第21話
お互い変装した状態で、事務所の外を歩いていた。
凛音はマスクで隠す程度だ。
俺はフード付きの服で、素顔を見られないようにしているだけだ。夜道で出会えば完全に警戒されるタイプの見た目である。
……むしろ変装のせいで目立っている気はしないでもない。
まあ、俺のこの服はそれなりにいい魔物の素材でできていて、隠密効果もついている。
さらに俺が気配を消せば、最初から認識されている相手以外には意識にも残らないはずだ。
最近、外に出るだけで声をかけられることが増えたので、装備を少し見直したというわけだ。
「凛音も変装してないと声かけられる感じか?」
「たまに……ですかね? お兄さんほど有名じゃないからまあ大丈夫ですけど……ファンの人に見つかったときは大変ですね」
「俺もなんかやたらと声かけられるようになったせいで、最近は気配消してるんだよ」
「……どうやって気配って消すんですか?」
「空気と一体化する感覚だな。その場にいないような……迷宮に長く入って訓練するしかないな」
「迷宮ですかぁ……。そういえば、今日入る予定の迷宮のランクは私が決めていいですかね?」
「ああ、別にいいぞ。今はどのくらいのランクに潜ってるんだ?」
今回は俺の戦闘を見せるというよりも凛音の戦いを見るほうが大事だ。
彼女の能力に合わせたほうがいいだろう。
「Eランク迷宮です」
Eランク迷宮か……。
凛音の言葉に、俺は少し考えてしまう。
こうして対面して彼女の魔力を感じれば……凛音の持つそれが凄まじいことが分かる。
とてもじゃないがEランク迷宮で収まる器ではないと思う。
……それでも、今の彼女がEランク迷宮が限界だというのなら、恐らく魔力を使いこなせていないのだろう。
その辺りを矯正できれば、すぐにもっと上のランクでも通用するはずだ。
「そうか。それじゃあ、近場の迷宮まで案内してもらってもいいか?」
「はい。任せてください!」
元気よく胸を叩いた彼女とともに歩いていく。
街中を歩くときは俺自身気配を消しているからか、特に誰かに気づかれることもない。
……まあ、そもそもそんなに有名人なつもりはないからな。
無事迷宮に到着したのだが、一階層は人が多いな。
平原のような造りとなっていて、一階層全体をある程度見ることができる。
ここだと、他の人たちの視線を気にしながら戦う必要がでてきそうだ。
凛音もそれを懸念しているようだ。俺たちの視線が合った。
「凛音。もう少し下の階層で戦うか?」
「そうですね。五階層くらいまで行けば人も減ると思いますので、そこを目指しましょうか」
凛音とともに移動していく。道中はほとんど戦闘することもないし、戦うとしても俺だ。
現れたリザードマンもどきという魔物を仕留めたところで、凛音が驚いたような声をもらす。
「……動画で見ていましたけど、こうして生で見るとすさまじいですね」
「凛音だって鍛えればいつかはこのくらいできるようになるからな?」
「い、いやいや。私なんて……そこまではさすがに無理ですよ……」
ぶんぶんと両手と手を振る彼女に合わせ、短めの髪も揺れる。
……謙遜は自分の魔力に気づいていないからだろうか?
