第61話
俺の目標としては一つの階層を五秒ほど。
ボスモンスターのフロアは倒して、次の階層に進めるようになるまでの時間込みで、十五秒。
そう考えると、ざっくり五分もあれば到着する予定だ。
幸い、ここは平原のような造りとなっているため、空中に足場を使って跳躍して移動してしまえば、あっという間に次の階層へと行ける。
魔力の流れで次の階層に繋がる道も分かっているしな。
……五秒、切れる場合もあるな。
階段に関しては一番上から飛び降りるように移動して、一瞬で次の階層へ。
幸い、道中に人も見かけなかったので特に迷惑になるようなこともなかった。
そうして、予定より少し早く十階層に到着する。
「ギエエ! ギエ?!」
現れたのは美味しそうな豚の魔物。
ただ、すまないが構っている時間はない。
中ボスモンスターを一瞬で蹴り殺し、次の階層へ。
まあ、このくらいの階層なら魔物相手に時間がかかることはない。
あっという間に三十階層のボスまで到着し、そいつを仕留めて無事三十一階層へと到着する。
「お兄さん、来なかったら配信は私一人の雑談配信になるけ……ど」
「それなら、帰ってもいいか……」
カメラ見ながら雑談していた流花に声をかけると、
「は、へ!?」
彼女は階段を椅子替わりにしていたのだが、驚いたようで転びそうになっていた。
〈は!?〉
〈もうお兄さん来たのか!?〉
〈いや、さすがにやらせだろこれは……っ!?〉
〈途中で転移石使ったんじゃないか……?〉
「お、お兄さん……!? もう来たの!?」
「だから、事前に話してただろう。遅くても十分くらいだって」
「……いや、あれお兄さんのいつものジョークかと……」
「俺がジョークを言ったことあったか?」
「そういえば……いつも本人は至って真面目だった……」
なんだその言い方は。
頬を引きつらせている流花に、俺はスマホの配信を止めてからコメントを確認する。
〈お兄さんの配信見てたけど……全部の階層移動してたぞ……〉
〈ていうか、お兄さん視点のカメラがマジでやばかった。飛行でもしてんじゃないかって感じだったっ〉
〈お兄さんの高速移動みてるだけでドキドキするとか、マジもんだな本当に……〉
〈向こうの配信みてたけど、跳躍、滑空、跳躍、滑空……って感じで……人間の動きじゃねぇ……!〉
〈見てたけどまるで編集か切り抜き動画のようになってて草、いや草も生えねえわ……〉
〈お兄様……! さすがですぅ! 改めて惚れました!〉
〈ていうか、誰の予想も当たってなくて草〉
〈適当に言ったやつのコメントが一番近いっておかしいだろ……w〉
どうやら、皆を楽しませることはできたようだ。
「んじゃ、こっからは流花のチャンネルでやっていくから、見たい人はこっちにこいというわけで……んじゃ、この先行くか?」
「うん……ちょっと戦闘も見てほしいから。お願い」
「了解。んじゃ、行くか」
俺のチャンネルの配信は一度そこで区切り、俺は流花とともに三十一階層を進んでいった。
とあるホテルの一室。
一人の男女がそこにはいた。男性は筋骨隆々の体をしていて、女性は細身の体だ。
二人はどちらも外国人であり、日本へは表向き観光を目的に来ていた。
もう一つ、裏向きの理由があり、まさに今、女性はそれについての情報を男性に伝えるために来ていた。
「"……アレックス"」
「"ん? なんだ、クレーナ"」
そこにいた二人は英語で話していた。
一人はアレックス、もう一人はクレーナ。
女性はアレックスの通訳兼カメラマンを務めている。
アレックスは眠たそうに眼をこすりながら、女性のほうへ視線を向ける。
昨日は夜遅くまで色々と楽しんでいたアレックスは、頭痛を押さえつけるように頭へ手を当てながらクレーナへ視線を向ける。
「"アレックスが探していた、日本の配信者。ジン・スズタが、ちょうど今『美食の森』で配信しております"」
「"はっ、、ここから近いな?"」
「"ええ。それに、迷宮内にちょうどいますので……戦いを申し込むにはちょうど良いタイミングかと"」
「"はは、そうか。んじゃ、例の準備もしておけ。ジンとやらに、言い訳されたくはねぇからな"」
アレックスが笑みを浮かべ、クレーナは一礼の後ホテルの一室を出ていった。
それから、アレックスはカメラを回し、配信を開始する。
〈"おう、アレックスじゃないか"〉
アレックスは海外配信者であり、そのコメント欄も英語ばかりだった。
〈"なんだよ、日本のストリーマー見つけられたのか?"〉
「"ああ。今日のオレの獲物は日本で今一番人気のジンという男だ。お兄さんとかお兄ちゃんとか呼ばれている男だな。奴と戦い、ボコボコにしてくるぜ!"」
〈"はー、またかよ"〉
〈"おいおいwまた迷惑かけるなよ"〉
〈"前はやりすぎて捕まってんだからな"〉
〈"ほんとおまえ最低だからマジでやめろよ"〉
〈"他国の冒険者に迷惑かけるなよ……"〉
〈"おまえのせいで、他の冒険者が迷惑してんだよ、マジやめろよ"〉
「"そんなこと言って、てめぇらも楽しみにしてんだろうが"」
アレックスは、海外で活動している迷惑系と呼ばれる配信者だ。
他の冒険者に絡み、戦いを申し込み、相手をぼこぼこにする。……あくまで同意の上で、怪我をしても問題ないという誓約書をもらってから、戦闘を行っている。
その戦いに関しては、あくまで同意という話なのだが、同意をとる方法が、かなりあくどい。
家族を人質にとる……ように見せるのだ。
脅迫罪などで何度か厄介になったことがあるが、現在冒険者というのは立場的に守られやすい。多少の罪であれば、金を払えばいくらでも解決できてしまう。
それに高ランクの冒険者ともなれば、より特別待遇をされてしまう。
アレックスはなんだかんだいって、Sランク冒険者。
これまで、何度か他のSランク冒険者にも挑んでいるが、そのすべてを勝利でおさめているほどに無駄に実力もある。
だからこそ、狂信的なファンもついてしまっていて、配信が始まれば常にアンチとファンとの間での口論が繰り広げられるほどだ。
アレックスはそこで配信を一度きり、それからクレーナとともにホテルを出た。
「"アレックス。妹のマヤを誘拐した……という感じの画像ができました"」
「"ああ、了解だ。ジンは妹のことになるとマジ切れする可能性が高いからな。これでヤツが負けたときに、『本気じゃなかった』とは言わせねぇからな"」
「"もちろんです"」
「"言い訳はさせねぇぞ、日本の最強。あとで負けて、言い訳されたらつまらねぇからな"」
アレックスは勝利の光景をイメージし、笑顔を浮かべていた。
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