第128話
ただ、俺がいる限り、俺と麻耶の大切な人や場所を傷つけさせはしない。
「それじゃあ、配信はいつもみたいに黒竜の迷宮での雑談配信とかでいいですか?」
「それが……先日お会いした有原さんを覚えていますか?」
「ええ……まあ」
何度かプライベートで食事に誘われ、そのついでに魔力の操作などを指導している。
悪い人ではないのだが、たまに距離感がバグり、この前の家でのようなことをするんだよな。
「有原さんがコラボしたいという話をしていまして、一緒に配信というのはどうでしょうか?」
「えー、大丈夫なんですか?」
「有原さんとの事務所とはそれなりに仲良くさせていただき、前回の雑誌の撮影などもあちらの事務所から彼氏役として迅さんに話しどうですか? という感じであのような仕事の依頼が来たんです」
「そうだったんですね、もちろんいいですよ!」
「なんか急に乗り気になりましたね…………もしかして、有原さんに興味があるとか、ですか?」
「いえまったくっ! ゴマすれば麻耶の雑誌も出るかもしれないと思いまして……!」
「それ絶対有原さんとかの前で言わないでくださいね? 彼女、結構難しい性格なんですから……」
心配するようにこちらを見てくる。
……確かに、ちょっと癖のある子ではあるが、別に悪い子ではない。
「まあ、そこはうまくやりますから……コラボですね、分かりました。どこかの迷宮で戦闘すればいい感じですかね?」
「そうなりますね。迷宮に関しては有原さん側から判断してもらうことになると思いますが……配信の最後で二つ重要な話をしていただくことになります」
「重要な話?」
「はい。まず一つは、有原さん側ですね。有原さん、今度ファッションショーをするということで、その宣伝をしてあげてください」
「了解です。もう一つは?」
「もう一つはこちらの事務所での話ですね。夏休みに、『リトルガーデン』の皆で海に行って、そこで配信する予定なんです。新規にデビューする子や、まだ迅さんがあったことのない子たちも参加しての結構大規模なものになりますので、よろしくお願いします」
「分かりました。ってことは、水着ですか!?」
「ええ、まあ上にビーチウェア的なものは羽織りますけど。ちなみにイベント名は、『ドキッ! 冒険者だらけの水着バレー大会!』です」
ふふん、と霧崎さんはどこか誇らしげに胸を張る。
「なんか名前古いですね」
「……ふ、古い、ですか……?」
「ええ。誰が考えたんですか? 社長とかですか?」
だとしたらありえない話ではない。
そう思っていると、霧崎さんが赤くなった顔を俯かせ、ぷるぷると震えだしていた。
「もしかして霧崎さんですか?」
「……そう、です」
「そうですか」
「え? この流れでフォローとかなしですか!? 私ちょっと優しい言葉を期待したのですが」
「次のイベント名を考えるときは頑張ってください」
海か。
……そういえば、最近事務所に海関連のグッズが増えていたな。
もしかしたら、スタッフの人たちもこのイベントのついでに海で遊びたいのかもしれない。
浮き輪やパラソルなど、海で使いそうな道具が多くあったのは何かと思っていたが、このイベントのためだったんだな。
今日はこの前話していた通り、有原とのコラボだ。有原は特別配信するためのチャンネルなどは持っていないらしいので、俺のチャンネルでの配信になる。
有原曰く、『お兄さんのチャンネルで配信に参加させてもらったほうが絶対いい宣伝になるしー』とのこと。
確かに始まる数十秒前とはいえ、すでに待機している人たちが五万人ほどいるし宣伝にはなるのかもしれない。
有原のファン層と俺のファン層がマッチしているのかは分からないが、でも合っていないほうが新しい層の開拓に繋がるのだろうか。
そんなことを考えながら早速配信を開始すると、
〈めっちゃ楽しみにしてました!〉
〈推しと推しのコラボとか、涎が止まりません!〉
〈楽しみではありました。……でも私のお兄様となんて嫉妬です!〉
〈マジで気づいたらお兄さんのガチ勢増えてんな……〉
〈美也ちゃんとコラボとか普通にお兄さん羨ましいんだけど……嫉妬だわ〉
〈マジでお兄さん、どこまで行くんだ……〉
そんなコメントが流れてきた。
今回のコラボに関して、有原は女性ファンが多いとのことで俺とのコラボはかなりいい感じになるのではないか? というのが『リトルガーデン』と向こうの事務所の考えだった。
コメントを見ると……まあ、大きな問題はなさそうである。
「そういうわけで、今日は久々に配信するんだけど……自己紹介しておくか?」
「あー、はいはい。どもー、モデルと冒険者活動をさせてもらってる」
〈片手間で冒険者活動してるんだっけ?〉
〈そうそう〉
そんなコメントがあり、有原も自分のスマホで確認し……むっとしたような表情を浮かべる。
有原はそういうところを指摘されるのが気に食わないみたいだしな。
このまま視聴者に誤解されたままでは彼女も可哀想だ。
「有原手袋外したらどうだ?」
「え? いやー、その……」
俺の指摘に有原は頬をかいた。
剣を多く振っている彼女の手袋の下は、モデルらしくはない無骨さはあるかもしれない。
だとしても、誤解をとくにはそれが一番簡単な方法だ。
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