第39話

〈……は?〉

〈……相変わらずえげつないな〉

〈ていうか、黒竜って案外強くないんじゃないか?〉

〈感覚がマヒしてくるわな、こんなの見せられると〉

〈マジでこの人えげつないわ……〉


 戦闘は一瞬で終わり、俺は黒竜の素材を回収してから玲奈を見る。


「んじゃ、先に行くか」

「そうだね。ちなみに、私も黒竜には挑戦したけど無理でした」


 玲奈とともにワープできるよう、事前に95階層までは来ていた。

 そのときに玲奈も戦ってみたいというので戦わせたが、勝つことはできなかった。


〈そりゃあそうだろ〉

〈まあ、普通なら無理だわなw〉


「さて、それじゃあ、前人未到の96階層に行こっか」

「そうだな」


 といっても、俺は行ったことがあるのであまりコメント欄の人たちのような盛り上がりはない。

 それを察したようで玲奈が首をかしげる。


「でも、マイダーリンはもう96階層には行ってるんだよね?」

「何度か足を運んだことはあるな。ああ、一応だけど、96階層に入ってからは、俺の前に出ないようにな」

「どうして?」

「まあ、行けば分かる」


 96階層はそれだけ危険な魔物が多いというわけだ。

 俺の言葉にこくりと頷いた彼女とともに、96階層へと向かう。

 階段を下りた先、まだ魔物の姿はない。

 だが――こちらを伺う様子は感じられる。

 

「感じ取れるか、玲奈」

「ダーリンの愛を? ばっちしだよ」

「魔物の気配だ」

「それも多少は……」


 まるで俺の愛があるかのように繋げないでほしい。

 となると、狙われるのは玲奈からか。

 そう思った次の瞬間。風を切るような音がする。

 俺は即座に玲奈のほうへと片手を出し、その矢を掴んだ。


「はへ!?」


 驚いた様子で玲奈が素っ頓狂な声をあげる。

 掴んだ矢は魔力でできている。

 俺の魔力凝固と似たような原理でできた物質だ。少しすると、魔力の矢は消滅する。


〈なんだ今の!?〉

〈まったく見えなかったぞ!?〉

〈それに即座に反応するとか、やっぱりお兄さん凄すぎる……〉

〈今のはレイナを狙っていたのか?〉

〈お兄さんとレイナだったら、確かにレイナのほうがまだ倒しやすいもんな……〉


 戦闘の鉄則は敵の数を減らすこと。

 賢い魔物はその基本に従い、今のような狙いをつけてくることがある。


「マイダーリン……もしかしてこの階層やばいのでは?」

「今さらなこと言うな。ここはSランク迷宮の96階層だぞ? 普通に相手していたらまず危険な魔物たちしかいないからな」

「そ、そうだったね……マイダーリンとのハネムーンで忘れてたよ」


 相変わらず能天気な奴だ。

 そんなことを話していると、さらに数発の矢が飛んでくる。

 絶え間なく飛んできた矢のすべてを弾きおとすと、向こうもこちらの実力を理解したようだ。


 遠距離からの攻撃では倒せないと判断したようで、黒い影のような魔物が、姿を見せた。そいつらは人型をしていて、それぞれが武器を持っている。

 剣、弓、槍の個体か。先ほどの矢は、あの弓兵が放ったものだろう。


「これがさっきの攻撃をしてきた魔物?」

「名前は特にないんだけど、似たような魔物いるのか?」

「うーん……似たようなのだと、シャドウファイターとか? でも、そいつらって確かCランク迷宮とかに出てくるやつだから……ちょっと違うかも?」

「じゃあ、シャドウファイター2とか呼べばいいのかね?」

「どうせだったら、シャドウナイトとか?」

「まあ、好きに呼んでくれ」


 三体が、同時に動く。弓が引かれ、矢が放たれる。まっすぐに飛んできた矢は俺を狙っている。同時に、左右から剣と槍を持った個体が迫ってくる。


 連携のとれたいい攻撃だ。

 まとめてかわすのは本来なら難しいだろう。

 

 だが俺は、それを正面から迎え撃つ。全身の身体強化を強める。

 右から襲い掛かってきた剣を片手で掴む。白刃取りの要領で掴み、左から迫ってきた槍はかわしながら脇で押さえる。

 正面からの矢は、頭突きで破壊する。


「……ッ」


 シャドウナイトたちが武器を取り返そうと力を入れるが、俺はそれ以上の力でもって押さえつける。


「逃げられると思ってるのか?」


 剣と槍を破壊すると、慌てた様子で後退するシャドウナイトたち。

 だが、その背後をとり、俺は一瞬の間で二体の首を跳ねた。


「……!」


 弓を構えたシャドウナイトは、狙いを俺から玲奈に変える。

 即座に矢が放たれるが、玲奈とシャドウナイトの間に入り、受け止める。


「お返しだ」


 掴んだ矢を投擲すると、シャドウナイトの体を貫通した。


―――――――――――

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