第18話


 今日の俺は、可愛い麻耶の配信を手伝っていた。

 再び迷宮攻略をするということで、俺がそのカメラマンを務めているというわけだ。

 一応コラボ配信だ。ただし、俺は前に出るつもりはない。


 あとで配信を見直すとき、変なのが映っていてほしくないからな!


「みんなこんばんはっ。今日は前回悔しい思いをした黒竜の迷宮に来てます!」

〈マジかよ〉

〈カメラマンはお兄さんだろ? なら安心じゃないか〉

〈いや、まあお兄さんいるから大丈夫だとは思うけど……〉

「うん、そこは安心して。お兄ちゃん連れてきたから。ていうかお兄ちゃん、今日はコラボ配信だよ!」


 撮影用のスマホを奪い取ろうとしてきた麻耶から俺は距離を取る。


「お兄ちゃんももっと映らないと!」

「俺は麻耶の配信は必ず見直すんだ」

「うんうん、それで?」

「だからノイズはいらん!」

「それなら切り抜き班にお願いしとこうよ! お兄ちゃんなしバージョンを作ってもらうとかね!」


〈おう、任せろ〉

〈むしろマヤちゃんなしバージョンも作るな〉


「こら! 私まで省かないで! ってお兄ちゃん、首を傾げてるけどどうしたの?」

「切り抜きってなんだっけ?」

「あっ、お兄ちゃん知らないんだ。配信の面白かった部分とかがファンの人たちに切り取ってそこだけ動画としてあげてもらうんだよ」

「あっ、たまにオススメ一覧に出てくるな。あれ切り抜きって言うのか。へぇ、なるほど。じゃあ、麻耶の可愛いシーン集、みたいな感じでまとめておいてくれ」


〈了解〉

〈任せろお兄さん〉


「まったくもう……」


 それはまたいいことを知った。

 家に帰ってからの楽しみができたと喜んでいたが、コメント欄にもちらほらと切り抜きに関するものが増えていく。


〈ていうか、お兄さんがすでに切り抜かれまくってるんだけど……〉

〈戦闘シーンはやべぇくらいあるよな。どれもついつい見ちゃうくらい爽快感あるけど〉

〈黒竜との戦闘は未だに滅茶苦茶再生されてるよな〉

〈普通に1000万回再生いってるしな……〉


 そういえば、「切り抜きからきました!」というコメントも見たことあるような……。

 宣伝にも一応なるんだな。


「今日はトラップとかにも気づいてくれるんだよね?」

「任せろ」


 前回は可愛い麻耶を見すぎておろそかになっていた。

 というか、そもそも一階層に罠が出ること自体が珍しいんだけど。


「それじゃあ、早速戦闘を行っていこうと思うから、お兄ちゃん。問題があったら言ってね」

「ああ、任せろ」


〈問題ってどんな感じだ?〉

〈体の動かし方とかじゃないか?〉


 そんな感じで、コメント欄が流れていく。

 そこから麻耶による迷宮配信が始まっていき、戦闘を行う。

 黒竜の迷宮の一階層に出る魔物は、ゴブリンだ。

 麻耶は短剣を握りしめ、ゴブリンへと近づいてさくっと斬り飛ばす。


〈……いや、相変わらず強いよね〉

〈こんなに強い理由ってマヤちゃんのお兄さんがやばかったからなんだなぁ〉

〈まったく苦戦しないなマヤちゃんも……〉


 そんな感じでコメントはされているのだが、俺は麻耶の体内の魔力を見ていた。


「麻耶。魔力の循環が悪い。インパクトのタイミングでもっとしっかり短剣に魔力を集めるように」

「は、はいっ」

「あと。全身の魔力はもっと均等にまんべんなく。そうじゃないと身体強化のバランスも悪くなるからな」

「分かったよっ」


 麻耶はこくこくと頷いて、それから一度目を閉じて深呼吸する。

 ……うん、落ち着いているな。

 戦闘になるとまだまだ乱れる部分はあるけど、麻耶の身体強化はそれなりの質だ。

 

 麻耶は可愛い。

 だから万が一事件に巻き込まれたら大変だ。だから、麻耶が幼いころから身体強化の訓練はさせていた。


 そのおかげもあて、彼女の身体強化はかなりのものだ。

 もっと上のランクの迷宮でも戦えるくらいの能力はある。

 さらにいえば、彼女は――


「フレイムショット!」


 火魔法の適正もある。俺よりよほどバランスのよい戦闘ができる。

 俺が可愛い麻耶をカメラに収めていると、配信のコメント欄では疑問のようなものが増えていた。


〈……どういうことだ?〉

〈やっぱりお兄ちゃん。魔力の流れとか感じ取るのかなり得意なのか?〉

〈身体強化ってちょっと使う分には簡単だけど、高めていこうとすると難しいんだよな?〉

〈そりゃあな。バランスよく強化していかないと、体に負担がかかるからな〉


 そういうことだ。

 例えば、腕を強化するにしても、二の腕と指先で魔力の量が違うと、魔力の多いほうに圧迫されてしまい、均等に強化できていない部位などに大きな負担がかかってしまう。

 だから、身体強化を使用したときに、息切れをする、体が痛む、というのはそれが原因だ。


 使用する魔力量が増えていけば行くほど、そのコントロールは難しくなる。


「お兄ちゃんは昔から魔力を感じ取るのが上手だよね?」

「ある意味、それしか才能がないんだけどな」

「でも、お兄ちゃんはかっこいいからオッケーだよ」

「麻耶も可愛いから最高だぞ!」


〈出た馬鹿兄妹〉

〈草〉

〈でも、魔力を感じ取るってかなりえぐい才能だよな〉

〈お兄さんの指導受けたいわ……めっちゃしっかりとアドバイスしてくれるじゃん〉


「お兄ちゃん、今度講座とか開けば?」

「俺教えるの別に得意じゃないぞ?」

「でも、私がそれなりに戦えるようになったのはお兄ちゃんのおかげじゃない?」

「それは麻耶が可愛いからだ」

「関係ないよー」


〈もうだめだこの二人……〉

〈w幸せだなこの兄妹〉


 麻耶は苦笑しながら、ゴブリンを短剣で仕留める。

 身体強化に慣れてくると、背後に周り、首をべきっとへし折っていた。

 一発で霧になったゴブリンに、コメント欄がざわめく。


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