第55話
蒼幻島から戻ってきた俺は、麻耶たちのコラボ配信を部屋で眺めていた。
今回麻耶たちは、俺の自宅から離れた場所にあるEランク迷宮「ハイゴブリン迷宮」に挑戦だ。
一応、麻耶、凛音の二人がメインでの挑戦だが、同行者として玲奈もついていく。
今の二人の実力ななんとかなると思う。麻耶はCランク級の実力はあるし、凛音も安定してそのくらいの力は出せている。
特に凛音の場合、魔法を使用した場合の瞬間火力だけでいえば、Aランク級の力はあると思う。
それでも、お兄ちゃんとしては不安もある。なので、「ハイゴブリン迷宮」近くのホテルを借りている。
ここからなら、迷宮が真下にあり、ここから飛び降りればすぐに駆け付けられる。
借りた部屋が六階にあるが、知るか。
そんな高さ麻耶への愛があれば無傷だ。
とはいえ、
『やほー! 今日は護衛兼カメラマンで同行するよー』
……玲奈もいるし、大丈夫だとは思う。
玲奈がスマホを持っているようで、彼女は覗き込むようにして手を振っている。その奥では、装備品の確認をしている麻耶と凛音がいる。
麻耶は短剣を、凛音は剣の確認をしているとところだ。
玲奈の人間性はともかく、俺は彼女の戦闘能力については高く評価している。
玲奈が同行するなら、まず間違いはないだろう。
というか、玲奈はこんな感じでカメラマンとして同行することが多く、あまり自分の配信はしないそうだ。
もともと別に配信活動をするつもりはなく、どちらかというとマネージャー的な仕事をしたいそうらしいからな。
だから、彼女は自分のチャンネルでも適当なのだろう。
ある意味俺もどちらかといえば、カメラマンとかの裏方のほうが立場的には近いよな。
〈やほー〉
〈今日の迷宮攻略は三人だったか〉
〈レイナちゃんいるなら、大丈夫だよな〉
〈今回の迷宮攻略って、確か協会からの依頼だよな? 前も何度かあったよな?〉
『そうだねっ。今回は迷宮の完全破壊。なんでも、迷宮の魔力量が増え始めちゃってるみたいで……そろそろ変異とか爆発が起きちゃうかもっていうことで今回の依頼が来たんだよね。もともと、あたしたちの事務所は何かあったときに協力してるし』
協会には無理のない範囲で協力しておいたほうが、色々といいことがあるそうだ。
俺としては、そもそも能力の再測定を受けていないので、協会にもまったく認知されていなかったが……まあ、そのうち能力再測定はすることになるだろう。
別にSランク冒険者として評価されるのはいいが、麻耶が配信をしているときはすべての依頼を断るつもりではある。
『玲奈さん、準備終わりましたよ』
『玲奈ちゃん、いこっか!』
『おっ、二人とも準備万端ですな! ではでは、意気込みのほうをどうぞ!』
玲奈はマイクを持つように片手を向ける。凛音は苦笑とともに頬をかいた。
『とりあえず……怪我なく攻略できるように頑張ります』
『私も! 楽しんでいこうね、凛音ちゃん、玲奈ちゃん!』
『うんうん! 楽しんでいこう! それじゃあ、早速出発ー!』
そう宣言してから、玲奈は最後尾について二人を撮影していく。
万が一があったらいつでもお兄ちゃん駆けつけるからな……っ。
僅かな緊張とともに、三人の配信を眺めていく。
実を言うと、俺はこの迷宮に一人先に潜ってもいた。
もちろん、麻耶が心配だからである。
迷宮内の端から端まで罠がないかを確認し、危険な魔物がいないかなど慎重にすべて見てきた。
その結果、まあ大丈夫だろう、というのが俺の判断だ。
『わーっ、ゴブリンでた!』
麻耶たちの進む先にハイゴブリンが四体出る。
……くそったれどもめ。
麻耶の前に立ちはだかるんじゃねぇ……っ。
そんなことを考えながら、俺はスマホの画面を食い入るように見る。
『麻耶さん、ハイゴブリンですから気を付けてくださいね?』
『分かってる分かってる、事前に様子見だけはしてるしね』
麻耶はにこりと無邪気に微笑んでから、地面を蹴る。
一瞬でハイゴブリンへと距離を詰める。うまい! 天才だ!
そして、短剣で首を切断し、別の一体の背後へと回る。
仲間がやられていたハイゴブリンだが、まだ麻耶の速度に気づけていない。
麻耶は背後からハイゴブリンの首を斬りつける。
〈完璧だ! 神!〉
俺は自分の個人用のアカウントでコメントを打ち込みながら、画面を見ていると……いつの間にか戦闘が終わっていた。
〈マヤちゃんつよっw〉
〈黒竜相手はともかく、マヤちゃんもマジで強いよな……〉
〈ていうか、リンネちゃんの魔法の精度あがってんなw〉
〈二体同時に水魔法であっさり仕留めたよな……〉
どうやら凛音が仕留めていたようだ。
凛音を最近指導してはいないが、あれからもちゃんと訓練を積んでいるのだろう。
それからも二人は問題なく戦闘をしていく。途中、玲奈も接近してきたハイゴブリンの首を斬り飛ばすなど、わりと余裕で戦闘をこなしている。
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