14●『未来少年コナン』(13)テーマは何か…“真っすぐ正直に生きる”ことの難しさ

14●『未来少年コナン』(13)テーマは何か…“真っすぐ正直に生きる”ことの難しさ




 『未来少年コナン』の作品テーマは、何でしょう?

 百人百様の回答があることとは思いますが、この作品の場合、第1話でかなり明瞭に語られています。


 この第1話のストーリー構成は、無駄なくキッチリ論理的に組み立てられていて、他の回に比べて突出した見事な出来栄えウェル・メイドであることは論を待たないと思います。


 世界の滅び、そして今が二十年後であること。

 主人公コナンの生い立ち。

 ヒロインのラナとの出会い。

 善を象徴するハイハーバーの風景。

 悪を象徴するインダストリアの存在。

 悪の手先であるモンスリーたちの襲撃。

 拉致されるラナと、コナンの追跡。

 作品の世界観と、敵味方の姿、そしてラナ奪還という主人公コナンの行動動機。

 それらがコンパクトに、たった一話分で語りつくされています。


 そしてこの、すぐれた構成の第1話は、作品の全体に通じるテーマも明瞭に提示しています。

 ロケット小屋に踏み込んだモンスリーに対する、おじいの怒り。

「お前たちはまだこんなことをやっているのか、銃などを振り回しおって、大変動に何も学ばなかったのだな。その考えが世界を滅ぼしたのだ、わからんのか」

 モンスリーは即座に反論します。

「戦争を引き起こしたのは、あのとき大人だったあんたたちじゃないの……無責任な大人のくせに」

 おじいは沈黙します。


 これ、作品中でおそらく唯一の、説教めいた場面です。

 『未来少年コナン』は子供向けのアニメなのですが、のっけから重たいテーマを突き付けてくれたものです。

 要するに……


 ●第一に、

 “人は神に代わって世界(大自然・地球環境)を蹂躙することが許されるのか?”

●第二に、

 “そんな人類が生き延びる手段として、戦争が許されるのか?”


  ……ということですね。


 人類は一度世界を痛め、汚して滅ぼした、それも戦争という手段によって。

 大失敗をしでかしたのだ。

 その大失敗を償うために、さらなる戦争を必要とするというのか?


 これが、『未来少年コナン』のメインテーマでしょう。


 そんな、おじいの苦言に対して、モンスリーは“責任はそっちにあるじゃないの”と切り返します。

 六十代のおじんvs.二十代のモンスリー。

 典型的な世代間対立ですね。

 『未来少年コナン』放映当時の1978年は、太平洋戦争の終戦後33年にあたります。

 敗戦の悲惨を体験した六十代と、“戦争を知らない子供たち”である二十代。

 その世代間ギャップの一面を物語るかのようです。


 その一方、『未来少年コナン』放映時、1978年当時のニッポンの若者風景は……

 “戦争に負けても懲りないアナクロな年寄り”と、“ベトナム戦争に反対してラヴ&ピースを唱える若者ヒッピー”が先鋭的に対立した70年代初期を経て、ベトナム戦争に米軍敗退で決着がつき、あれだけ安保紛争で明け暮れたのに、世の中は変わりそうでちっとも変わらず、学生運動も下火となって……

 情熱を燃やす対象を失い、頭上にはシラケ鳥が飛び交い、三無主義(無気力・無責任・無関心)がはびこって、世界の大事より自分の小事を優先する風潮がむしろ主流となった時代です。


 戦争を経験した大人たちは説教します。

 そんなにボケてると、いつのまにか徴兵制が復活して、戦争する国になっちまうぞ!

 若者はしれっと答えます。

 戦争始めてしかも負けたの、あんたたちじゃないか。知るかよ戦争なんて。


 そんな感じだったのではないでしょうか。


 さて『未来少年コナン』は、少なくともタテマエ上、子供…小学校高学年…向きに製作された作品です。

 ですから、未来の展望を見失い、虚無感に包まれて刹那的に生き始めた若者世代の、そのすぐ下の子供たち世代に向けて、宮崎監督は「ボーッと生きてんじゃないよ!」と喝を入れようとされたのかもしれませんね。

 世界が滅びても、やらなきゃいけないことは一杯あるんだよ……と。


 もちろん、この作品にはオトナのファンも大いに感動しました。

 世の中、二度の石油ショックでうんざりなほど不景気。

 といっても、リーマンやコロナほどではなく、何とかなるさと言う雰囲気もありまして、社会全体、ノボーッと呆けているようなムードもあったようです。


 まるで、三角塔の下の地下都市で、おかみのお恵みにすがって唯々諾々いいだくだくと暮らす一般住民のように。


 そんな、どことなくポケーッとした空気感の蔓延に対して、額に手裏剣印のルーケさんのように疑問を抱いていたオトナのファンにとって、コナン少年の躍動感は刺激的でした。

 エンディングの歌のとおり、心は震え、両手は空に延び、両足は土を蹴って走る。

 そして「ラナを返せーっ!」の絶叫。

 何回も聴いているうちに慣れましたが、あの人間として正直な感情は、かえって視聴者の心を突き刺したものです。

 まっすぐで正直な感情であるだけに、痛い、イタい。

 今どきの世間をあざとく生きようとするしかない若者の人生観に、油をかけて火をつけてヤケドさせて塩を擦り込むようなものです。

 しかし、そんなコナンとラナは、常に苦難に直面します。

 ただ真っすぐ正直に生きることが、どんなに大変なことなのか……

 そこまで考えさせてくれました。

 “真っすぐ正直に生きることの難しさ”

 それもまた、『未来少年コナン』の大切なテーマの一つであるように思います。





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