第203話

 浅い階層から順に、ということでまずは麻耶の戦闘の様子から映していくことになる。

 カメラを持つのは凛音だ。俺と玲奈は万が一の場面に備えて待機している。

 麻耶とその隣には流花がいる。ひとまず二人で話しながら、という感じだ。

 その時、麻耶がひらひらとこちらに手をふってくる。


「……麻耶が俺に手を振ってくれている」

「いえ、視聴者にです」


 凛音のツッコミを受けながら、まずは68階層での戦闘を開始する。

 ……最近の麻耶は魔力操作のコツを掴んだのか、戦闘能力が大きく向上している。

 現在のランクは恐らくBランクからAランクの間くらいはあるんじゃないだろうか?

 さすが麻耶だ。きっと天才だ。


 そんな麻耶は魔力で身体能力を強化しながら、じっと魔物へ視線を向けていた。

 敵はゴブリン。ただ、この階層に出現するゴブリンはかなりの力を持っている。

 ゴブリンはじっと麻耶を睨みつけている。

 その下卑た笑みに苛立つ。麻耶を見て、あいつ何を考えている?

 何より、麻耶を睨みつけやがって……っ!


「お兄さん、ステイ、ステイ」


 隣にいた凛音が声をかけてくる。

 どうやら、俺の怒りが表に出ていたようで、隣にいる凛音が顔を青ざめながらこちらにカメラを向けてくる。

 世界に俺の怒り顔を晒すんじゃない。

 すぐに凛音の手首をくいっと麻耶の方に向ける。


〈お兄ちゃんw〉

〈こんだけの怒りがあれば、そりゃあジェンスも勝てないわなw〉

〈あん時のお兄ちゃんの顔はマジで怖かったからなw〉

〈でもお兄様のそんな顔も素敵です〉

〈あの時の顔をパソコンの壁紙にして、毎日興奮してます……〉


 コメント欄の勢いは凄まじいな……。

 そして、なんかゴブリンはこちらを見てなんだか怯えてしまっている。

 これでは、麻耶の可愛く強いシーンを映すことができなくなってしまう。

 まずは落ち着こう。


〈……この階層の魔物ってBランクくらいはあるんだっけ?〉

〈そうそう。最近マヤちゃん急成長してないか?〉

〈体はまだまだなのになw〉


 おい今のコメントしたやつ覚えたからな。

 ていうか、麻耶はこの体だから魅力的なんだろうが、死ねボケカス。


「お、お兄さん……さっきよりなんだか怖いんですけど」

「ん? ああ、気にしないでくれ」

「気にしなくていいようにお兄さんが落ち着いてくださいよ……」

「もうダーリンったら。そんなに落ち着かないなら玲奈がぎゅっとしてあげよっか?」

「いや、もう落ち着いたから大丈夫だ」


 玲奈が俺の方に両腕を向けてくると、コメント欄が一気に荒れだす。いやまあ、一部擁護するコメントもあるのだが俺のファンと思われる人たちのコメントの勢いが凄まじい。


 さて、こちらで盛り上がっている場合じゃないな。


「もう戦ってもいいかなー?」

「はい、大丈夫ですよ!」


 麻耶の声に、凛音が笑顔とともに手を振って答える。

 麻耶は笑顔を浮かべた後、即座に火魔法を生み出し、自分の体に纏わせるようにしていた。

 ……あれが麻耶の今の全力だ。

 今麻耶が身に着けている服は、普段と同じ服っぽく見えるが、実は魔物の素材で作られた耐熱の代物だ。


 自分の炎で服が燃えてしまったら、大変な放送事故になるからな。

 俺が全国の迷宮からえりすぐりの耐熱素材を集めて作らせたものだ。


「麻耶ちゃん、火魔法を放って攻撃するよりもああやって纏って攻撃するほうが得意みたいだよね」


 同じ火魔法使いの玲奈が、感心したように声をあげる。


「属性魔法は再現したことしかないんだが、ああやって使うのと放って使うのはどっちのほうがオススメなんだ?」

「うーん、あたしとしては放って使うほうが得意かな? ただ、麻耶ちゃんは自分の体から魔法が離れたときの操作が苦手みたいなんだよね。あたしは逆なんだけどさ」

「……なるほどな」


 あのバトルスタイルは麻耶が自分で考えたものだ。

 俺はあくまで、魔力の操作の指導しかしていないし、できないからだ。

 麻耶の本気の戦いは何度か見ていたが、配信で見せるのは初めてだろう。


〈なんかマヤちゃんの雰囲気変わってないか?〉

〈めちゃくちゃ迫力あるな……〉


 その麻耶が地面を蹴った。



―――――――――――

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