第38話


「皆初めまして! 今日はマイダーリンと一緒だよ!」


 ……配信開始と同時、玲奈の発言に俺は頭を抱えることになる。

 とはいえ、これは覚悟の上だ。

 俺は玲奈に声をかける。


「だから、マイダーリンと呼ぶんじゃない」

「じゃあ、お兄ちゃん?」

「おまえのような妹を持った覚えはない」

「妻ってことだ!」

「前向きすぎるんだおまえは」

「というわけで、レイナとお兄ちゃんのラブラブカップルチャンネル始まるよー」


〈おい、ふざけんな!〉

〈誰かこいつ追い出せ!〉

〈草〉

〈レイナちゃんこのテンションなのかw〉

〈ていうか普通に二人仲良いな……〉


「そりゃあそうだよ! お兄ちゃんとはそれはもう毎日のようにくんずほぐれつ爛れた関係だったから……」

「ただ冒険者として指導したことがあるだけだからな? 毎日じゃないし」

「うん、そういうことにしておくね」

「意味深なこと言を言うんじゃない」

「はいはーい。そういうわけでやってきました! 黒竜の迷宮第95階層の階段! ダーリン、今日は黒竜の迷宮の100階層を目指すってことでいいんだよね?」

「……ああ、それでいいぞ」


〈お兄さんが珍しく疲れた顔してるなw〉

〈いつもリンネちゃんやマヤちゃん相手だとからかう側なのに完全に防衛側に回ってるからなw〉

〈これはこれで新鮮でいいな〉

〈お兄様に近づくなお兄様に近づくな!〉

〈おお、ここ最近増えているレイナアンチじゃんw〉

〈ていうか、ここまでお兄さんのガチ恋勢がいたことに驚きだなw〉


 コメント欄では賛否両論の嵐である。

 まあ、俺は別にいいし玲奈も特に気にしている様子はない。

 

「そんじゃ玲奈。早速俺は黒竜を倒しに行くから、カメラマンを任せていいか?」

「おっけー! 妻として、頑張るね!」

「やっぱり凛音でも連れてきてツッコミやらせればよかったか……?」


〈草〉

〈確かにリンネちゃん、他のやばいライバーに囲まれたときはツッコミしかしてないからな〉

神宮寺リンネ〈私を便利屋みたいに言わないでください……〉

〈おお、本人降臨じゃん〉

〈今から呼んで三人で配信したほうがいいんじゃないかw〉


 凛音がコメント欄にいたようだ。本当に今すぐここにきてほしいのだが、玲奈がむすっと頬を膨らませる。


「ダメダメ。それは浮気だからあたしが禁止したの」

「また浮気の意味を確認するか?」

「ダーリン。浮気はダメダメ。ていうか、雑談配信になっちゃってるよ? マイダーリンがあたしとの関係を認知しないから……」

「その言い方やめてくれない? なんか俺が悪いことしてるみたいになってるからな?」

「……あたしのことはいいの、でもお腹の子だけは……あなたの子どもとしてみてください……」

「本気でやめろ。何も関係ないからな」

「うん、冗談冗談。……そういうことにしておかないとね」

「だからその言い方をやめろ! 凛音! 助けてくれ!」


神宮寺リンネ〈ナカヨサソウデスネ〉

〈あっ、リンネちゃん白目向いてそう〉

〈前複数人でコラボ配信したときのリンネちゃんはひたすらツッコミ入れてたもんなw〉

〈あのときの死んだ顔はマジでお手本にしたい死んだ顔だったなw〉


 このまま玲奈のペースに巻き込まれてはいけない。

 俺は一つ咳ばらいをしてから、歩き出す。


「もうオープニングトークは十分だろ。さっさと行くぞ」

「あっ、待って待って。うん。それじゃあ皆。ここからはお兄さんの便利な女になるね」


〈おう。さっさと画面から消えろ〉

〈うちのお兄さんを困らせやがって……〉


 コメント欄が何やら不穏ではある。

 ……さすがに、何かフォローしてやらないと、玲奈に色々と被害が出るかもしれない。

 ネットというのは恐ろしいものだしな。


「まあ、そこまで困ってはいないから。何かこいつにするのはやめてくれ」


 一応のフォローをしてやると、コメント欄はそれはそれで発言が過激なものになっていく。


〈なに!?〉

〈本当は喜んでいるのかお兄さん!〉

〈お兄ちゃん、どういうことなの!?〉


「……ああ、もう面倒くせぇなおい! おまえどうすんだこの空気!」

「楽しそう!」

「んな無邪気な言葉で終わらせるなっ。おら、行くぞ!」


 ……とりあえず、俺と玲奈の関係については視聴者もわかっただろう。

 いつも通りのやり取りを終えたところで、俺は95階層へと歩いていく。

 俺たちが移動して先へと進むと、黒竜が出現する。


〈……出やがった〉

〈ていうか、今回は黒竜の先に行くんだよな……?〉

〈ってことは、こいつを倒すってことだよな?〉

〈いや、倒せるのは分かってるけど、改めて凄いことだよな……〉

〈今日の配信は、間違いなく歴史に残るものだぞ……っ〉


「……さて、やるかね」

「カメラはばっちり準備してるからね。ダーリン頑張って」

「頑張りはするが、ダーリンじゃないからな」


 きちんと否定しておかないと、そのうち皆に受けいられそうである。

 もしかしたら玲奈はそれが狙いなのかもしれない。だとすれば恐ろしい策士だ。


 俺は全身の身体強化を行い、黒竜へと向かう。

 今回はあまり時間をかけている余裕はない。

 攻撃をかわし、さっさと首を落とした。



―――――――――――

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