第58話




 そんなことを考えながら話していると、流花が前から歩いていた人たちにぶつかりそうになる。

 ……こちらは気配を消していて、向こうは話しながらで歩いてくるのだから気づけるはずがない。


「流花、前前」

「え?」


 間に合いそうになかったので、彼女の肩を掴み、ぶつからないよう引き寄せる。

 それでやり過ごしたところで俺が流花の肩から手を離すと、


「…………っ」


 彼女は顔を真っ赤にして口をパクパクと動かし、


「俺たち今かなりの隠密性能だからな? 周りには気を付けるように」

「……あ、ありがと」


 また、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

 ……あれま? また逆戻りか?

 ただ、今回の原因は分かる。俺がいきなり肩を抱き寄せるように掴んで、怒ってしまったのだろう。


 ……女子高生と関わるのは難しいものだ。

 しばらくのんびり歩いていると、ちらと流花がこちらを見てきた。


「これから迷宮入って配信開始だけど、装備は大丈夫なのか?」

「……うん、問題ない。この服の下に着こんでるから」


 俺が彼女に渡した服のさらに下には、おしゃれな服を身に着けている。

 ……そして、その下に防具を着込んでいるのか。

 プールの授業がある日に水着を着てくるような感じだな。


「はぁ、そうなんだな。外から見ると普通におしゃれな可愛い服だから遊びにでも来たようにしか見えないぞ?」


 今の流花はそれこそ街中を歩いていてもおかしくはないような服装だ。

 流歌は何やら少し頬を赤らめながらそっぽを向いた。


「そ、そう? ……まあ、装備とかはそのあんまり見た目的によろしくないのが多い。配信者としてはやっぱり服装も大事だから……お兄さんは似合ってるけど、そういうのあんまり気にしてない?」

「まあな。一応、これまで一度も文句言われたことないぞ」


 俺はいつも外套のような黒い服に、白のシャツ、適当にパンツを履いているという感じだ。

 といっても、この服はすべて迷宮でとれた素材で作ってもらっているので、下手な防具より頑丈だ。

 俺の場合、日常生活が送りやすく、かつ高性能な服にしているので、今の格好となっている。


「……まあ、お兄さんは特別な存在だから……。そういえば、登録者数500万人おめでとう」

「え? ああ、ありがとな」


 前回の【雷豪】ギルドとの戦いのおかげか分からないが、俺の登録者数が500万人を突破したらしい。

 マヤチャンネルは150万人くらいで止まってしまっているので、俺としてはそちらが悩みの種であるが、今日はちゃんとその対策アイテムも持ってきている。

 それをお披露目するのは配信が始まってからだな。


「……私、まだこの前130万人いったばっかりなのに……お兄さんの勢い凄すぎ」

「ま、俺だけの力じゃないけどな。事務所の人たちが作ってくれた道があったわけだし、そういう意味では流花のおかげもあるんじゃないか?」

「それは……まあちょっとはあるかもしれないけど、やっぱりお兄さんの力だと思う」


 流花は笑顔とともに歩いていく。時々、ちょっと顔をそらされることはあるけど、比較的問題はないな。

 ……それにしても、だ。

 俺は流花を見ながら、やはり思い出してしまうものがある。


「……麻耶」

「え? いきなりなに……」

「ホームシックだ」

「こっち来てまだ五時間くらいじゃない?」


 電車を乗り継いでここまで来たのだが、確かにそのくらいだ。


「正確に言うなら麻耶を見られていない時間が長くてな……体が震え始めてきた……」

「薬物中毒みたいな症状……。……でも、今朝も麻耶ちゃん見てきたんじゃないの?」

「流花は朝食を何時に食べたんだ?」

「え? いきなり何……? 今日は6時くらい? 出発時間早かったから」

「今は何時で、昼食を食べたのは何時だ?」

「今は13時でお昼はさっき食べたけど……それが何?」

「だいたい12時くらいにお昼を食べたとして、朝食から換算して約6時間だ。俺も麻耶を最後に見たのが6時くらいだったんだ。つまりそういうことだ」

「いや、さっきからまったく話が見えてこない。どういうこと?」

「俺は朝麻耶の顔を頂いたの! まだお昼の麻耶を見てない!」

「……お兄さん。平日はどうしてるの? 麻耶ちゃん、普通に学生だけど」

「餓死しかけてるぞ? 配信をひたすら垂れ流しにして耐えてるんだ」

「それもできてないから、今は死にかけてる、と?」

「……そういうわけだ」

「……あー、はい」


 俺の深刻な気持ちとは裏腹に、流花は何やら呆れたような様子で歩いていってしまった。





―――――――――――

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