第60話


「わー、私のファンが暴れるかもと思ってたけど……お兄さんのファンのほうが暴れてない?」


 流花も同じように感じていたようだ。コメント欄を見て不思議そうにしている。


「つまり、俺の勝ちってことでいいか?」

「違う……っていつまでもこんな話をしている場合じゃなかった。お兄さん、無駄話はここまでにしないと」

「あー、了解了解」


 俺はそこで準備体操を始める。

 これからの予定の一つを考えながら屈伸などをしていると、


〈お兄ちゃんどうした?〉

〈お兄さん?〉

〈まだ一階層なのに、気合入ってるな珍しく〉


 コメント欄も俺のへかに気づいたようだ。


「お兄さん。それじゃあ私先三十一階層に転移石で移動するから。待ってる」

〈草〉

〈え? お兄ちゃんこっからダッシュするのかw〉

〈いや、普通に考えて無理じゃないか? 基本的に一階層辺り、早くても三十分くらいかかるよな……?〉

〈道中の魔物や中ボスがいることも考えたら普通に一日がかりになると思うんだけど……〉


 ルカがびしっと敬礼をして転移石へと向かおうとしたので、俺はその流花を呼び止める。


「ちょっと待ってな、流花。お前にこれを授ける」


 俺はカバンに押し込んでいたビブスを取り出し、それを流花に渡す。

 流花は不思議そうに首を傾げ、それを広げる。

 ビブスには全面と背面に大きなゼッケンがつけられており、QRコードがついている。


「……お兄さん? これ何?」

「え? バーゴードでマヤチャンネルのURLを読み込めるようにしてきたんだ。天才だろ?」


〈草〉

〈何やってんだこの馬鹿兄貴はw〉

〈てめぇのチャンネルのを作れよw〉


「…………前面、背面両方とも?」

「いやいや、今回はコラボって聞いてたからな? この背中のバーゴード読み取ってみろ」

「……え? もしかして私のチャンネル……? ――って、これお兄さんのチャンネル!」


〈草〉

〈まるでコラボを気にしていないw〉


 いい反応の流花に俺が笑っていると、流花はむっと顔を顰めた。


「何の打ち合わせもなしに変なことしないで」

「冗談冗談。ほれ、この裏にあるやつが流花のチャンネルだからな。この紙を破ればいいんだよ」


 裏は冗談のつもりでテープで紙を張り付けただけだ。

 なのではがすのは非常に簡単だ。

 すぐに外すことができ、そこにはちゃんと流花のチャンネルへと跳べるようになっている。


「……いや、それだと今度はお兄さんのは?」


 確認した流花が首を傾げている。


「いや俺のはいいんだよ! 麻耶が一番大事だ……っ! それと、つぎにコラボ相手だな! そういうわけで、マヤチャンネルの宣伝よろしくな」

「……うーん……うん。まあ、やっとく」


〈お兄ちゃん成長してるな……〉

〈ちゃんと配慮できるようになってるじゃないか……〉

〈これ感動していいのか……?〉


 コメント欄は困惑しているが、とりあえず納得はされたようだ。


「……色々、あったけど……とりあえず私三十一階層に移動するから。皆さんはお兄さんが何分で到着するか予想して」

〈何分……?〉

〈いや、マジで言ってんのか?〉

〈普通にさすがに無理だろ〉

〈お兄さんが規格外なのは分かったけど、これはまた別問題じゃないかて……?〉


 コメント欄には懐疑的なものが増えていたが、俺は特に気にせずに準備運動をつづけながら、スマホの操作を行う。

 そちらでは俺のチャンネルの配信もできるよう準備してあるので、配信を開始する。


「一応、移動中の様子はこっちで配信するけど、まあたぶん酔うから。注視しないようにな。あと、コメントされても見ないから、返事は期待しないように」

「あくまで、お兄さんのほうはズルとかされないように、ってことで。それじゃあお兄さん。私は三十一階層で待ってる」

「おう、了解」


 流花が手を振り、転移石で三十一階層へと移動する。


「んじゃ、そろそろこっちも出発するかね」


 コメント欄を最後に確認すると、俺の到着を予想するようなものばかりになっている。


〈二人がいるのって「美食の森」にいて……Aランク迷宮だよな?〉

〈三十一階層までなら、Cランクくらいの魔物しかでないな。……っていっても、普通一つの階層を攻略するのに一時間くらいかかるけど……〉

〈十階層刻みにボスモンスターも出るから……まあ普通に考えたら地図ありでも一日くらいはかかるけど……〉

〈いくらお兄さんでも……今日の配信中に再会できるのか?〉

〈普通に考えたら無理だが、まあお兄さんだし一時間もあればつくんじゃないかw〉

〈下手したら三十分くらいとかかもなw〉


「おまえら、その予想でいいんだな? んじゃ――行くぞ」


 俺はそのコメントを最後に、スマホを手に持って前へ向ける。

 それから、地面を蹴った。




―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


『楽しかった!』 『続きが気になる!』という方は【☆☆☆】や【ブクマ】をしていただけると嬉しいです!


ランキングに影響があり、作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る