第76話

〈草〉

〈このお兄ちゃんはしゃぎすぎだろw〉

〈まあでもわからんでもないわ。ずっと視聴してきた身としても誇らしいし〉

〈マヤちゃんは私の自慢の妹だわ……〉

〈マヤちゃんは俺の妹だぞ?〉


 コメント欄にやばい奴が少し出ているのだけが心配ではあったが、俺はとにかく喜んでいた。

 喜びまくって……そして、疲れてしまったので二人に問いかける。


「それじゃあ、麻耶、会長。もう今日は終わりでいいですか?」

「ダメだよお兄ちゃん。メインディッシュなんだから」

「いやいや、麻耶の結果見ただけで満足じゃないか?」

〈満足はしたけど、本番も期待してんだぞ!〉

〈どっちかっていうとここにいる視聴者たちはおまえを楽しみにしてんだぞ!〉

「ふふ、ダメそうですね迅さん。それでは……迅さん。こちらに手を、のせていただいてもいいですか?」

「……へいへい。分かりました」


 俺は小さく息を吐いてから、魔力を高めていった。



 測定機の前に立つと、霧崎さんのカメラもこちらを向く。

 モニターを見れば、爆速すぎてまるで見ることのできないコメント欄。

 ……皆が期待しているようだ。


 まさか、ここまで注目を浴びる人間になるとは思っていなかったな。

 小さく息を吐いてから、俺は片手をその測定機に乗せた。


 その瞬間、数値は一瞬で100を示した。


『……』


 この場の皆が唖然としていた。

 結果は予想していたのかもしれないが、それでもこうして目の前に見せられると……驚きが隠せない様子だった。

 だが、会長と麻耶だけは違った。


「お兄ちゃん凄い! やったね!」


 麻耶は拍手とともに手を鳴らしている。そうそう、俺はこうやって麻耶に褒めてもらうためだけに色々な技能を身に着けていったのだ。

 報われてよかったぜ……。

 そして、会長は微笑とともにこちらを見ている。……俺の魔力を悟り、俺の能力を大まかに把握していたんだろう。

 やはり、会長は……日本で最強だ。


〈やばww〉

〈お兄ちゃんwwww〉

〈やっぱお兄様は最強じゃねぇか!〉

〈マジかよwwww〉

〈日本の記録更新! ついでに災害級じゃねぇか!〉

〈災害級の冒険者がとうとう日本にも現れたのか!〉

〈やべぇ! 一瞬でトレンド一位じゃねぇか!〉

〈もう記事用意されてたみたいじゃねぇか! トップニュースに載ってんぞ!〉

〈まあこうなるの分かってただろうし、記事用意してただろうな……〉


 ……コメント欄で拾えるものだけでも、そんなものがあった。


「あれ? 災害級かどうかって三回測って調べるんですか?」


 麻耶が首を傾げると、こくりと会長は微笑んだ。


「そうですね。そして……世界の災害級は同時にある記録も残しています」

「どんな記録なんですか!?」

「測定機を破壊するほどの魔力を放出するんです。……迅さん。失礼ですが――まだ抑えてますよね?」

「……」


 ……どうやら気づいていたようだ。

 会長の観察眼はさすがだ。俺は頭をかきながら、視線を外す。


〈は?〉

〈マジで!?〉

〈100出しておいてまだ抑えてるって……ありえるのか?〉

〈さすがにありえないよな? だよな?〉


 別に意識的に隠すとかではなく、俺は純粋に心配していた。


「測定機って許容量を超える魔力だと普通に壊れますよね?」

「壊れますね」

「万が一傷でもつけたらえぐい金額の賠償金払うことになるんじゃないですか? そんなことしたら毎日迷宮潜らないといけなくなって、麻耶の配信をゆっくり見る時間がなくなるんですけど……」


 俺の心配はそれである。

 そりゃあまあ高ランク迷宮の素材を持ち込めばわりとすぐに弁償できるかもしれないが。


〈マヤちゃんの配信見れないとか地獄だよな〉

〈心配する部分がおかしくて草〉

〈相変わらずだなお兄様w〉

〈そりゃあそうだよな、お兄ちゃんにとっては呼吸するようなもんだもんな……〉

〈ぶっ壊したら洒落にならねぇよな。賠償金とかいくらになるんだよ〉


「安心してください――万が一破壊しても、協会で負担しますから」

「ええ!? か、会長!?」

「いいんですか?」

「ええ、大丈夫です」

「部下めっちゃ動揺してますけど」

「気のせいです」


 それなら、大丈夫だ。

 俺はちらとカメラのほうへ顔を向け、声をあげる。


―――――――――――

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