第48話

 ……一応、【雷豪】ギルドは黒竜討伐を目標としていたみたいなので、俺に対して思うこともあるのかもしれない。

 ただまあ、その視線に悪意などは感じられない。冗談めかした調子で笑った彼は、それから首を傾げてきた。


「どうでしょうか? 【雷豪】ギルドに入っていただくことはできないですか?」


〈うおマジか!?〉

〈【雷豪】ギルド、それもリーダーじきじきのお誘いとかやべぇw〉

〈お兄様どうするんだ!?〉


 ……これはあくまで皆に見せるための、武藤さんの演技だ。

 すでに、武藤さんに対して、ギルドへの入団の返事は行っている。

 だから、そのときと同じ言葉を返した。


「俺はギルドは興味ないので、入らないですよ」

「ありゃー、振られてしまいましたか。残念です」


 がくり、と武藤さんは少し大げさに落ち込んで見せる。

 ……これでまあ、予定していた会話は終わりとなり、武藤さんがちらと会場へ視線を向ける。


「……さて、そろそろ人も集まってきたようですし、模擬戦のほう。行っていきますか?」

「そうですね」


 すでに視聴者は100万人近い。

 ……それだけ、Sランク冒険者同士の戦闘を楽しみにしてくれているのだろう。

 もはやコメント欄も凄い勢いで増えている。


〈期待〉

〈うおおおお!〉

〈楽しみだあああ!〉

〈お兄さん頑張ってくれ!〉

〈Sランク同士の戦闘とかマジで貴重すぎる!〉

〈アツい! 頼むぜお兄様!〉

〈どっちが勝つんだろうな?〉

〈さすがに、いくら強いって言っても、【雷豪】ギルドのリーダーやってるだけあるし武藤さんのほうが強いんじゃないか?〉

〈でも黒竜をソロで討伐できる奴がいるか?〉

〈いや、でも武蔵さんだってソロでSランク迷宮の魔物と戦ったことがあるくらいだぞ? ほぼ互角だろ〉

〈次元が違いすぎて、もはやどっちが勝つか分からんな〉


 コメントも、かなり盛り上がっているようだ。

 モニターを眺めていると、武藤さんがこちらに問いを投げてくる。


「といっても、本気で殴り合ってお互い怪我をしても問題です。どうでしょうか。なんか、勝利条件をつけましょうか? 相手が気絶するまで、殴り合っても問題ですよね?」


 とはいえ、【雷豪】ギルドが優秀な回復魔法使いを集めている。

 この会場においては、命を落とさない限りだいたいの傷は一瞬で治せそうなので、ぶっちゃけそれでもいいのだが、向こうの提案だし聞いてみようか。


「どんなのがいいんですかね?」

「そうですね……我々が考えていたのは、地面に伏せた状態になったら負けって感じですかね」

「なるほど。相手を押さえつければって感じですか?」


……まあ、視聴者からみても分かりやすいだろう。


「それでいいですよ。武器とかはどうしますか? 俺は使わないのが全力なのでこのままでいきますけど」

「……それでは、私は短剣を使ってもいいですか?」

「ええ、どうぞどうぞ」


 お互い本気でやりあわないと、視聴者から見ても面白くないだろう。

 打ち合わせが済んだところで、距離を離してから、向かい合う。

 俺たちの間。そこに霧崎さんがやってきて、ぺこりとお辞儀をする。

 少し緊張した様子の彼女は、俺たちの戦闘の邪魔にならない位置にたち、一つのコインをカメラに見せる。


「そ、それでは……こちらのコインを投げます。コインが落ちた瞬間から、戦闘開始となります!」


 霧崎さんはそう言って、コインを上に向かって指ではじいた。

 俺と武藤さんはそのコインへ視線を向け――コインが地面で転がった。

 その瞬間だった。

 武藤さんが俺の眼前に現れた。




―――――――――――

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