第220話
索敵する瞬間のみ、チャンネルを合わせ、またすぐにチャンネルを別の場所に移すことで偽装に成功しているだけで、こちらもそのチャンネルに合わせればいいというわけだ。
……それにしても、戦闘型アンドロイドか。
俺の家を監視するようにこちらを見てきている。
そろそろ、麻耶が帰ってくる時間でもある。このまま放置しておくわけにはいかないだろう。
そう思っていると、その魔力が動いてきた。ゆっくりと、我が家の玄関に近づいてきている。
目的が分からない。
……しばらくまっていると、玄関のところで魔力反応は止まった。
なにをするつもりだ?
また玄関を壊されたらかなわない。
仕方ない。こちらから打って出ようか。
そう思った時だった。
ピンポーン、とドアチャイムの音が響いた。
……俺は少し迷ったが、とりあえずドアホンで答えることにした。
「はい。どなたですか?」
『私、アリアと申します』
メイド服姿の女性が丁寧に頭を下げているのが映っている。
……その見た目は以前ジェンスの前に現れたやつとはまた違うようだ。
「なんだ? 誰だ?」
『こちら、お兄様のお家で間違いありませんよね?』
「おまえの兄になったつもりはないぞ?」
『そんな……っ。私、お兄様のリスナーですよ!』
「俺のはいい。マヤチャンネルを登録しとけ」
『もちろんしておりますお兄様』
優秀だ。
……いや、そうではない。
気の抜けるやりとりを続けてくるメイドに、俺は小さくため息を返した。
「おまえ、戦闘型アンドロイドだろ?」
単刀直入にそう問いかけると、アリアと名乗ったメイドはこくりと頷いた。
隠すつもりはない、か。
『そうです。アリアはとても優秀な戦闘型アンドロイドでございます』
「おまえたちの目的はなんだ?」
『お兄様の力を試すことが目的でございます』
「どういうことだ?」
『アリアの元主、ルーファウスが強い冒険者と戦いたいがために戦闘型アンドロイドの開発をしました。今のルーファウスの狙いはお兄様でございます』
「……ちょっと待て」
俺はアリアの発言に困惑するしかない。
ルーファウスといえば、現在世界一位の冒険者だ。
『……』
「聞きたいんだが、今言ったことが本当だとしたら……アリアを造ったのはルーファウスってことか?」
『……』
アリアが何やら感動したような表情とともにそこの場で硬直している。
……な、なんだこいつ? 驚きは当然あったが、それにしても人間と変わらない様子に驚きもある。
「おーい、アリア?」
『……お兄様が、アリアの名前を……愛おしそうに……呼んでくださった』
「いや、愛おしそうには呼んでねぇぞ」
『ああ、冷たく言い放たれるのもいいものですね。これが、感情ですか』
ロボット物の作品で人間の感情について考える場面などがあると思うが、こんな最悪な理解のされ方はないと思う。
「あの、アリアさん? ちょっといいですか?」
戦闘型アンドロイドという面以外で、なにやらやばそうな雰囲気を感じ取った俺は、意識的に距離をおくことにする。
それがアリアにとってはまた別の種類の喜びを与えるようで、何やらその場で悶えている。
『はぁ……お兄様。アリアは、今、とても興奮しています』
「戦闘型アンドロイドなんだよな? おまえ……?」
『なんでもできますよアリアは。え? そんなお兄様……なんでもといったアリアにそんな命令を……ああ!』
すでに思考回路がショートしている可能性がある。
アリアは頬を紅潮させている。このまま、玄関先に置いておくのも危険かもしれない。
少なくとも、ご近所さんに変な目を向けられかねないので、俺はしかたなく玄関へと向かう。
……もしもこれがアリアの作戦だとしたら見事だ。
扉をあけてアリアと向き合うと、彼女はその場で嬉しそうな表情と共にぶっ倒れた。
「……おい、大丈夫か?」
「な、生お兄様……目に仕込まれていたカメラにて、激写に、成功しました……アリアの今後のおかずにします……」
「……」
……これが、戦闘型アンドロイド?
俺はぶっ倒れたまま何やら嬉しそうな煙を出しているアリアを、ひとまず部屋に運ぶことにした。
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