第86話
迷宮から脱出した俺はすぐにその場から離脱し、家へと帰宅した。
……迷宮爆発が発生する前だったので、外は平和だ。まあ、だからこそ野次馬も残っていて、それで絡まれそうになったがダッシュで逃走してきた。
ひとまず、これで大きな問題はなくなった。
玲奈とともに家に入ったところで、麻耶が玄関へと走ってくる。その瞳はきらきらと輝いていて、
「お兄ちゃん! 大活躍だったね!」
「まあ、そうなんだけどな……」
「どうしたのお兄ちゃん? 何やら意味深な顔だね?」
「……まあな。さっきの迷宮の戦い見ていたのならなんとなく悩みが分かるんじゃないか?」
「えーと……あの魔物のこととか?」
「……さすがだ、麻耶。天才か……」
「あたしも気づいていたよダーリン!」
「あ、そうですか……」
「むぅ? あたしへの態度と麻耶ちゃんへの態度、違くない?」
「別にそんなことはないぞ? 色々と考えたいことはあるんだけど、ひとまず玲奈。そろそろ家に帰ったほうがいいんじゃないか?」
迷宮行っていたこともあり、今は19時を過ぎてしまっている。
もう夜遅いのでそう提案したのだが、
「大丈夫。今日は麻耶ちゃんの家に泊まっていくっていうことにしてあるから」
「いや、そんなこと聞いてないぞ?」
「今決めたんだけど、大丈夫でしょ?」
「いや、ダメだけど?」
「えー、お兄ちゃん! まだ玲奈ちゃんと遊びたいんだけど……」
「よし、いいぞ玲奈。泊まってけ」
「やったっ。それじゃあ麻耶ちゃん。一緒に夕食作ろっか」
「うん」
麻耶が楽しそうでよかった。
俺は満足しながら、一応玲奈の両親にも連絡をしておく。以前助けてからLUINEで連絡先を知ってはいた。
ご両親に連絡すると、問題ない、とのこと。
『孫ができちゃうのかね?』
『楽しみねぇ』
とアホなご両親の連絡は既読スルーしておき、俺はリビングに戻る。
「ダーリン、今日はカレーでいい?」
「別になんでもいいぞ?」
「よし、それでダーリン。魔物と戦ってた身としての感想はどうだったの?」
「ああ、それな」
俺は小さく息を吐いてから、ヴォイドのことを思い出す。
「一つ聞きたいんだけど、俺が知らないだけで魔物が話すようなことって今までにも確認されていたのか?」
まな板で野菜を切る音を響かせている二人のほうに問いかける。
……少なくとも、俺の記憶の中ではあまりない。まあ、記憶を探ろうとしても、大半が麻耶関連なので俺のデータベースは参考にならないのだが。
「……うーん、あたしは聞いたことないかな? それに、あんなに嫌な魔力を持っている魔物がいるなんて知らなかったし」
「だよな」
Sランク冒険者に早くからなっていた玲奈は、俺よりも多くの依頼を受けている。……こんな発言ばかりの玲奈だが、彼女はかなり優秀な冒険者だ。
その玲奈でさえも知らないというのなら、まあほとんどの人は知らない出来事のはずだ。
……あとで、冒険者協会のほうに呼び出しを受けて事情を聴かれるかもしれないな。ひとまず、シバシバがどのくらい協会に情報を提供できるか、だな。
「まあ、話す魔物については何もわからないとして……実は問題がもう一つある」
「え? あたしとダーリンの結婚日とか?」
「ヴォイドの使っていた魔法についてだ」
「あっ、そういえばシバシバの魔法を使ってたよね。たまたま、同じ空間魔法の使い手だったとか?」
そう考えるのが普通だろう。おそらく、多くの番組でも空間魔法をコピーしたことについては触れられず、人間の言葉を話したという点ばかりが注目されるはずだ。
だが、本質的な問題はそこではない。
対面していたからこそわかる。
あの魔法は――
「シバシバの魔法だった。ヴォイドは、間違いなくシバシバの魔法を再現していた」
「……え? どういうこと? 言葉を話す魔物って、魔法をコピーできるとか?」
「言葉を話す魔物たちすべてが、コピーを使えるのかまでは断定できないが……あの魔法の再現のやり方は――見てきた」
「見てきたって……」
俺の言葉に、玲奈ははっとした様子で顔を上げる。隣にいる麻耶はこてんと首をかしげている。
察しの悪い麻耶もかわいいなぁ。
「俺も……まだまだだったな」
すでに俺が強くなるには、ひたすらに迷宮に潜り、鍛え続けていくことしかないと思っていた。
技術的な成長はもうできないのだと思っていたが……まだまだ甘いな。
「まさか……ダーリン。魔法の再現をできるようになったの……?」
「まだ、完璧じゃないけど……原理は理解した」
「どうやるの?」
さすがにSランクの冒険者だけはある。
驚いたのは一瞬、すぐにその技術についてを知ろうとしている。
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