第239話
……マジで?
フェンリルの毛の色なんて知らないが、この世界では銀色なんだろう。
だから、銀色に染めて偽装していた、と。
賢いような情けないような……。
フェンリルはガタガタと震えながらぺこぺこと俺に頭を下げてくる。
……ここまでされると、魔物だからといっても仕留める気はしないな。
俺はポケットから一つのキーホルダーを取り出し、フェンリルに見せる。
「フェンリル……じゃないな。なんて呼べばいいんだ?」
「一応、リーラという名前がある……」
「それじゃあリーラ。このキーホルダーについている俺の妹の匂いを追えないか? 俺の妹がこの世界に迷い込んだみたいで、探しにきたんだ」
「鼻には自信あるが……そのキーホルダー、おまえの匂いしかしないが……」
「なんだって? いや、するだろ麻耶の匂い」
俺は麻耶からもらっていたキーホルダーを嗅いでみる。
かすかにするよな?
「おまえの鼻が異常なんだ! 我には無理!」
「……まあ、いい。俺だって無差別に仕留めるつもりはない。元気に生きろよ。じゃあな」
俺がそうリーラに伝える。
……さて、とりあえずどこかの街に行くとするか。
そう考えていると、リーラの方から、ぐーっという腹の音がなる音がした。
俺がそちらに視線を向けると、リーラは恥ずかしそうに体をふせながら、ぽつりと言葉を口にする。
「――お腹すいたんだ」
フェンリルは恥ずかしそうにこちらを見てくる。
……といってもな。
俺の空間魔法を展開してみるが……向こうの世界に干渉することはできなさそうだ。
まだ使う機会があるかもしれないので、すぐに発動を停止していると、こちらに魔物がゾロゾロと集まってくるのがわかった。
オークたちだ。
こいつらは喋らないようだ。リーラはガタガタと震え、俺の後ろに隠れた。
俺が魔力を放出するようにして威圧してみるが、オークたちはまったく気づいている様子はない。
……やはり、俺の魔力を感知できないようだ。これは便利なようで不便だ。
普段なら威圧すれば怯んでくれるのに、舐めてかかられるんだからな。
「……おまえ、もしかしてかなり弱いのか?」
「わ、我……この世で最弱かもしれない……。だから、魔力を感じないお前を襲ったら……この様なのだ……」
「……はあ。オークの肉は食えるのか?」
「な、なんでも食べるぞ! 我、魔物を狩れなくて土で飢えを凌いでいたこともあるし!」
「……了解。それじゃあ、情報をくれたお礼にもうちょっと面倒見てやるよ」
俺はそういって、迫ってきたオークたちを一瞬で片付けた。
わかったことは、魔物たちの死体も残るということだ。
迷宮と違って素材だけがドロップしないというのは、素材を集める場合は面倒だ。
ただ、リーラにとっては喜ばしいことだったようで美味しそうに肉を分けて、調理していた。
解体はリーラがやってくれたので、ラッキーだ。なんでも、これまでもこういった作業をしていたことがあったらしく、かなり得意なそうだ。
俺は玲奈の魔力を使って集めた木の葉に火を放ち、オークの肉を焼きながら一緒に食事をしていた。
「うまい……うまい……! 久しぶりにこんなにうまい食事ができたよぉ……!」
「そんなに泣くな。うるさいから」
「我、もう一生ジンについていくからな……!」
「勝手に来るな」
「断られてもついていく……!」
「貧乏神か……」
いやでも、かなり人間の生活にも詳しいようなのだ。
さっき、解体していたときに話していた内容について改めて聞いてみる。
「それで……さっき話していたが、人間の社会に紛れ込んでいるときもあるんだよな?」
「……ああ。我、弱いだろう?」
「ああ」
「……」
なんでそこで落ち込むんだ。自覚してんだろ?
「我、弱いから……人間の社会に紛れ込んでバイトとかしていたんだ。そうでもしないとなかなか生活できないくらいでな」
「……追い込まれすぎだろ」
「だって我、Gランク冒険者よりも弱いし! 弱いし……」
……それでよく、俺に襲いかかってきたな。
この世界のGランク冒険者というのがどの程度なのかは分からないが、俺の世界基準だとそこまでの実力はないだろう。
そして、今の俺は他者からみたらGランク冒険者以下なんだよな。
はぁ、今後も面倒な奴らに絡まれそうだな。
「それなら、その人間の街まで案内してくれないか? それまで、俺も面倒見てやるから」
「ああ! それまでどころかどこまでついていくぞジン!」
「……まあ、それはその後でまた話して決めような。それで、他にもいくつか聞きたいことがあるんだが……俺は別の世界からきたんだ。俺の可愛い可愛い妹が異世界召喚された可能性があるんだけど……例えば、この世界で異世界召喚を行っている場所とかって分からないか?」
「異世界召喚、か。あちこちで行われている、と聞いたことがある」
「ほぉ? ということは、麻耶がいる可能性もあるんだよな?」
「ある、だろう。この世界にはさまざまな世界が干渉している。それぞれの世界の人たちが、この世界を侵略するために……争っている、と聞いたことがある。それぞれが、それぞれの世界の神を信仰していて……その神たちは異界から人を召喚する力を持っている、と」
「……つまり、戦争のためによその世界から人を召喚して連れてきているってことか?」
「……よその世界、かは分からない。神たちは自世界の人間を召喚しているはずだ……我らのようにこの世界の原住民からすれば迷惑極まりない話ではあるが、な」
「……なるほどな」
ってことは、必ずしも麻耶が召喚されたことに関係がない可能性もあるのか。
でも、自分の世界に干渉できるのなら、よその世界から無理やり人を引っ張ってくることもできそうだけどな。
「つまりまあ、あちこちで侵略者たちによる戦争が起きている状況だ」
「侵略者、ねぇ……まあ、細かいことはなんでもいいや。とりあえず、麻耶と……あと他に俺の国の人たちが巻き込まれているみたいだからな。まずは、近くの街に案内してくれないか?」
「わかった……。任せろ!」
……現状、この世界の事情を知らないと色々面倒なことになりそうだし、リーラの協力があったほうがいいだろう。
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