第227話

 一瞬驚いた俺は、拳に殴り飛ばされる。


「お兄様! 大丈夫ですか! アリアがすぐに看病します!」

「……いや、大丈夫だ」


 俺は小さく息を吐いてから、アンドロイドを見る。

 男は嬉しそうに笑みを浮かべている。

 確かに、よく研究されてるな。


 俺は地面を蹴り付け、アンドロイドへと拳を振り抜くと、アンドロイドは拳を受け止めてきた。


「無駄だよ! キミのパンチ力は確かに凄まじい! だが、このアンドロイドは肉弾戦に特化した魔力加工を施している! 特に、キミの攻撃に特化してのね! こいつを倒すには、過去の己を越えるしかないというわけだ!」


 アンドロイドはカウンターに拳を振り抜いてきたので、俺はそれを跳んでかわす。


「過去の俺……って配信のことだろ?」

「そういうことだ! すべてを全世界に公開しているキミなんて、弱点までもすべて曝け出しているようなものさ! さあやれ! 妹型アンドロイドタイプマヤ!」


 なるほどな。

 俺の配信などをよく見て、俺の弱点などを見極めていたのだろう。

 そして、それをやりすぎたアリアは俺のファンになった、と。

 熱意は凄まじいのだが……俺は彼に笑顔を雨返した。


 迫ってきたアンドロイドが再び声を上げる。


「お兄ちゃん! 攻撃かわさないで!」

「勝手に麻耶の声加工してんじゃねぇぞ!」


 俺はアンドロイドの腹を蹴り飛ばした。


「え?」


 まだ見た目が無機質なロボットのおかげだったため、蹴り飛ばすのにも躊躇はなかった。

 これがアリアの様な見た目だったら……アリアだったらまあいいか。


 一瞬で吹き飛び、近くの壁にめりこみ、バチバチと破損するアンドロイド。

 それでも、まだ完全に破壊はできていないようで、よろよろと起き上がり拳を構える。


 近くにいた男がだらだらと冷や汗を流している。


「な、なぜだ!? 貴様の力はすでに完全に分析済みだ! なぜ、一撃で破壊なんて……!?」

「そもそも俺配信で一度も全力で戦ったことないぞ?」

「え?」

「え?」


 男とアリアの驚いた声が響いた。

 さて、さらに出力を上げるとするか。

 魔力で肉体を強化し、地面を蹴り付ける。

 一瞬でアンドロイドの懐に踏み込むが、アンドロイドは俺の攻撃になんとか反応した。


 片手で俺の攻撃を受け止めようとしたが、俺はそれに拳を振り抜いた。

 ぐっ、とアンドロイドの体に拳がめり込む。

 攻撃を受け切ろうとしたアンドロイドが、派手に吹き飛んだ。


 壁にめり込み、ばちばちと音を上げ……今度は完全に破損した。

 目を見開いていた男に視線を向けると、彼はがくんと崩れ落ち、がたがたと震え出した。


「ぜ、全力で戦ってないって……どういうことだ!?」

「なんていうかな……今まではレベル1の範囲内で肉体を強化してたんだよ。それをレベル一つ引き上げた状態での強化を行っただけだ。ゲームのラスボスが変身するだろ? そんな感じ」


 いや俺はラスボスではなく、善良な一麻耶ファンだが。


「……ど、どういうことだ!? 何がどうなっているんだ!?」


 説明をしてやったのだが、完全にパニックになったようだ男は混乱している。


「まあ、体力の消耗が増えるからな。麻耶の配信を聞きながらじゃないとあんまり使えないんだけど」

「そ、それに体力回復効果はないだろう!」

「は? あるが?」


 俺は男を睨みつけながらその前にいき、アリアを見る。


 ガタガタと震えたままのこいつは、別に放っておいても問題はないが逃げられてどこかでまた変な開発をされても困る。


「アリア、こいつを拘束しておけ」

「分かりました。アリア、お兄様の希望により亀甲縛りしかできませんが、我慢してくださいね」

「希望してないぞ」


 配信中なので、きちんと否定しておかないとどんなデマが広がるかわからないからな……。



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