第195話


 配信についての日程に関してはまだ確定していなかった。

 その前に決まったのが、流花の家への挨拶だ。

 ……自分で謝罪に行くと話していたのだが、ちょっと緊張はあった。


 事前に聞いていた話では、向こうも怒っている様子はなかったのだが、それでもこちらとしては負い目に感じてしまう部分がある。

 軽く深呼吸をして、改めてネクタイを締めなおしていると、待ち合わせ場所に霧崎さんがやってきた。


「迅さんのそういう服はなんだか新鮮ですね」


 こちらをじっと見てきた霧崎さんに、俺は改めて自分の服を確認する。


「なんか変なところとかないですか? 会見に使うために近くのお店で購入した安物ですから、どっかもう破けてるかもしれませんけど……」


 確か上下で三万円くらいだったはずだ。

 会見のときは、もう二度と着ることはないだろうと考えて一番安くてサイズの合うものにしてしまったが、こんな機会があるのならもう少し考えて購入するべきだったかもしれない。

 動きやすさはあっていいんだけど。


「とりあえず、大丈夫そうですし、行きましょうか」


 流花の家は駅から少し離れた場所にあると聞いていた。

 すたすたと霧崎さんの後ろをついていきながら歩いていく。


「あっ、見えてきましたね」

「え? あれですか?」


 霧崎さんが指さした方向には、大きな屋敷が見えた。

 ……いや、大きいなんてものじゃないぞ。

 麻耶が「結構大きいよ!」って言っていたけど、想定の数倍はあった。

 それにしても、大きさを表現したときの麻耶は両手を目いっぱい広げていて、それはもう可愛らしい姿だったのだが……今は妄想にふけっている場合ではない。


 ざっと見た感じ、野球とかサッカーを同時にやっても問題ないくらいの庭がある。門から玄関までもかなりの距離で、車で移動したほうがいいのでは? というレベルだ。


「めっちゃでかいですね」

「フラワーウェポンがそれだけの企業ということでもありますからね」


 俺も、事前にフラワーウェポンについて調べてみたが、武器のユニ○ロみたいなものだった。一般的な冒険者に、お値段以上の質を持った武器を販売してくれるらしい。

 そんな流花の家の門に近づいていくと、執事と思われる男性がこちらに気づき、微笑を浮かべた。


「お待ちしていました」

「……もしかして、執事さんですか?」

「ええ、そうですね」


 にこりと微笑んだ三十半ばほどの男性はそれから門を押し開けてくれる。

 

「さあ、どうぞ。ご案内いたしますのでついてきてください」


 執事がそういって、俺たちは敷地内へと入っていく。

 ……いやぁ、すげぇ家だ。

 掃除とか大変そうだ。

 そんなことを呑気に考えながら、建物へと踏み込む。

 

 そのまま案内された部屋へと向かい、俺たちはソファに腰掛ける。

 ふかふかのソファの感触を楽しんでいると、霧崎さんがきっと睨んでくる。

 ……いや、あまりにもふかふかでトランポリンみたいだなぁとか思っていませんよ?


 さすがにテンションが上がってしまいそうになるが、今日は謝罪のために来ている。

 俺の行動一つで麻耶の評価にもつながるんだし、ここからは真面目にやらないとだろう。

 待つこと数分。

 人の気配がしたのでそちらを見てみると、扉が開いた。

 俺と霧崎さんはソファから立ち上がり、入室者を出迎える。

 姿を見せたのは、おしゃれをした流花と……恐らくは流花の父親と思われる男性だ。


「花峰大河です。よろしくお願いします」

「鈴田迅です。本日はわざわざありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。日本を代表する冒険者の方とお会いできて光栄ですよ」


 大河さんは笑顔とともに手を差し出してきた。

 俺も握手をして握り返してから、お互い向かい合うようにソファへ座りなおした。

 ちらと大河さんの隣にいる流花を見る。

 彼女は結構おしゃれな服に身を包んでいる。

 少し照れた様子でこちらをちらちらとみてくるが、いつもの流花だな。


「わざわざお忙しい中、時間を割いていただいてありがとうございます。こちら事務所からの謝罪も込めてのものになります」


 そう言って、霧崎さんが持ってきた菓子折りを差し出した。


「何度も言いましたが、気にしなくていいですよ」


 霧崎さんとともに購入した謝罪の品を受け取った大河さんは、苦笑を浮かべる。

 それから俺たちは指定されたソファに向かい合う形で腰掛けた。


「花峰さんって……呼んだら流花も混ざるし、大河さんって呼んでもいいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「……それじゃあ、大河さん。今回の件は、申し訳ございませんでした」


 俺は深く頭を下げる。

 ……巻き込んでしまったことについて。

 俺が直接的に問題を起こしたわけではないが、俺が原因で大事な娘を危険に巻き込んでしまったんだ。

 俺だって、麻耶が傷つけられそうになっていると知ったときは全身の血が煮えくり返るかと思っていた。

 それは、恐らく大河さんだって同じだろう。


 しばらく、頭を下げていると大河さんの声が響いた。



―――――――――――

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