第89話
〈もうちょっとカワイイ表現あるだろw〉
〈いや、蛇は可愛いだろ?〉
〈蛇は可愛くないだろ……〉
〈あ? おまえなんだやるのか?〉
このままだとコメント欄でも喧嘩しそうである。
そちらは一切合切無視していると、玲奈が楽しそうに笑いながらシバシバの肩を掴んで揺らす。
「シバシバ? 大丈夫?」
「はっ……っ! お兄様が、私に親しげに話しかけてくれたせいで意識がとびかけてしまったわ……」
「それでさっきのシバシバって呼ばれるのはおっけーなの? でも確か前にあたしが呼んだら嫌がってたよね?」
「お兄様からのは言葉は嫌ではないわ!」
「だって! シバシバオッケーだって! これからもよろしく、シバシバ―!」
「あなたのは許可していないわ! あなたのは!」
シバシバは、少し接してみたが玲奈の友人だけあって……やばい女のは分かった。
あまり、親しくなると玲奈化する危険がある。
玲奈だって、初めのうちは普通に親しい間柄だったが、ある日ネジが外れてしまったんだしな。
シバシバとはあまり交流を深めないほうがいい。
とりあえず、今のように玲奈を介してシバシバの対応は行っていけばいいだろう。
俺だって馬鹿ではない。周りにおかしな人間をこれ以上増やすつもりはないのだ。
「とまあ……こんな感じで、玲奈とシバシバが少し暴走する可能性がある中で、配信を行っていくんだが……せめて俺以外にまともな奴連れてくるべきだったよなぁ」
やはり凛音かせめて、流花だ。
どちらかがいれば、もう少しまともに進行できた可能性はあったのだが、やってしまったな。
〈……まとも……?〉
〈え? 誰が……?〉
〈……お兄ちゃんはお兄ちゃんでヤバいやつなんだよなぁ〉
〈でもマヤちゃんの話題とかしなければ、お兄様も比較的まともよりだよな……〉
〈ただ、一応年長者としての自覚があるのか、こういうときは一応進行役をするんだなw〉
〈真面目に働いているお兄様も素敵です……っ〉
まるでコメント欄は俺がまともではないかのような反応である。
ただ、ネットの人たちというのは素直に物事を受け止めない人が多い。いわゆる逆張り精神の強い人間が多いという麻耶の話は聞いていたので、俺も深くは気にしない。
「へいへい。とりあえず、なんだっけ? この前のCランク迷宮の感想についてね。実際に攻略していたシバシバから行くか、どうだった?」
配信を回すために来たはずの玲奈がシバシバと暴走状態に突入したので、俺が代わりに問いかける。
「お兄様にお姫様抱っこされていたうちの隊員に皆が嫉妬していたわね……」
〈草〉
〈まったく攻略関係ないんですがそれは……〉
〈それは確かにそう〉
〈私もテレビで目撃したけど、歯ぎしりで歯がかけちゃったわ〉
コメントのいう通り、まったく関係ない。
しかし、シバシバは至って真剣な様子で話すものだから俺としても何も言えなかった。
「でも、そうなると今シバシバも滅茶苦茶嫉妬されてるんじゃない? あたしのダーリンに近づいているんだし」
「誰のダーリン? あなたは認めないわ!」
「いや、おまえはどんな立場なんだ?」
「はっ! すみませんすみません……っ! お兄様を怒らせるつもりはないのよ? あっでも怒った顔も素敵ぃ……」
「いや、別にこっちも本気で怒っているわけじゃないんだけど……ああ、もう割り込まないほうがいいな。うん」
シバシバは玲奈に任せよう。俺の視線から意図をくみ取った玲奈がぐっと親指を立てる。
「でも、シバシバはファンとしてダーリンに近づくのはいい感じ? ダーリンみたいに麻耶ちゃんのファンとしては、あんまり一緒に映りたくない的な考えを持っている人もいるみたいだいけど……」
ファンには大きく分けて二種類いるだろう。
純粋に遠くから眺めて応援したいタイプと、実際にお近づきになりたいタイプ。
後者はどちらかというとアイドル売りしている人たちに多いと思う。
俺はまったくそんなことはないので、大丈夫だろう。
「はぁ? 私はお兄様の親衛隊としてあわよくばお兄様にお近づきになりたかったのよ! ファン失格!? 知るか! 私は、ああ、お兄様と同じ空間の空気を吸えている今この瞬間! ああ、幸せ! 缶詰に詰めて持ち帰りたいわ!」
「うえぇ……ダーリン、ストーカー被害で警察に届け出したほうがいいよこれ」
「その前に玲奈の案件も控えてるぞ?」
「そっちは大丈夫! 同意の関係だから!」
「視聴者の中から今この場で交代してくれる人いたら変わってくれー」
〈……御子柴リーダーってすごいクールなイメージだったんだけど?〉
〈この前のテレビに映っていた姿とはまるで別人なんですがそれは……〉
〈これ、お兄ちゃんが悪いだろ……〉
なぜに俺の責任?
たまたま目撃したコメントに頬が引きつる。
でも、確かに少し思うところはある。
こうも俺の周りに変な人が多いのは類は友を呼ぶからなのかもしれない。
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