212●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑩2010年代以降、ヘタレな国民とヘタレなロボットアニメ? じつは『エヴァ』は誰も操縦していなかった?

212●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑩2010年代以降、ヘタレな国民とヘタレなロボットアニメ? じつは『エヴァ』は誰も操縦していなかった?



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 それにしても……


一、リモコン(ラジコン)式巨大ロボが登場した60年代→ファーストインパクト

二、搭乗型巨大ロボが登場した70~80年代→セカンドインパクト

三、巨大ロボットに神が宿る90~2000年代→サードインパクト


 このように巨大ロボットアニメの歴史を俯瞰してきましたが、さてそれでは、2010年代以降はどうなったかというと……

 どうやら、何もない、みたいですね。


 次なる進化が見られないのです。

 なにかこう、グッタリと萎えたヘタレな停滞というのか。


 制作者も視聴者も、かつての「熱血」を無くしてしまったのだろうか?

 いやなにも、ギラギラした思春期の熱血に限りませんね。

 オトナでも、そうでしょう。

 何か大切な、自分が信じるもの、愛するものへの情熱。

 一昔前の昭和なら、子供たちでも持っていた、正義への憧れとか、無垢の友情。

 そういったものが、この国では2010年代から消え失せてしまったかのようです。


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ネットのニュース

●衆議院補欠選挙 立民 3選挙区すべて勝利 自民は議席失う

2024年4月29日 5時29分  NHKnews

岸田総理大臣の今後の政権運営に影響を与えることも予想される衆議院東京15区、島根1区、長崎3区の3つの補欠選挙は、いずれも立憲民主党の候補者が勝利し、自民党は、候補者擁立を見送った選挙区を含め、議席を失いました。

今回の投票率は島根1区が54.62%、東京15区が40.70%、長崎3区が35.45%で、いずれもこれまでで最も低くなりました。


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 選挙の結果はともかく……

 投票率が五割なら良い方で、四割三割にすら落ち込む現実。

 選挙の投票って、民主主義デモクラシーの根幹中の根幹でしょう。

 この、民主主義への関心の無さ。

 国民の過半数は、海の向こうの某国みたいな専制国家を望んでいるのでしょうか。

 ラノベでおなじみの、王様独裁の封建時代が理想だというのでしょうか?

 まるでいまだに、江戸時代みたいな。


 このような日本人、ちょっと寂しい気持ちになります。

 諸外国に比して恐ろしいほど低い投票率、政治的な意思表明をためらう国民性。

 匿名の世論アンケートですら白黒つけずに「どちらかといえば……」とグレーな前置きをしなくては〇×つけられない曖昧さ。

 人々は悪事を働く為政者に対して、投票どころか世論調査ですらモヤモヤと沈黙し、ただ神様が天罰を下されるのを期待しているのでしょうか。

 そのうち誰かが何とかするだろう……と。

 ラノベな中世の封建時代ならともかく、今は21世紀、このモヤモヤとした国民性が、国全体をヘタレさせているのでは?

 どっちつかずの日和見で、のらりくらりと生きていれば、誰かがどうにかしてくれるだろう……と高をくくっているうちに、この国はズルズルと転落していきます。GDPがドイツに抜かれ、インドに抜かれ、狂気的な物価高で内需は弱りはて、インバウンドの外人様に媚びへつらっていろいろとお買い上げいただくばかりの格安バーゲン国家ニッポン。

 そのうち、この国の土地は怪しいガイジンさんに乗っ取られてしまいますよ。

 40年前のバブル景気前夜には誰一人想像もできなかった凋落ぶりですね。

 いつまでも神頼みを続けていても、救いはない。

 God helps those who help themselves. ……「神は自ら助くる者を助く」とも言うのですから。


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 何度も繰り返しますが、2024年にもなった今どき、アニメの搭乗型巨大ロボが高性能のAIを備えるのは当然であり、そのパイロットと口頭で情報をやりとりできないのは、あまりにも旧式ポンコツすぎて不自然ではありませんか?


