第88話
現役大学生の彼女は、まだ粗削りながらも空間魔法という特殊魔法でも別格の魔法を使用できるため、いつ、どこで何か事件が発生しても比較的対応できるというのがなんといっても強みだった。
……ただまあ、空間魔法も完璧ではない。強力な魔力が溢れている場所に移動するのは難しいらしい。
ヴォイドのように魔力をぶつけて強制的に穴を閉じるようなこともできるみたいだしな。
ひとまず、最初に比べれば打ち解けた……だろう。
この中で常識的な人間は俺しかいないので、俺が話を進めるしかないだろう。
いや、違うのか?
俺が真面目に振舞っているから、こいつらがふざけまくっているのか?
なら俺も一緒にふざければ、他の人にこの役目を押し付けることができるのか?
隙を見つけて、こちらも仕掛けてみるのもありかもしれないな。
「とりあえず……今日の配信について簡単に話そうか。まず、シバシバ。話を受けてくれてありがとな」
「いえ、私はお兄様に命に救ってもらったわ……。その恩を返せるのならこのくらい全然問題ないわ。なんなら、ここでお兄様に自害しろと言われたらこの身を捧げる覚悟もできているわ……」
「……いや、やめてくれ。血はみたくないんで」
「安心していいわ! 私の空間魔法なら血だけを異空間に送り込むこともできるわ」
「そんな魔法の使い方しないでくれ……」
「ああ、お兄様の困った顔が素敵……っ! はあ、はあ……っ!」
「……玲奈ー! 助けてくれてぇ!」
「え? 結婚してくれるなら考えてもいいよ?」
「ちょっと待ちなさい玲奈? あなたとお兄様の関係は認めていないって言っているでしょうぉ! 調子に乗るんじゃないわよっ!」
「ああ、くそ……っ! 真面目枠で麻耶か凛音を連れてくれば良かった……」
いや、麻耶をこんな化け物の檻に入れるわけにはいかないから、凛音を連れてくればよかった……っ!
今からでも間に合わないだろうか?
凛音に電話してみる。
『お、お兄さん? お兄さんから連絡なんて珍しいですね……。ど、どうしたんですか?』
何やら少し緊張した様子で連絡に出てくれた凛音。
まず繋がるかどうかの不安があったが、第一関門は突破したな。
「凛音、今から【ブルーバリア】の本部に来て、俺の配信の手伝いしてくれないか?」
『え? どういうことですか? そういえば、今日は三人でのコラボ配信ですよね? 玲奈さんと御子柴さん、そしてお兄さん。Sランク冒険者が三人も集まっての配信って凄いですよね……』
「いやな……玲奈が頭おかしいのは知ってるだろ?」
『あっ、はい。お兄さんに関係しては結構おかしくなっちゃってますね。それ以外ではかなり頼りになる方なんですけど……』
「御子柴リーダーもわりと玲奈に近い人間でな。それで凛音。今からMCとして来てくれないか?」
『あっ、頑張ってください。それでは』
おいっ。
凛音が電話を切ってしまい、俺はスマホを置いて諦めた。
「よし、打ち合わせ終了! 配信始めるぞ!」
ここで打ち合わせしていてもどうせ暴走する。
もともと俺の視聴者たちは頭のおかしい連中の集まりだし、何とかなるだろう。
すぐに俺は配信の準備を行っていった。
〈あれ? 予定の時刻より早くないか?〉
〈間違えたんじゃないか?〉
〈いや、普通に全員映ってるな〉
〈おっ、もう始まったのかw〉
〈まさかSランク冒険者三人での話しあいとか……めったに聞くことができないよな……〉
〈レイナちゃんと御子柴リーダーが何か言いあってるのか?〉
「だから、私はお兄様親衛隊として、玲奈のダーリン呼びは即刻廃止を要求するわ!」
「ダメダメ。あたしとダーリンは赤い糸で結ばれてるんだからね。ほら、見て」
「今勝手に縛っただけじゃない! お兄様! 今お助けします!」
「おまえら、配信始まってんぞ」
……そうはいうが、二人の言い合いは今も続いていた。
俺は彼女らを無視して、視聴者に手を振っていた。
〈は? へ?〉
〈どういう状況……?〉
〈お兄様? もしかして、御子柴リーダーもお兄さんのファンなのか?〉
〈それでレイナちゃんの呼び方に異議申し立てをしているのかw〉
〈もしかしてお兄ちゃんのガチ恋勢か? 確かにあいつらレイナをめっちゃ敵視してたもんなw〉
〈草〉
「……まあ、今コメントにあった感じだな。シバシバは俺のファンだったらしくて……まあ、それで玲奈と色々やりあっててな。もう打ち合わせ面倒になったから配信始めちった」
あの惨状を見て、あのまま打ち合わせを続けられる人がいたとすればそいつは強靭な心の持ち主だ。
俺は見ての通り、もう諦めてしまったのだからな。
〈シバシバ!?〉
〈お兄様!? どういうことですか!? なんですかその親しい呼び方は!〉
「いや、覚えるの大変でな。玲奈がシバシバって呼んでたからこれは覚えやすいってそう呼んでいるんだけど、シバシバ。そういえば、シバシバって呼んでよかったのか?」
「……きゅ!」
「え? 何今の蛇の首しめたみたいな声は?」
見るとシバシバは泡でも吹きだしそうなほどに表情を七変化させていた。
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