第37話




「というわけで、今回は真紅レイナという方とコラボすることになりました」


 軽い雑談配信を開始した俺は、すぐにそう切り出した。

 正直言ってどこで暴走するかわからないため、あまり気乗りはしないが……これも麻耶のためだ。

 そんな俺の様子が視聴者にも伝わったようで、コメントが増えていく。


〈なんか珍しいくらい真面目じゃねぇか?〉

真紅レイナ〈真面目!〉

〈おお、ご本人登場じゃん〉

〈っていうか、レイナは男性とコラボっていいのか? おまえマイダーリンがいるんじゃないか?〉

真紅レイナ〈大丈夫!〉


 ……玲奈のコメントはそれ以上されなかった。

 これが恐らくこの場にいたとなれば、あれやこれやとあることないこと発言していたことだろう。


「まあ、彼女とのコラボに当たって……色々と事情があるので、今回はマネージャーとともに状況について話をさせてもらうってわけで、今日の配信の目的はそこだ」


 ……だから、雑談配信である。

 迷宮での配信を期待していた人たちからすれば需要は薄いだろう。

 俺がそういうと霧崎さんがやってきて、すっとお辞儀をした。

  

〈おおマネージャーさん!〉

〈マヤチャンネルでも時々映ってるよな〉

〈相変わらず美人だな〉


 そんなコメント欄を気にせず、霧崎さんは語りだす。


「……今回、なぜ事前にこのような配信をしたのかにつきましてですね。実は真紅レイナさんとお兄さんは知り合いだったんです」


〈は?〉

〈どういうことだ?〉

真紅レイナ〈照れますね!〉

〈おいレイナ。うちのお兄様に何してんだ? ああ?〉

〈お兄様。悪い虫がついているようですね〉


「……その、真紅レイナさんが昔迷宮爆発に巻き込まれたときに助けたのが、お兄さんだったんです。それから、二人は時々会う程度の仲ではあったそうです」


〈まさかの知り合いで草〉

〈え? マジで?〉

〈草〉

真紅レイナ〈知り合い!〉


「そして、ここからが問題でして……レイナさんが配信の際に婚約者がいる、とよく話していたと思いますが……それはどうやらお兄さんのようでして――」


 そう霧崎さんが発言した瞬間、コメント欄が一気に伸びていった。


〈は?〉

〈お兄様!? どういうことですか!?〉

〈ファンを裏切るんですか!?〉

〈お兄様w犯罪か?〉

真紅レイナ〈照れる!〉


 ……そんなコメントで溢れていき、玲奈に対して攻撃的なコメントが増えていく。

 え、俺が攻撃されるんじゃなくてそっちなの? という思いはあったが、すぐに霧崎さんが訂正する。


「お兄さんに確認したところ、婚約などの約束は一切したことはない、とのことです。戦闘に関して時々指導をしていたことはあるそうですが、婚約者などといった発言はすべてレイナさんの嘘、妄想だということが判明しました」


〈草〉

〈おい。レイナがやべぇやつじゃんこれじゃあ!〉

真紅レイナ〈やべえやつ!〉

〈自分で言うんじゃねぇよw〉

〈つまりどういうことだ?〉

〈レイナがただただ勝手に言ってただけってことか?〉

〈www〉


「黒竜の迷宮の先が見たいという意見もあるらしいからな。そこで、カメラマンを用意したほうが見やすいだろうってことで……能力のある玲奈が候補に挙がったってわけだ。カメラマンとしてついてきてもらうというわけで面会したら……まあ俺の知っているやべぇ玲奈だったってことだ」


〈草〉

〈でも、同じ事務所なんだし気づかなかったのか?〉

真紅レイナ〈私知ってた!〉

〈いやおまえじゃなくてお兄様のほうだよ……〉


 何を言っているんだかこのコメントは。


「俺が知るとでも? 麻耶とコラボしたことあるか?」


〈それで納得できるのが草〉

〈ああ、そうだよな。お兄さんはそういうやつだよな〉


「そういうわけで、次のコラボをやる前に事前に情報を共有しておいたほうがいいと思ったんだよ。普段の玲奈のテンションで来られると、たぶん視聴者混乱するからな。そういうわけで、今日の配信の目的はこれで終わりだな。何か質問あるか?」


 特になければこれで終わりなのだが、コメント欄はいろいろな質問が出てくる。


〈お兄さんとレイナちゃんが知り合いだったし、婚約者なのは分かったけどレイナちゃんが配信で、家族全員助けてもらったことがあるっていうのは本当なの?〉

〈レイナちゃんがいつも毎晩愛し合っているって言っているけど、それはどうなんだ?〉

〈ていうか、そもそもお兄さんって付き合ってる人とかいるのか? 結婚は?〉


「……結構たんまり質問来てるなおい。まず、家族全員助けたっていうか……まあ、たまたま迷宮爆発に巻き込まれていた玲奈一家を助けただけだ。そんな感謝されるようなものじゃない。毎晩愛し合っているは玲奈の嘘だな。LUINEが毎日のように来るが、半分くらいは無視してる。俺は付き合っている人はいないし、結婚の予定も特になし。それよりマヤチャンネルを見るのに忙しいからな。以上」


 それからは、特に質問はされていない。

 ただただひたすらに玲奈がやべぇやつという形でまとまっていたので、霧崎さんが咳ばらいをしてから話をまとめる。


「そういうわけでして、先に配信で状況についてまとめさせていただきました。……玲奈さんは事務所であった際にも結構セクハラ行為を行っていたので、当日もそれらが予想されますが特に気にせず見てください」


〈は?〉

〈お兄様に何やってんだ?〉

〈お兄さんのほうがかばわれるの珍しくないかw〉

〈普通炎上するとしたら逆だろw〉

真紅レイナ〈大丈夫マイダーリン! 何かあったら、あたしが責任とってもらうから!〉

〈おい早速やってんぞこいつ〉


「……とにかく。次回の黒竜の迷宮の攻略配信を楽しみにしていてください。お兄さん、何か最後にいう事はありますか?」

「いや、特には……あっ、マヤチャンネルの登録よろしくなー」


〈……そういえば、さくっと流していたけど黒竜の迷宮攻略……?〉

〈まさか95階層から先に行くのか!?〉

〈お兄様!? どういうこと!? そっちの説明もして!〉

〈なんでSランク迷宮攻略の情報がついでみたいな扱いなんですかねぇ……〉


 なんだかコメント欄が盛り上がっていたが、それについては当日になればわかることだしもういいだろう。

 俺たちの事前の説明配信はそこで終わりにして、配信を停止した。

 配信を終えたところで、俺は霧崎さんに問いかける。


「これで玲奈の件は大丈夫ですかね?」

「……まあ、何も知らせていない状況から始めるよりはましかと」


 ……まあ、そのくらいの意見になるよな。

 あとは当日。どうなるか……。

 玲奈、頼むぞ。


―――――――――――

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