第40話


 戦闘を終えた俺は服についた汚れを払うようにしてから、玲奈を見る。


「先に進むぞ。どうしたんだ?」

「う、うん……いや、今更なんだけど、凄いことしてるなぁって思って。ねね、この前の配信でやってた指導の通りに訓練してる感じなの?」

「まあそうだな。毎日やってれば、このくらいはできるようになるな」

「うはー、凄いね。さすが、あたしのダーリンってところだね」

「それは違うが。ただ、指導した内容はあくまで基礎だからな。今後成長してくればそれに合わせて調整も必要になってくる。そうやって、毎日試行錯誤しながら迷宮に潜り続ければ強くなっていくよ」

「そうなんだ。ダーリンも毎日入ってるの?」

「今はそこまでは入ってないな。ただ、安定して稼げるまではずっと入っていたぞ? 俺だって初めはGランク迷宮から攻略していったんだから、みんな俺くらい戦えるようにはなるはずだぞ?」


 俺だって特別最初から強かったわけじゃないからな。


「あっ、そういえばマイダーリンの昔話とか聞いたことないかも。どんな感じだったのか教えてもらってもいい?」


 昔話ねぇ。

 話しながら、襲い掛かってくるシャドウナイトたちを撃退していく。


〈片手間で倒される96階層の魔物たちw〉

〈俺たちは何を見せられてるんだ?〉

〈ていうかもうこれ黒竜の迷宮っていう名前から変わるかもしれないよな〉

〈まあでも、分かりやすい危険度は黒竜のままだよな〉

〈それこそお兄さんが死ぬようなことがあれば、その階層の名前がつきそうだよな〉

〈不吉もないこというなよな……〉

〈お兄さんの昔話聞きたいかも〉

〈こんな化け物の昔話とか参考になるのか?〉


「昔話ねぇ。さっきも言っていたけど、Gランク迷宮から攻略始めたんだよ。ソロだとどこから襲撃されるか分からないから常に周りを警戒して、だんだんと警戒していると魔力を感じ取れるようになっていって。こちとら明日を生きるにも必死だったから、毎日死に物狂いで試行錯誤して、怪我しながらここまで来たんだよ」


 そういったところで、俺は服を僅かにめくる。

 そこにあった傷の数々を見せると、コメント欄もざわめいている。


〈なんだよこれ……〉

〈戦場帰りか?〉

〈……能力の高いヒーラーがいれば、欠損もすぐ治療すれば治るけど……ソロだもんなぁ〉

〈ポーションとかじゃここまでの傷治せないもんな……〉

〈お兄さん、めっちゃ苦労してたんだな……〉


 そう、俺だって苦労しているのだ。

 だから玲奈よ、これ以上苦労かけないでくれ。


「だからまあ、最近なんかソロで攻略しようとしている人もいるみたいだけど、死ぬ覚悟をもって本気で挑戦するんだったらまあ頑張ってくれ」

「なんかいるみたいだよね。お兄さんのせいだー」

「俺は別に見せびらかすつもりはないからな?」


 玲奈が冗談めかした様子で言ってきているが、これは警告でもある。

 ソロで潜るなら危険だということは理解してもらわないとな。

 とはいえ、本気で迷宮を研究して挑戦していけばその危険を限りなく減らし、いずれは攻略できるようになっていくだろう。

 戦闘が落ち着いたところで、玲奈が目を輝かせながら近づいてくる。


「マイダーリンの腹筋……触ってもいい?」

「別にいいけど……」


〈草〉

〈こいつ……〉

〈はい炎上〉

〈お兄様に触れるな! セクハラ娘!〉


 コメント欄がちょっとばかりあれていたが、すでに玲奈の手は俺の腹に伸びている。

 少しだけひんやりとした彼女の手が撫でる。

 

「わー、いい腹筋だね」

「まあ、迷宮に入ってれば勝手に体は鍛えられていくからな。ていうか、しばらくはこんな感じの戦闘が続いていくけど、配信は大丈夫か?」


 単調な絵が続くと思うが、大丈夫だろうか?


「大丈夫じゃないかな? まあでもダーリン強すぎて絵にならない問題はあるね」

「もうちょっと苦戦してみせたほうがいいか?」

「うーん、それもありかも! 次の配信のときはそういう感じでいこっか」

「おー、了解」


〈ふざけてんのかこの人たちはw〉

〈……なんでこんな低ランク迷宮の攻略配信みたいな空気になってんだ?〉

〈この人たちマジで気楽すぎないかw〉

〈あれ? ここってSランク迷宮だっけw?〉


 っていってもな。

 俺にとってこの階層の魔物は格下でしかない。

 苦戦する絵はなかなか見せられそうにないんだよな。


「まあ何か質問とかあれば答えていくって感じでいいかな?」

「まあそれでいいけど」

「はいはーい。ダーリンの許可も出たから質問タイムね。皆ばしばし送ってきて!」


〈質問です! 好きな女性のタイプはありますか!?〉


「だって! もう、あたしみたいな子だよねダーリン!」

「玲奈と真逆のタイプで」

「マイダーリンはあたし以外興味ないみたいだよ。他に何かある?」


〈ロクに質問に答えてないw〉

〈武器とかって使わないんですか??〉


「俺の全力に耐えられる武器を作れる人があんまりいないからな。それでも、何回か使ってたら劣化していくし……何より金がかかるんだよ。低ランク迷宮攻略してたときは、費用対効果考えてもったいなくて使わなくなったなぁ」


〈草〉

〈金は切実の問題だから……〉

〈確かに、いい武器買っても使えば使うたび消耗していくからなぁ〉


「今はもう金に困ることはないけど、まあなくても問題ないし……鍛えていけば体だけで戦えるからな。これで十分だ」

「そういえば、ダーリンってあたしに剣の使い方教えてくれたときあるよね? やっぱりダーリンも使えるの?」

「まあ、問題なくな」

「それじゃあ、ちょっと使ってみてよ」


 玲奈がさしていた剣を渡してくる。


―――――――――――

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