第70話


「今は迷宮の105階層に来てるわけだ。前戦ったシャドウナイトだっけ? それが続くだけみたいだ。ここからはひたすら迷宮の最高到達層を伸ばしていくだけのただの戦闘配信。コメントは時々見るけど、基本返事しないから。んじゃ、とっとと攻略行ってくるわ」


 俺はそれだけを伝え、105階層へと向かう。

 胸ポケットにスマホを入れ、そのカメラが見えていることを確認する。

 この服は撮影用に用意したもので、今時の配信者は結構使っているそうだ。


 ボタンを占めることで、それなりに固定できるそうで、安価で配信活動ができるというので人気なのだそうだ。

 ひとまずは準備体操として、シャドウナイトとの戦闘を行っていく。

 ただ、あまりゆったり動いていくのは楽しくないので、俺は魔力を解放しながら進んでいく。

 俺の魔力に誘われたシャドウナイトたちが集まってきて、早速俺は拳を鳴らす。


「っと! 数増えてきたな!」


〈なんでこの数で楽しそうにしているんだよこいつは〉

〈こいつらSランク級の魔物たちなんだよなぁ……〉

〈数十体もいるじゃないですか! お兄様気を付けて……っ!〉


 別のスマホで配信のコメントをちらと見てから、俺は地面を蹴った。

 一瞬でシャドウナイトの懐へと迫り、拳を振りぬく。

 一帯を一撃で仕留め、すぐに次の個体を潰す。


 シャドウナイトたちが攻撃してくる頃には、すでにそこに俺はいない。

 一気に仕留めて回り、一体のシャドウナイトと肩を組む。


「はい、というわけで特別のシャドウナイトくんです。おい、ちゃんとカメラのほう見ろって」

「……!」


 逃れようと体を暴れさせたが、動けない様子だ。

 特に反応はなかったので、肘を振りぬいて仕留める。

 あっという間に第一陣は終了。魔物たちが集まっているほうへと走りながらコメントを確認する。


〈何魔物と無理やり肩組んでんだよw〉

〈脇腹に剣突き刺されてますよ!〉

〈草〉

〈刺されてもすぐ再生するのやばすぎだろw〉

〈こいつ本当に人間かよw〉


 そんなコメントたちを見ながら、俺は次のシャドウナイトを仕留める。

 だいたい仕留めきったところで、俺は次の階層に繋がる階段へと向かう。


「っと! はい105階層攻略達成! 次、いきまーす」


〈はやすぎるwww〉

〈足速いとかの話じゃねえよ!〉

〈こいつ視点のカメラやばぇww人間視点のカメラじゃねぇよww〉

〈……マジかよこいつ〉

〈階層が草原系だと攻略速度以上だな……〉

〈"化け物過ぎるw"〉

〈"こんなのが日本にいるのか……w"〉


 海外のコメントもちらほらと見える。英語以外もちらほらとあるようだ。

 俺が106階層に繋がる階段を飛び降りてショートカットして、106階層へ向かう。


「ここは遺跡系の階層みたいだな」


 周囲をざっと見ながら魔物を集めるために魔力を放つ。


〈次は遺跡系か……〉

〈ここは不意打ちもあるからなぁ……大丈夫だと思うけどお兄様気を付けて〉

〈"ていうか、さっき当たり前のように階段飛び降りていたが……なんだいあのショートカットは……"〉

〈"ここの視聴者たちはあれを異常とは思わないのか……"〉

〈"新参か? 黒竜を討伐したときからお兄ちゃんはあんな感じだぞ?"〉


 コメントを見ながら歩いていると、魔物が集まってきたが……出現したのはまたシャドウナイトだ。


「うわ、めんどくさ。おまけに出現する魔物一緒かよ! 視聴者のこと考えろまったくなぁ……」

〈草〉

〈106階層の魔物相手のクレーム内容がおかしいんだよなぁ〉

〈お兄さん頑張って! さっきの勢いで全部一掃してくれ!〉

〈"お兄様の無双がみたい!"〉

〈"アレックスをやったみたいに一気に潰してくれ!"〉


 俺はスマホをポケットにしまいながら、シャドウナイトたちへ迫り拳を振りぬく。

 相手の振りぬいてきた武器を奪い取るようにしてカウンターを放ち、周囲から放たれる矢や魔法をすべてかわして仕留めきった。

 戦闘を終えた俺は手についた埃を払いながら、スマホを取り出して声を出す。


「遺跡系の迷宮ってそういや配信だと初めてか? 皆はここの攻略法は知ってるか? 基本的にはマッピングをしていくもんだと思うが……まあ、面倒だからな」


 俺は全身の魔力を高め、それから107階層へと続く階段にもっとも近い壁に一歩近づく。


「とても簡単な方法を教えましょう。壁を破壊すればショートカットできるからな、おらよ!」

〈は?〉

〈え?〉

〈なにいって――〉


 蹴りを放ち、壁を破壊する。



―――――――――――

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