第204話
属性魔法であろうと同じ魔力。肉体の強化は可能だ。
纏っている火魔法から肉体を強化するように変化すう。
そして一気に加速した麻耶が持っていた短剣を振りぬいた。
しかし、攻撃はかわされた。
この階層のゴブリンともなると、さすがにこのくらいはかわしてくるな。
ゴブリンは魔物特有の身体能力で、すぐさま持っていた短剣を麻耶へと振りぬく。
この階層に出現するゴブリンは皆短剣を持っている。
くしくも、麻耶と同じ戦闘スタイル、というわけだ。
麻耶とゴブリンが短剣を撃ち合う。ただ、麻耶は自分の体の炎を第三の腕のように扱って攻撃する。
火の拳を作って殴ろうとしたり、火の剣にして切り裂こうとしたり。
体に近い魔力の操作はかなりのもので、ああいった魔法の使い方もあるのかと感心させられる。麻耶マジ天才。
ただ、ゴブリンもかなりのやりてで攻撃を器用にかわしていく。
「麻耶……っ! 頑張れー!」
「あの、お兄さん。うるさいです」
「いいだろ別に! 麻耶が頑張ってるんだ! おまえらも応援するんだ!」
〈この兄貴は相変わらずだなw〉
〈マヤちゃん頑張れー〉
〈私の妹……っ! 頑張って!〉
麻耶とゴブリンの戦いはしばらく続いていたが、麻耶の手数の多さにだんだんと回避が間に合わなくなる。
少しずつ体にダメージを負っていったゴブリンは、最後……足に攻撃を受けて機動力を失った。
そこからはあっさりと決まった。
麻耶の勝利だ。こちらに近づいてきた麻耶は呼吸を整えるように息をしていた。
「まあ、こんな感じかな? 私もだいぶ魔力があがったんじゃないかな!?」
「麻耶! 最高だったぞ!」
「ありがとねお兄ちゃん!」
俺は麻耶とハグをして喜びを分かち合う。
ハグは一瞬だったが、コメント欄を見てみるとまた凄まじい勢いになっていた。
〈お兄ちゃん、羨ましい……〉
〈私もマヤちゃんとお兄様の間に生まれて間に挟まりたい……〉
〈マヤちゃんうらやましすぎるぜ……〉
そんな感じのコメントが多くある。
「それじゃあ、次は私も。ゴブリンと戦う」
「はい、頑張ってくださいね」
流花は凛音にこくりと頷いてから、魔物を探してあるきだす。
その顔にはかなり気合がこもっている。
「なんか、いつにも増してやる気満々だな」
「流花ちゃんも最近麻耶ちゃんに追いつかれそうで焦ってるんだよね」
……なるほどな。確かに流花も成長しているが、その伸びは緩やかだ。
麻耶のように急成長していないので、焦りがあるのかもしれない。
でもまあ、こういったのはコツを掴めば一気に伸びるかもしれないからな。
怪我をしないようにだけして、焦らずやっていくしかないだろう。
ゴブリンを発見したところで、流花が戦闘を開始する。
堅実な戦闘ではあったが、ゴブリンをしっかりと仕留めた彼女は安堵するように息を吐いている。
「うん、私も問題ない。次は凛音?」
「はい、そうですね!」
「んじゃあ、俺がカメラマンでもするかね」
「麻耶さんばっかり映さないでくださいよ」
「安心しろ、たまには凛音も映すからな」
「戦っている時は私をちゃんと映してくださいね……っ」
そんないつものようなやりとりをしながら、俺はスマホを受け取る。
今日の目的はこうやって皆が元気なのを伝えることだからな。
そんなこんなで、全員の戦闘している様子を配信していく。
今のこの中だと玲奈がもちろん一番強いのだが、凛音もSランク手前くらいまで実力が上がってきている。
……まあ凛音の場合魔力量だけはすでにそこらのSランク冒険者よりも多いからな。あとは、その全力を完璧な状態で制御できるかどうかだからな。
そんな俺たちは、現在は162階層にあがってきた。
今、俺がのんびり攻略中の最上階層だ。
「……最後はお兄さんの元気な状態を映そうってことになりましたけど、これ必要ですかね?」
凛音の意見には俺も同意だったが、視聴者たちは違うようだ。
〈必要〉
〈お兄ちゃんのチャンネルなんだから、お兄ちゃんが無双する場面は必須だろ〉
そうなのかね?
別にいつも好き勝手暴れているわけではないのだが、視聴者たちとしては俺が自由にしているように見えるらしい。
まあ、望まれているなら戦うだけだな。
軽く準備体操をしてから、俺は声をあげる。
「さて、行くとするか」
カメラマンとして凛音たちが背後にはいるが、この階層の魔力濃度はかなりのものだ。
はじめ、俺一人でいいんじゃね? という話をしたが、今回はコラボ配信だからな。
162階層は開けた場所だ。まるで平地のような造りとなっていて、魔物はすぐに発見できる。
それは魔物側からしても同じなのだが。
俺は自分に注目が集まるように、玲奈たちよりも目立つように魔力を放出しながら移動していく。
玲奈たちも魔力を消しているのだが、ここにいる魔物たちはかなりの感知能力だ。
そんな162階層に出現する魔物は――騎士団長のような威圧感ある見た目をした首なしの鎧戦士だ。
〈デュラハンかこいつ!?〉
〈デュラハンとか初めて見たんだけど……やっぱこんな階層に出てくるんだしやばいのか……?〉
〈カメラ越しでもやばいオーラびんびんじゃねぇか〉
デュラハンは黒色の鎧を纏っていて、背中には大剣もある。禍々しい魔力を纏いながら、すっとこちらを見てきた。
「これがデュラハン……ですか」
「……威圧感凄い」
後方に控えていた麻耶たちはそこで対面するだけでかなり気おされているようだ。
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