第162話




 ジェンスが去ったあとのルーファウスの部屋には、二名の戦闘型アンドロイドとルーファウスが残っていた。

 アンドロイドたちはジェンスが出ていった扉を見ながら、ぽつりと問いかけた。


「良かったのですか? 彼の戦闘能力はそれなりに貴重だと思いますが」

「ああ、確かにそうだな。だが、まあそんなものは完成した戦闘型アンドロイドたちで補えるからな」

「そうですか」

「第一、ジェンスはすでに目立ちすぎだ。あんなもの組織においておけば邪魔にしかならない」

「そうですね」

「それに、ちょうどジンの力は見てみたかったからな。本気ではないとはいえ、ヴァレリアンを圧倒したほどの力ならば――オレもようやく全力で戦える相手が現れたということになるからな」

「それこそが、ルーファウス様の悲願ですもんね」


 ルーファウスは部屋の椅子へと腰かけ、頷いた。

 ルーファウスが作ったこの組織は、世界を表と裏から牛耳ることを目的として人々が集まっていた。

 魔力増幅薬を使い、自在に冒険者たちを管理していくこと。暴走した冒険者たちを鎮圧する正義の味方として、ルーファウスが君臨する世界。


 そして、裏ではそんなルーファウスたち組織の人間が魔力増幅薬をばらまき、さらなら混乱へと陥れる。

 それこそがルーファウスたちの理想であった。

 だが、リーダーであるルーファウスはそんな組織のリーダーとして、まったく別方向を向いていた。


 彼の目的はただ一つ。


 ――命の危機を感じられるほどの化け物と戦いたい。


「オレは退屈で仕方ないんだよ。おまえがもしも本当にオレの域にいるのなら、同じ気持ちだろう? ジン」


 ルーファウスは、ただ強者を求めていた。



「……ああ、マヤの配信をそろそろ見ないと……」

「そんな禁断症状みたいに言わないでください」


 俺は霧崎さん、下原さんとともに件の迷宮へと向かって歩いていた。

 その道中、事前に打ち合わせをしていた霧崎さんが資料をこちらに渡してくれる。

 それは迷宮に関してのものが書かれた資料たちだ。

 その資料をぺらぺらとめくりながら、純粋に思ったことを伝える。


「迷宮から生み出される魔力の数値を計測したときの数値が毎日上下してるんですね」

「ええ。それ自体は珍しくはないのですが、その数値の上下の幅が異様なんです。BからときにはSランク迷宮に近い反応を示すこともあるので、それはさすがに異常なので……この際迷宮を攻略していただこうという話です」


 俺の疑問に答えながら、下原さんは色々な情報を補足してくれる。

 なるほどな。確かに迷宮も人間のようにその日の調子なのか知らないが、多少測定したときの数値は変わると聞いている。

 ただ、ここまで激しい変化は聞いた事がないわけで、だから協会も慌てて依頼を出したというわけだ。


「了解です。それで配信もオーケーと」

「はい。こういった危険な迷宮も増えているので、入る場合は気を付けてください……という意味もあります。何より、こちらとしても配信を確認すれば攻略状況が分かりますので、助かります」

「いちいち確認のために人を割いていたら、大変ですもんね……」

「……ええ。最近は迷宮の出現も増えていて、もう協会の人たちは残業続きなものでして――」


 下原さんは笑ってこそいるが、その笑顔はどこか哀愁漂うものだった。

 同じ社畜仲間としてか、霧崎さんも理解した様子で頷いている。


 協会としても高ランク迷宮がしっかり攻略されたかどうかを確認するための人材を派遣する余裕がないのだろう。

 最近、なんかやたらと事件が増えてるしな……。

 ただ、少し心配そうにしているのは霧崎さんだ。


「……撮影含めて一人になりますが、大丈夫ですか?」

「ええ、まあ。任せてください」

「それなら、いいのですが……」


 歯切れの悪い霧崎さん。

 ……何か心配されるようなことはあっただろうか?

 少し気づいて考えた俺は、彼女に親指を立てて答えた。


「あっ、もしかして俺一人だとマヤチャンネルへの誘導が上手くいかないかもとか心配してくれてますか? 大丈夫です、ばっちり宣伝しますから」

「いや、それはまったく心配していませんが。ここ最近、迷宮内でのイレギュラーも頻発していますから気を付けてください」

「もちろんです」


 確かに、ここ最近はそういうイレギュラーが多いみたいだな。

 俺も色々と遭遇しているので、思い当たる節がある。

 ユニークモンスターなどの出現も増えているらしいので、迷宮が活発化しているという専門家の意見もある。

 とはいえ、冒険者のやることは変わらない。


 迷宮の前に到着すると、すでに周囲は警察、協会、警備会社所属と思われる冒険者たちによって規制されている。

 ……まあ、BからSランク迷宮と幅広く変化する迷宮だ。

 迷宮の発生場所も街中であり、万が一迷宮爆発が起きるようなことがあれば、それはもう大変なことになるだろう。


 規制の外側にはマスコミや近隣の人たちが集まっている。

 凄まじい数の野次馬だ。

 俺たちが近づいていくと、こちらに気づいた人々がそれぞれ持っているカメラやスマホなどを向けてきて、撮影を開始する。

 そして、


「鈴田さん! 今回の迷宮攻略を行うにあたっての意気込みなどはありますか!?」

「どうやら鈴田さんがこのジパング迷宮の攻略に当たるようです! お兄さん! 今どのような気持ちでしょうか!?」

「お兄様! 迷宮攻略をするにあたって不安に感じている近隣住民になにか一言!」


 ……声を荒らげ迫ってくるマスコミなどを警察や協会の人が押さえつけている。

 結構な迫力だ。どうやら現在テレビ局も訪れているようで、カメラがいくつもこちらに向けられる。

 ただ、事前に下原さんから聞いていたが、反応しなくていい、とのこと。


「騒がしくなってしまって、申し訳ございません」


 下原さんがぺこりと頭を下げてきたが、別に彼は関係ないだろう。


「いや、大丈夫です。これなら、マヤチャンネル宣伝用のシャツでも着てくればよかったですね」

 

 せめて、この状況を活かす方向で考えるべきだっただろう。

 もったいないことをしてしまった。

 苦笑している二人とともに、俺たちは件の迷宮へと向かっていく。

 迷宮の入口に立ったところで、下原さんが改めて頭を下げた。


「それでは、お願いします」

「ええ、任せてください。それじゃあ、行ってきます」


 俺はひらひらと手を振りながら、迷宮の入口から繋がる階段を下りていった。





―――――――――――

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