第131話




「あっ、やばっ! お兄さんちょっと、逃げられない! 自爆に巻き込まれちゃう!」


 見ればデモゴーグは満身創痍ながら有原の足を掴んでいた。

 ……まったく。

 俺は一瞬で距離をつめ、有原の足を掴むデモゴーグの腕を手刀で切断。有原を抱えるように跳躍すると、ちょうど背後で爆発した。

 爆風に体を預けるようにして着地したところで、スマホを見る。


〈お兄さん鮮やか!〉

〈流石お兄様!〉

〈お兄ちゃんマジイケメン〉

〈今の凄かったな〉

〈俺もああいう風に助けてもらいたいぜ〉

〈お兄様素敵〉

〈惚れる〉

〈やべぇ、お兄様……好……〉

〈あ、ずるいぞ!〉

〈俺もお兄様にお姫様抱っこされたい〉 〈俺も〉 〈私も〉 〈俺も〉 〈俺も〉 〈俺も〉 〈俺も〉 ……。


 別に狙っていたわけではないのだが、意図しない形で視聴者を刺激してしまったようだ。


「大丈夫か有原?」

「あんがと。……いやぁ、身体強化をあげた反動がちょうど攻撃したあとに来ちゃって……でも、戦い自体は良かったっしょ?」

「そうだな。あとは最後まで気を抜かないようにな」

「もち」


 ……とりあえず、有原の課題はそこだな。

 手を抜くわけではないが、そこまで魔力がまだ多いわけではないので、節約しがちだ。

 まあ、ソロで活動する人が多い人にありがちだ。常に自分の全力を出せるよう、無駄を省きがちになる。

 そのせいで危険になって、想定外に魔力を使うこともあるものだ。


 今回は俺がいたから良いものの、もう少し敵との能力差について身に着ける必要があるな。


「ねえねえお兄さん。ここの第三階層に繋がる階段の扉の仕掛けはどうやってあけるの?」


 俺は事前に協会から教えてもらっていた仕掛け解除のための資料を見てみる。

 スマホにPDFで登録されているのだが、それによると――。


「……東西南北にある部屋に置かれたスイッチに100キロ程度の重さを置く必要があるみたいだ」

「100キロって……最低でも大人二人くらい必要って感じ?」

「だな。ここで八人は使う必要が出てくるらしい。まあ、一応荷物とかで代用もできるみたいだけど、そんな400キロの荷物運んでくるのはそれでそれで大変だよな」

「うへぇ、面倒くさい迷宮だね。だけど、お兄さんは?」


 俺からスマホをとるようにして、有原が少し離れたところから撮影を始める。

 俺は少し力を籠め、扉に向けて蹴りを放った。

 激しい音をあげ、扉が壊れる。


「わー、あっさり突破じゃん。というわけで、皆も困ったら壊して進みましょう」

「再生する前に行くぞ」

「てか、ちょっと思ったけど、お兄さんって以前地面蹴破って攻略してたよね? 今回もそれでよくない?」

「それは迷宮が可哀想だろ? せっかく準備してくれた仕掛けをといてやらないとな」

「確かに、言われて納得。それじゃあ、いこっか」

「おう」


 俺と有原は迷宮の先へと進みながら、コメントを見る。


〈……いや、といてないんですが?〉

〈これは解いてないんですがそれは……〉

〈お兄さんの基準がわからないw〉

〈お兄ちゃんは常識にとらわれない男だから〉

〈お兄ちゃんはやっぱり規格外だった〉

〈お兄様はやはり最強〉

〈流石ですお兄様〉

〈お兄さん、抱いて〉





 第五階層へとやってきた。

 この辺りは草木が生い茂っていて、視界が悪い。

 魔物に気を付けながら進んでいるが、この辺りは特に奴らの気配は感じられない。


 ここは第四階層までの洞窟とはまた違った雰囲気がある。

 カメラを向ければ、有原が笑顔を浮かべていた。


「なんか迷宮の雰囲気変わってきた感じ?」

「だな。五階層からは草原が広がっているみたいだ」

「へぇ、こっちのほうが動きやすくていいじゃん。カメラ的にも明るいほうがいいし」


 さっきまでは遺跡のようなフロアが続いていたからな。どちらかというどんよりとした感じだ。


〈次はどんな仕掛けか楽しみだ〉

〈まあ、何があっても全部解説したあとに破壊するんだけどなw〉

〈わくわく〉

〈胸が高鳴るな〉

〈美也ちゃん……笑顔がとてもとてもかわいい〉

〈チャンネルないのが残念だぜ……〉

〈天使〉


「おい、有原。皆が天使、笑顔が可愛いって話してるぞ?」

「ありがとねー。まあ、見た目活かして仕事してるし、それなりに自負はあるよ。どうお兄さんもあーしの魅力にメロメロじゃない?」


 こちらにカメラを向けて問いかけてくる有原に俺は何を聞いているんだという気持ちで答える。


「俺の心の天使は麻耶だぞ」



―――――――――――

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