第190話
「ほお、まだ動けましたか」
「麻耶がいる限り、死ぬわけにはいかないからな」
「はは、守り切れないものの話をしても無意味ですよ!」
ジェンスが再び洗脳魔法とともに攻撃してきたが、俺は跳躍してそれらをかわしていく。
次第に苛立った様子でジェンスが顔を顰めていく。
「ちょこまかとっ!」
「最後に一つ確認なんだが、おまえの所属している組織についてもう少し具体的に教えてくれないか? リーダーの名前はなんだ? 教えてくれれば、少しは加減してやるが?」
「加減? 私以下の魔力のあなたが、ふざけたことを抜かさないでくださいよぉ!」
叫ぶと同時、周囲の自然が襲い掛かってくる。
……面倒だな。
話せるうちに、できるだけ情報を引き出そうと思っていたのだが……これ以上は難しそうだ。
「……今すぐ組織壊滅させにでも行ってやろうかと思ったが、仕方ないか」
放っておけばまた麻耶たちが危険にされされる可能性がある。だからこそ、すぐにでも処分しにいこうと思ったがそれはできなさそうだ。
ジェンスがさらに肉体を強化し、こちらへと迫ってきて剣を振りぬいてきた。
速いが――見切れるほどだ。
必死に逃れようとしていたジェンスだったが、剣はまるで動かない。
そりゃあ、俺が全力で掴んでいるんだからな。
たまらず抜け出そうとしたジェンスが、口を大きく開いた。
「き、貴様ァ! 『風よ! 彼を拘束せよ!』……うぐ!?」
苛立った様子でジェンスが周囲に命令を飛ばしたが、動きを止めたのはジェンスのほうだ。
「『風よ、彼を拘束せよ』……だったか?」
俺が先に、同じ魔法を放っていたからだ。
別に口に出さずとも使用できる魔法のようだが、口に出したほうが威力が高くなるようだ。
さらにジェンスの体に風がまとわりつき、動きを完全に止める。
「な、なぜ!? 貴様の再現魔法はあくまで劣化コピーだろうが!」
「俺の配信見てないのか? とっくの昔に劣化コピー以上のものになっているのは分かってるだろ?」
動けなくなったジェンスに向かって拳を構えると、ようやく彼の余裕そうな表情が崩れた。
それまでの圧倒的な強者の立場が崩れ、今にも泣き出しそうになる。
「……くま、待ってくれ! やめてくれ! 組織のこととか話すか――ぶべぇ!?」
「なんだと?」
とりあえず苛立っていたので、一発ぶん殴ってから胸倉をつかみなおす。
ジェンスが怯え切った表情でこちらを見てきたので、俺は以前と同じように威圧する。
「おい、一発で済ませてやったんだ。さっさと話せ」
「そ、組織のリーダーの名前はル――」
彼が何かを叫ぼうとした瞬間だった。
何かが迫ってきているのを感じた俺は、反射的にその方角へ足を振りぬいた。
同時に、何か硬いものと足がぶつかり、俺はそいつを思いきり弾き飛ばした。
……魔力の反応がない? 視線を向けてみると、そちらには見知らぬ女性がいた。
無機質な表情でこちらを見てくる彼女は、目的を達成したとばかりにその場から立ち去っていた。
追いかけようにも魔力の反応はない。動いている気配などを辿っていくことはできるが、あくまでそれは目の届く範囲での話だ。
ジェンスを放置してそちらへ向かうわけにもいかないため、俺は一度彼女を追いかけるのはやめ、ジェンスへと視線を向ける。
見ると、ジェンスは泡を吹いて意識を失っていた。
ちっ、せめて重要な情報を吐いてから気を失えってんだ。
麻耶を狙ったことに対して、まだ怒りはあったが貴重な情報源だ。俺は強くもう一発顔面を殴ってから、ジェンスを地面に捨てた。
「まったく……面倒な事件起こしやがって」
色々と問題が起きてしまい、ため息を吐くしかない。
これでは、おちおいと麻耶の配信も見れないじゃないか……。
「ひとまず、全部片づけないとな」
そんなことを、一人呟いていると、この場に駆けつけた会長たちがこちらを見てきた。
……どうしてここにいるんだ?
しかも、滅茶苦茶慌てた様子だ。
「あれ、会長? どうしたんですか?」
「……玲奈さんの連絡を受け、駆け付けました。そちらの男は、ジェンスで間違いありませんよね?」
……会長も、どうにも本気で駆けつけてくれたらしい。
凄まじい魔力が感じられる。
「ええ、魔力増幅薬を使っていると思います」
意識を失っていた彼を片手で持ち上げると、会長は小さく頷いた。
「分かりました。レコール島のほうもすでにほとんど落ち着いたようです。色々とありがとうございました」
会長とそれにあわせて皆が頭を下げてきた。
それなら、良かった。
向こうの問題はほとんど片付けたつもりだったが、それでもまったく心配していないわけではなかったし。
これで、一時的な問題は解決した。
あとは、ジェンスの所属している組織とやらの情報を引き出すだけだな。
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