焼くのが一番おいしい」

「……確かに、美味しそうだな。んじゃ、行ってくるか」


 俺は小さく息を吐いてから、グラントレックスへと迫る。


〈……当たり前のようにお兄さん一人でAランク迷宮のボスと戦おうとしているけど、これおかしい光景なんだよなw〉

〈お兄ちゃんしか見てない人と前あったけど、冒険者を完全に誤解してたからな……〉

〈頑張ってお兄様!〉


 こちらに気づいたグラントレックスがぎろりとこちらを睨み、咆哮をあげる。

 そして、思い切り突進してくる。まずは、頭突き攻撃か。

 ……足は太く、その額を覆う鱗も頑丈そうだ。


 俺は大きく息を吸ってから、身体強化を高め――その突進を正面から受け止めた。


「……ガルルル!」


 唸るようにグラントレックスが声をあげる。噛みついて来ようとしたが、その口を押さえるようにして体を持ち上げる。


「お、お兄さん……っ!? マジ……っ?」


 落ち着いた口調の流花が驚いたように声をあげたが、俺はお構いなしにグラントレックスを放り投げた。


「が!?」


 壁へと叩きつけるが、グラントレックスは僅かに悲鳴をあげたが……それでもすぐに立ち上がる。

 ……そのとき――。

 俺は異様な魔力を感じ取った。もう少しグラントレックスと戦いたかったが、そんなことをしている暇はなさそうだ。


「悪いな。また今度、おまえの技は見せてくれ!」


 突進してきたグラントレックスの首に腕を振りぬいた。

 首を切断し、グラントレックスはそのまま倒れ、霧となった。

 素材は……あとで回収すればいいだろう。

 それよりも、俺は入り口へと現れた魔力たちに近づいた。


「"へぇ、ジャパニーズ。結構カワイイじゃん。どうだ? オレの女にならねぇか?"」


 外国人二人がいた。

 一人は女性、もう一人は男性だ。

 その男性が、流花の手首をつかみ、絡んでいる。

 ……これ、コメント炎上してんじゃねぇか?

 俺はそちらへと歩きながら、スマホを眺める。


〈おい!〉

〈こいつ、アレックスじゃねぇか!?〉

〈うお、マジのアレックスじゃねぇか!〉


 アレックス? あのスキンヘッドの男は、どうやら名の知れている人のようだ。


〈迷惑系配信者のアレックスがなんでこんなところにいるんだよ!?〉

〈お兄ちゃん助けてくれ! こいつSランクの冒険者で、色々面倒な奴なんだよ!〉


 ……流花の知り合い、ってわけではなさそうだ。

 流花は必死に逃げようとしているが、コメント欄を参考にするなら相手はSランク冒険者だし、さすがに抜けだすのは難しいだろう。

 ……以前も見知らぬ相手にいきなり迫られていたし、流花はもしかしたらそういう星の下に生まれてしまったのかもしれない。

 とにかく、可哀想なので、男の腕を掴みながら流花の前に立った。


 男性は怪訝そうにこちらを見てくる。その口元がにやり、と歪んだ気がした。


「"おいおい。いきなりなんだよ?"」


 男性……アレックスがこちらを睨みつけてきて、代わりに女性が一歩前にでて頭を下げた。


「初めまして。私はクレーナと申します。こちらは……アレックスです」


 日本語を話せるということは、通訳か。


「ああ、初めまして。それで何のようだ?」


 ……さすがにいきなり絡まれているのだ。友好的に接するつもりはない。

 流花が少し怯えてしまっているんだしな。


「……単刀直入に申しますと、ジンさん。これからアレックスと決闘を受けていただきたいです」

「……決闘? 俺に何のメリットがあるんだよ?」

「ジンさんにメリットはありません。ですが、受けなかった場合のデメリットはありますよ」


 クレーナは微笑とともに、一枚の写真をこちらに渡してきた。

 ……どこで撮ったのか分からないが、麻耶を隠し撮りしたものだ。

 いい角度である。だが、そこに映っている麻耶の写真は、こっちに来る前の麻耶とほぼ一致する。


「引き受けなかった場合、マヤさんに何かあるかもしれませんね」


 淡々とそう言ったクレーナのあと、にやにやと笑うアレックスがこちらを見てきた。

 ……こいつら。

 俺はちらとアレックスを睨み、そして。


「"麻耶に何をするつもりだ?"」


 魔力を込めた威圧的な英語をぶつけた。




―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


『楽しかった!』 『続きが気になる!』という方は【☆☆☆】や【ブクマ】をしていただけると嬉しいです!


ランキングに影響があり、作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る