第59話
Aランク迷宮。「美食の森」。
ここはDランクからAランクの魔物が出現する比較的高難易度の迷宮であり、一階層に入ってもあまり人の姿はない。
流花にカメラの準備をしてもらっていたが、彼女は頭に何かを巻き、小さなカメラをそこにくくりつけた。
「それはなんだね流花くん」
「私一人でやることが多いから、こうやってる」
「……なるほどなぁ。カメラマン用意しないのか?」
麻耶くらいしか分からないが、多くの人はカメラマンを用意している……と思う。
「いざって時、逃げるなら一人のほうがいいから」
それはごもっともだ。
格上の魔物が出てこない限り、一人なら確実に逃げられるだろう。
「流花ってCランク冒険者だっけ? 確かにそれなら、下手な人だと足手まといになるよな」
「……うん。高ランクの冒険者は階段のところにカメラを固定して撮影するとか結構ソロでやってることが多い……ていうか、カメラマンの人まで、守れない」
「なるほど、そういうことか」
俺はすぐにでも対応できるようにしていたが、それは中々難しいということか。
そんなことをのんびりと考えていると、
「お兄さん、準備できた?」
「ああ、別にいいぞ」
俺は答えながらフードを外すと、流花も同じようにフードを撮った。
そして、彼女がスマホを操作する。それから、流花の表情が少し柔らかなものになった。
視聴者に向けての表情といったところだろうか。
さすがに人気があるだけあって、その表情への切り替わりは丁寧だ。
「皆さん、こんにちは」
〈おお、始まった!〉
〈ルカちゃん、久しぶりー〉
〈今日はお兄さんとのコラボ配信だったか。楽しみにしてた!〉
〈お兄ちゃんもちーっす〉
流花は二つのスマホを持っている。一つは自分を映すようで、もう一つはコメントを確認するためのもののようだ。
俺も自分のスマホで配信の状況を確認していると、流花から声をかけられる。
「お兄さん。呼ばれてる」
「おお、了解。今日は流花とのコラボってことで一応お礼もかねてってことでいいんだっけ?」
「うん。サイン会で色々あって助けてもらってありがとうございました……って、公式の場では伝えられていなかったから。改めて、ありがとうございました」
〈ほんと今もルカちゃんが無事なのはお兄さんのおかげだ〉
〈こうして笑顔を見られて本当に助かってます。お兄ちゃん、ありがとう〉
〈お兄様! マジで感謝してます!〉
ぺこり、と流花が頭を下げ、それに合わせてコメントからも感謝の言葉を伝えられる。
「ああ、了解了解。偶然居合わせて助けただけだから気にすんな。そもそも、こっちは麻耶のサイン会が中止になるんじゃないかって必死だったんだしな」
「いつも通り、麻耶ちゃんのことばかり考えているお兄さんでした」
「それじゃあ皆も、これで今日は目的達成だし、終わりだな! そんじゃあばいばい!」
「ばいばい」
〈いやいやw〉
〈今日はボスモンスター狩って焼肉するんだろw〉
俺が終わらせにかかるが、コメント欄がすかさず止めに来る。
特に止められることがなければ、このまま終わりにしてしまってもいいかと思っていたが、ダメなようだ。
流花が苦笑とともに話を続ける。
「冗談冗談。今日はお兄さんにお礼として料理を作ろうと思ったので、このAランク迷宮『美食の森』に来てます。お兄さんが、食材を集めてくれるそうなので、期待してる」
「……いや、思ったんだけどさ」
「なに?」
「俺へのお礼は分かった。……でも、その食材を集めるのが俺って……ちょっと疑問じゃないか?」
〈草〉
〈そういえばそうだったわw〉
〈うるせぇお兄ちゃん! ルカちゃんと一緒に飯食えるだけで十分だろうが!〉
〈そうだぞ! ぶっ殺されてぇのか!〉
冗談めかしたコメントが流れていき、流花がくすりと微笑む。
「私との食事はそれだけ価値があるみたい。お兄さん。頑張って」
「えー、マジで? そりゃあ確かに流花ファンならそうかもしれないがな? 俺としては麻耶との食事のほうが俺には価値あるんだぞ?」
〈それはいつも食ってるだろw〉
〈てめぇ……今ルカファンを敵に回したな?〉
「だ、そうだけど……?」
「へいへーい。今日は流花の犬として頑張ります」
「ほんと? お兄さん、お手」
「へい!」
「人間の言葉喋らないように」
「わん!」
流花とともにちょろっと遊んでいると、コメント欄が馬鹿みたいに伸びていく。
〈おいなんで急に主従関係築いてんだよw〉
〈お兄さん羨ましい……っ〉
〈お兄様を従えるなんて羨ましいっ!〉
〈おい、お兄ちゃんそこ変われ!〉
〈おい、ルカ、そこ変われ!〉
……もっと俺への批判が集まるかと思っていたけど、冗談交じりのものが多いな。
あと、普通に流花を羨ましがる声も多い。良く分からない状況になっているな。
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