第87話


 俺としても別に隠すようなものじゃないので、彼女に伝える。


「ヴォイドは、あの場で使用したシバシバの魔法を――魔力から、似た魔法を作り上げていた」

「……魔力から? それってどういうこと?」

「俺たちの体内にある魔力って、魔法に変換するときにその属性に合わせて変化するだろ? まあ、もちろん変化させられる才能があればの話だけどさ」

「そうだね。あたしと麻耶ちゃんは火魔法に変換する才能があるってことだよね?」

「ああ。俺は変換する部分の才能がないから、無属性魔法しか使えないんだけど……なら、他人が使用した魔法の魔力って空気中に残ってるだろ? それを取り込んで、自分の魔力と組み合わせれば……制限付きではあるが魔法を再現できるってわけだ」

「……」


 玲奈も理論的には理解したようだ。

 ただ、それを再現できるかどうかは……分からない。

 俺も同じだ。

 だが、あの魔物のおかげで考えるきっかけができただけでも良かった。

 これまでの俺は、それが不可能なものだと思い込んでしまい、考えようともしていなかった。


「この魔力は本当に少しだけ体にストックしておけば、それで良さそうなんだよ。だから、な――」


 俺はこの家に充満している麻耶の魔力を吸い込んだ。


「うーんこれは麻耶の魔力だぁ!」

「美味しい?」

「最高だ!」


 ……その麻耶の魔力をもとに、俺の魔力と組み合わせ……魔法を練り上げる。

 生み出したのは、火魔法。俺の指先に小さな火が現れた。


「……え? ダーリン、マジ? もう習得したの!?」

「まあ、理論はヴォイドのを見て理解していたからな。ただ、麻耶より魔法の発動に時間はかかってるし、効果時間も短い。所詮コピーにできるのはこれが限界なんだろうな」

「い、いや……でも、これって……凄いことだよね? つまり、魔力をうまく取り込んで自分のものと合わせたら誰でも簡単に特殊魔法だって使えるようになるってことだよね?」

「そういうわけだ。そこで、玲奈。おまえに頼みがある」

「え? なになに?」

「シバシバの連絡先知ってるなら教えてくれないか?」

「白昼堂々浮気宣言?」

「白昼じゃなければ、浮気でもない。単純に、シバシバの空間魔法を再現できるのか知りたいんだよ。再現できたら……俺はいつでもどこでも麻耶のもとに移動できる……!」

「うわ、ダーリン、それはストーカーだよ……麻耶ちゃん、やだよね?」

「お兄ちゃんといつでも会えるなら全然いいよ?」

「うわ……あっ、でも待てよ? あたしも再現できたら、いつでもダーリンに会える……? わかった! あたしも同行するよ!」

「よし! シバシバに会いに行くぞ!」


 俺たちの次の予定は決まり、さっそく玲奈に連絡を取ってもらうことになった。




 シバシバとの面会に関してだが、すんなりとオーケーをもらった。

 ただし、改めて日付を設定しましょう、とのこと。


 俺はすぐにでも特殊魔法の再現をしたかったのだが、向こうにも事情があるからな。

 霧崎さんと打ち合わせがてら飲みに行ったときにこの話をしたところ、「配信しませんか?」とのこと。


 なんでも、Cランク迷宮に関しての情報を色々と皆も聞きたがってるようで、俺に雑談配信と安否報告の意味でも配信をしてほしいという話だった。

 ちょうどシバシバに会うのなら、それについての話をしてみては、ということだったので……この辺りは玲奈含めて打ち合わせしたところ、許可をもらった。


 というわけで、現在【ブルーバリア】のギルド本部に俺たちは来ていた。

 今回のコラボ配信は、俺とシバシバを基本としつつ、MC的な立場で玲奈も来ている。

 これに関してはシバシバからのお願いだった。……シバシバが、「俺と二人きりは無理」ということからだった。


 俺、何か嫌われるようなことをしたのだろうか?

 その疑問は、今こうして会議室の椅子に座っている今も考えている。

 俺の隣には玲奈が座り、向かいにはシバシバ。


 シバシバは俺と一切視線を合わせず、まるで石化したかのように固まっている。


「シバシバ、どうしたの? なんかいつものクールな感じと違うじゃん」

「玲奈……その呼び方はやめてって言っているでしょう……」

「え? シバシバダメなのか? 覚えやすくていいと思ったんだけど……」

「お兄様はいいわ! お兄様の好きなように呼んでくださって!」


 めっちゃ怖いじゃんこの人……。

 くわっと目をひん剥いてきたシバシバに俺は頬をひきつらせていると、玲奈がぼそりと言ってくる。


「そういえば、シバシバってダーリンの大ファンみたいなんだよね。だからたぶん緊張してちょっとおかしくなってるんだよ」

「ダーリンとかいうのやめてくれるかしら? お兄様と玲奈の関係について私は一切合切認めていないのよ?」

「うわー厄介ファンだよダーリン! どうしよう、あたしたちの関係を嫌うタイプのファンだよ!」

「とりあえず俺もおまえの存在は認めてないから抱きついてこようとすんな」


 頭をアイアンクローの要領で掴んで押し返す。

 玲奈は笑いながら俺の腕を払ってから、着席する。

 まったく、ここでも暴走しないでほしいものだ……。


「……はあああああ! お兄様に頭潰されるとかぁぁぁ! 玲奈のくせに! 玲奈のくせに! ずるいわずるいわ!」

「……いや、あのシバシバ?」

「お兄様? どうされましたか?」

「とりあえず、そうその……堅苦しくしなくていいからな?」

「ありがたき! ありがたきお言葉を……っ! ……そ、それではいつものこんな感じでいいかしら?」


 彼女は照れた様子でちらちらとこちらを見てくる。

 ……先程の奇行のほうがよほど恥ずかしいと思うのだが、いまいち彼女の羞恥心を感じる場所が分からないな。


 それでも、彼女は【ブルーバリア】のリーダーだ。


 【ブルーバリア】は他の五大ギルドに比べると、設立されてからあまり経っていない。それでいて、すでに日本の五大ギルドの一つと呼ばれるようになったのは、リーダーであるシバシバの手腕故だろう。



―――――――――――

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