第237話
俺は魔力探知を行いながら、目と鼻を使って麻耶の痕跡を探っていく。
アリアが言っていたように、召喚魔法、あるいは異世界というものが本当だとしたら……何かしらこの空間魔法に手がかりがあるはずだ。
向こうが干渉しているというのなら、こちらから干渉できないということはないはずだ。
振り返ると、すでにシバシバとアリアがかなり小さくなっていた。
……空間魔法の中では進んでいることもよく分からなかったが、これでもかなり前に進んでいるみたいだな。
俺は思い切り息を吸ってから、大きな声を張り上げる。
「麻耶ー! いたら返事してくれー!!」
全力で張り上げた声。
それに返事はもちろんないと思うのだが……。
「麻耶!?」
一瞬、声が聞こえた気がした。
本当に僅か。麻耶の声に合わせ、彼女の匂いも感じとれた。
これは麻耶だ! 絶対麻耶だ!
俺は即座に麻耶がいると思われる方角へ魔力探知を放つ。
しかし、そちらからはやはり何も感じられない。だが、俺は自分の本能を信じる。
「こっちに、いるんだな!?」
麻耶がいると思われるその空間。
俺と麻耶を阻むその壁へ、俺は拳を放つと……空間に穴が開いた。
「お兄様! 何か手がかりがあったのですか!?」
はるか遠くから、アリアの声がうっすらと聞こえてきた。
俺はあいた空間へと視線を向ける。……出口の先がどこに繋がっているかは分からない。このまま進むのは危険かもしれないが、麻耶もその危険に巻き込まれているかもしれない!
「もしかしたら、麻耶がいるかもしれない! ちょっと様子をみてくる!」
「お兄様! 危険です! アリアの部下たちにまずは調査を……!」
確かにそのほうが確実に調べられるかもしれないが、このチャンスを逃したら二度と麻耶への手がかりがなくなるかもしれない。
また同じようにこの空間にたどり着けるかは分からないため、俺は叫び返す。
「ひとまず、麻耶がどうなってるか分からん! アリアなら俺のやったことは分かるな!? 報告は頼む!」
「……分かりました。ご武運を」
「シバシバまじで助かった! あとで何かお礼するから好きなこと考えておいてくれ!」
「わ、分かったわ! 気をつけてちょうだい!」
アリアとシバシバにそう返事をしていると、俺が開けた穴が縮んでいく。
すぐに、その穴へと飛び降りた。
「……お兄ちゃん?」
お兄ちゃんの声がしたような気がして、私は目が覚めた。
ここはどこだろう? みたことのない場所で、知らない人たちが周りにたくさんいた。
……学校、じゃないよね。誘拐……とか?
私は、自分がどうしてこんなことになっているのかを思い出す。
教室で友達たちと話していたら……なんだか変な魔力を感じたんだよね。
それで、助けようとしたら……私が巻き込まれちゃったみたい。
あの黒竜の迷宮のときのワープみたいな感覚だったんだよね。
でも、あの時と違って今度は私が助ける側になれたのは、ちょっと成長したんだと思う。
そんなことをぼんやりと考えながら周りを改めてみると……色々な年齢層の人たちがいた。
……学生っぽい人から、社会人っぽい人までたくさん。
服装もバラバラ。仕事中の人から、ちょっと……汚れた格好の人まで本当にバラバラ。
全部で、五十人くらいはいるかな? 魔力反応を調べてみようとしたけど……あれ? なんだか魔力の質が変わっていて……うまく調べられない。
……ていうか、いつも感じとれてる魔力が、ほとんどない?
いや、あるんだけど……いつもと違う? あれ? あれ?
そんなことを考えているときだった。
奥の方にあった扉が開いた。
視線を向けると、肩で息をしていた男性たちが一斉にこちらをみてきていた。
皆、なんだか興奮した様子であり、私たちの姿を見るとぱっと目を輝かせていた。
彼らの格好は、西洋の鎧のようなものを身につけている。何かの撮影? コスプレ? そういえば、今私たちがいるこの部屋もなんだか、古い神殿のような造りをしている。
もしかして、これらすべて何かの企画とかなのかな?
確かに、シバシバさんの空間魔法に似ていたもので私たちは移動させられたんだと思うし。
騎士みたいな人たちはそれこそくる人くる人みんな嬉しそうな顔をしている。そんな、欲しかったおもちゃを買ってもらった子どもみたいな顔してどうしたのだろう?
「召喚に成功したぞー!」
「これで……! オレたちの国も救われるんだ……!」
何か、そんな声が聞こえてきた。
歓声があまりにもうるさくて、それまで意識を失っていた人たちも徐々に体を起こしていく。
……召喚ってなに?
ゲームとかも配信ですることがあるので、意味は分かる。
召喚士とかの職業で、魔物とかを召喚することがあるんだよね?
去っていった人たちの言葉について考えている時だった。
私に近づいてきている男性と女性に気づいた。年齢層はやはりバラバラ。しかし、彼ら彼女らは皆目をキラキラとさせていた。
「え? あれ、もしかして……マヤちゃんですか!?」
「え? あっ、はい……」
「ファンです!」
「あっ、どうも……です! ありがとね! お兄ちゃんのことは知ってる!?」
「え? はいもちろんです!」
「それなら良かった!」
もしもお兄ちゃんのファンじゃなかったら私が宣伝する必要があったからね……って、今はそれはいいんだよ!
そんなことより考えないといけないことがたくさんあるんだよ!
とは思ったけど、ファンの人たちのおかげで少し落ち着くことはできた。
ふう、深呼吸。
こういう時は落ち着くのが大事だってお兄ちゃんは言っていた。黒竜の迷宮のあと、パニックになってしまった私が一番ダメなんだって。
生き残るために、最善の手を打つためには……とにかく冷静でいないと。
そんなことを考えていると、またゾロゾロと足音が響いてくる。
鎧をつけている人たちが移動してくるからか、ガシャガシャと結構派手な音が響くので、魔力による探知ができなくてもなんとか分かるんだけど……ちょっと、魔力探知がないと不便だなぁ。
お兄ちゃんも……いないみたいだし。暇さえあればお兄ちゃんの魔力を探知していた私にとって、ちょっと今は寂しかった。
騎士っぽい人たちに連れられてこられたのは、綺麗な女性が現れた。
その女性が私たちをみて、安堵したように息を吐いたあと口を開いた。
「あなた方は……この国の希望です」
皆が困惑して口を閉ざし、お互いに顔を見合わせている中。
私はすっと手を上げて、問いかける。
「……この国の希望? それってどういうことですか?」
「この国を救ってくださいぃぃぃぃ!」
私の問いかけに合わせ、騎士と女性は同時に土下座をしてきた!
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