第189話
「さて――手っ取り早く全員を洗脳してしまいましょうか」
「させると思ってんのか?」
抜かした言葉を吐き出した男に、俺は拳を叩き込んだ。
だが、頭を叩き潰すつもりで放った一撃は――しかしかわされた。
俺から距離を取ったジェンスはにやりと笑みを浮かべている。
「お兄ちゃん!」
「麻耶、無事か!?」
俺はちらと背後にいた麻耶へと視線をやる。
どこにも怪我はない。
いつも通りに可愛い麻耶がそこにはいた。
「うん、皆が守ってくれたから、大丈夫!」
「さすが親衛隊だ!」
「勝手に親衛隊にしないでください……ていうか、私たちの心配はしてくれないんですか?」
じろりと凛音がほっとしたような表情とともに見てくる。
とりあえず、大きな被害はなさそうだな……。
俺は彼女らを守るため、結界魔法を展開する。
さっき、こっちに来る前にレイネリアたちが展開していた結界魔法を少し拝借してきたのだが、良かったな。
「時間稼いでくれて助かった」
場に残っていた魔力から、かなり玲奈が頑張ってくれたことは分かったので彼女を見ながら伝えるとウインクを返される。
「気にしないで。お礼はキスで大丈夫だからね」
玲奈はいつも通り元気そうだ。恐らく、一番無茶な戦い方をしてくれただろう彼女に、感謝しかない。
キスまではいかないが、あとでわがままの一つくらいは聞こうか。
さて。
俺はちらとジェンスを見ると、不気味に笑っている。
以前よりもどこか不気味さが増している。ろくに睡眠もとっていないのか、目の下のクマも酷いものだ。
「レコール島の迷宮爆発……あれもおまえ関わってるな?」
「さて、どうでしょうか?」
くすくす、と不気味に笑う彼に俺は分かっている情報を伝える。
「魔力増幅薬で迷宮の活性化もできるんだろ? 迷宮から同じ魔力が感じられてんだ。言い逃れできると思ってんのか?」
以前と同じように殺気をぶつけながら言い放つのだが、ジェンスは余裕そうに微笑んでいる。
「はは、よく気づきましたね。私が所属している組織の目的は、新世界の構築ですからっ! そのためにも、あなたが邪魔なんですよ!」
「……なるほどな。おまえが、そのリーダーか?」
「いやいや、リーダーは私などよりもずっと力を持ち、聡明な方ですよ!」
べらべらと喋る。
……魔力増幅薬の影響もあってか、どうにもいつもよりも冷静さをなくしている様子だ。
今すぐに叩きのめしたい気持ちはあったが、引き出せるだけの情報は引き出しておいたほうがいいだろう。
「じゃあ、もう一つ聞くが……あのレコール島での一件は、俺を日本から……麻耶の傍から切り離すための作戦か?」
「正確に言えば、別動隊で動いているのに私が勝手に合わせただけですよ。まあ、本当はあなたの絶望的な顔を見るためもっと滅茶苦茶にしてからにしようと思っていたのですが。……計画変更です。目の前であなたをぼこぼこにしてから、あなたの妹たちを滅茶苦茶にしてやりましょうか」
舌なめずりをして微笑んだ彼に、怒りは無尽蔵に湧き上がっていたが一度唇を噛んで息を吐く。
「……本気で言っているのか?」
「ですから、愛しの妹さんや大事な友人方を私好みにしてやろうかと思いましてね、あひゃひゃひゃ」
そう言ってジェンスは地面を踏みつける。同時にこちらへと迫りながら、叫んだ。
「『荒れろ大地よ』」
ジェンスがそういった瞬間、俺の足元の地面が揺れた。
……洗脳魔法を使って、大地を支配したのか?
器用な使い方をする。
足元の土が鋭利な刃となって迫った次の瞬間、
「『かまいたちとなって彼を襲え』」
風が俺の体を切り裂いた。……ジェンスの魔法は、洗脳魔法という領域を外れているな。
恐らくだが、魔力増幅薬の影響で魔法自体が強化されたのだろう。
腐ってもジェンスは高ランク冒険者だ。
それが魔力増幅薬というチートを使ったら、こうなるんだな。
俺はジェンスの展開した領域から逃れるために背後へ跳ぶ。
だが、すでにそちらへ先回りするように、ジェンスが迫っていた。
「遅い遅い遅いですよぉ!」
嬉しそうな声とともに、ジェンスが剣を振りぬいてきた。
俺は攻撃をかわすように跳躍したが、脇腹を掠め、軽く斬られた。
剣には毒も塗ってあるのか、吐き気が襲ってきたがすぐにそちらは身体強化で治療する。
「毒も効きませんか」
そうは言いながらもジェンスは楽しそうに笑っている。
「まあ、このくらいはな。……おまえは組織の命令で俺を消しに来たのか? それとも、ただの逆恨みか?」
「いえ……あなたを消すように命令も受けていましてね。あなたを消せれば、私は新世界であの方の右腕になれるんですよ」
「さっきから新世界新世界って……ふざけているのか?」
「ふざけてなどいませんよ。まあ、ここで死ぬあなたには関係ありませんがね」
にやりと笑みをうかべたジェンスが剣を振りおろしてくる。
攻撃は簡単にかわせたが、ジェンスは俺を見て余裕そうに微笑んでいる。
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