今の魔力量でも、使いこなせるようになればAランク迷宮くらいは攻略できると思うんだけどな。
まあ、それに関してはあとでまたしっかりと話せばいいだろう。
凛音とともに、五階層を目指して進んでいく。
問題なく五階層へと到着したところで、周囲を観察する。
「まったく人がいないわけじゃないですけど、あっちの林のほうであれば人目にもつきにくいと思います」
そういって、凛音が指さしたほうを見る。
平原のような造りとなっているこの迷宮には、木々で囲まれた空間などもある。
大岩などもあり、それらを含めてみると開けているように見えて、案外死角も多い。
確かに凛音が言う通り、あちらであれば人目につくこともないだろう。
凛音とともに林へと入り、動けるようなスペースを見つけたところで振り返る。
「それじゃあ、これから凛音の戦闘を見ていくから、よろしくな」
「よ、よろしくお願いします!」
「そんじゃ、魔物呼ぶから。準備してくれ」
「ま、魔物呼ぶって……ミノタウロスのときみたいな感じじゃないですよね!?」
「やり方は同じだけど、さすがに他の冒険者もいるからな。あのときみたいに呼んでみるか?」
「む、無理です! やめてください! 死んじゃいます!」
ぶんぶんと首を横に振る凛音に苦笑しながら、俺は周囲の出現している魔物たちの様子を探っていく。
魔力はすぐに見つかり、そこから冒険者が近くにいない魔物に狙いを定めて、魔力をぶつける。
あくまで、弱々しい魔力だ。
魔物――リザードマンもどきはこちらの魔力に気付いたようだ。餌を見つけたような気分なのか、足取り軽く近づいてくる。
「一体、こっちに来るから。任せるぞ」
「分かりました。お兄さん、色々と気づいた点など教えてください!」
彼女はそう言ってから、自身の魔力を高めていく。
身体強化と、魔法の準備だ。
身体強化は皆無意識的に行っているものではあるが、凛音のそれはあまり上手とはいいがたい。
……魔力の使い方がやはり下手だな。
とはいえ、まずは彼女の戦闘を見てから具体的な指導は始めるつもりだ。
リザードマンもどきが木々をかきわけるようにしてこちらへやってくる。
すでに向こうもこちらに気づいていたため、槍を構えている。
狙いは凛音のようだ。
「グア!」
リザードマンもどきが吠えると同時、地面を蹴りつけ槍を突き出す。
凛音はその攻撃をさっとかわすと、持っていた剣を振りぬいた。
攻撃はしかし、槍に受け止められる。同時に、凛音は左手から魔法を放った。
水魔法だ。リザードマンもどきの顔面をとらえたが、倒すには至らない。
……ん?
魔法を使うとき、少し変な挙動だったな。
それからもしばらく戦闘を行っていくが、彼女の動き自体は悪くない。
剣の扱いも、基礎がしっかりとしていて、リザードマンもどきの攻撃すべてに問題なく対応できている。
ただ、魔力の使い方がやはり下手だ。
練り上げたはずの100の魔力を100のまま使えていない。
通常魔力を魔法に変換する場合は、本来の魔力より威力が上がるのだ。
100の魔力を500魔法に変換することだってできる。
だから、魔力凝固や身体強化などほとんど魔力をそのまま使うものよりも、魔法を使った方が効率は良くなる。
今の凛音は100の魔力を練り上げているのに、魔法という形になる頃には10くらいしか使えていないのだ。
そんだけ無駄にしているのに、特に魔力切れを起こさずに戦えているあたり、彼女の魔力量が凄まじいことを物語っている。
車で例えるなら、滅茶苦茶燃費悪いのに、めっちゃガソリン入れられるから何とか長距離運転ができる……みたいな。
まずはそこの矯正からだな。
それからしばらく彼女の戦闘を眺めていると、結局、五分ほどかけてリザードマンもどきの討伐に成功した。
時間がかかったことで凛音も疲れたようで、膝に両手をついて呼吸を整えていた。
「ど、どうでしたか!?」
不安と期待の入り混じった複雑な表情で見てくる。
「そうだな。……俺はいつも他の人を評価するときに、麻耶を基準にするんだが……」
「……あの麻耶さん基準だと基本的に評価低くなりませんか?」
「よく気づいたな。麻耶は全部100点なんでな……この評価基準は最近見直したほうがいいのかもしれないって思ってたんだよな」
「……」
凛音はじろーっとこちらを見てくる。
「冗談だ。麻耶は絶対的な存在であることは間違いないんだけど、凛音の戦闘に関しては――」
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