 「神は自ら助くる者を助く」の言葉通り、ロボットも自らを守るために、いちいちパイロットの指示を待たなくても、自分の意思で動いて防衛戦闘を行ってもよろしいでしょう。指示待ちなんて、戦場では命取りです。

 自分で自分を守る。

 そうすることで、搭乗しているパイロットを守ることになるのですから。

 しかしそうなると、パイロットの役割が変質します。

 単なる「操縦者」ではなくなるはずです。

 ロボットに「保護」される存在であり、ロボットに「戦う理由を与える」存在になるのでは?


 この点、『新世紀エヴァンゲリオン』のシリーズは、実にいい線を走っていたと思います。

 あれね、パイロットはエヴァを“操縦”していませんよね?

 だってね、第一話でほぼ無理矢理に乗せられたシンジ君、訓練一切なしで、ともあれエヴァを動かして戦っちゃうのですから。

 それ、どう考えても、フツー無理でしょう。

 あれって、きっと“操縦”じゃないですよ。

 シンジ君がコクピットでいくらジタバタしてボタンやハンドルやペダルを押したり引いたりしたところで、それがマニュアル通りの正しい動作のはずがないじゃないですか。

 ということは……パイロットはただ、「エヴァ様の座席に居させてもらっている」だけであって、ボタンやハンドルは偽物のガラクタでよいのです。むしろ、賢いエヴァの方が乗り手パイロットの意図を忖度そんたくして、パイロットにいいように「動いて差し上げている」のが実態じゃないでしょうか?


 いやなるほど、プラグスーツを介してA10神経とやらを接続して、生理的にエヴァと同調シンクロし、ある種の生体回路で操縦指示を送っているという理屈はナルホドですよ。

 しかしそうはいっても、同調シンクロさえすれば、無知でド素人の一見いちげんさんでもエヴァを乗りこなせたというのは……

 あ、そうか。乗りこなす。

 馬なんだ。

 パイロットはエヴァを「乗りこなして」いる。

 ジョッキーとサラブレッドの関係。

 馬には馬の意思があり、騎手の意図を感じ取って歩き、走り、向きを変える。

 それに近い関係が、パイロットとエヴァの間に成立している。

 だからエヴァがヘソを曲げてパイロットを拒否して同調シンクロ率がゼロになり、パイロットがどうやっても動いてくれない……という事態も発生するわけですね。


 パイロットがレイやアスカの場合でも同様です。

 人間の神経細胞は電気信号によって身体の各所に指令を送っていますが、そのスピードは毎秒120m程度。脳内の神経細胞ではさらに遅くて毎秒50mだとか言われています。

 しかし使徒との闘いは猛スピード。百分の一秒の遅れが生死を分けると思われます。なにしろ敵は光速のビームで攻撃してくるケースがあるのですから。

 パイロットの脳内の判断を体内の各所へ神経の電気信号でのろのろと伝え、それを筋肉の動きに変換してコクピットのボタンやハンドルやペダルの操作につなげ、そこで発生するメカニカルな信号をエヴァのAIが受け取ることで操縦していたら、その反応速度はおそらく使徒からみてノロマすぎる、ネギしょったカモってところでしょう。

 動作がのろくても質量の大きさで敵を圧倒できた『鉄人28号』の時代ならともかく、衛星軌道から極超音速で飛び降りてくるような使徒に対しては、パイロットの人間技にんげんわざでは間に合いません。

 エヴァがパイロットの意図を感じ取り、その指示を受ける前に自分で率先して動かなければ、あっさりと使徒にやられてしまうのではありませんか?

 

 ということはつまり、エヴァは人語を喋らないけれど、少なくとも馬のように独自の意思や人格に相当するAIを持っていて、「パイロットのために自分エヴァの意思でいる」ということなのでしょう。

 これまた『新世紀エヴァンゲリオン』の凄いところ。

 パイロットと搭乗型巨大ロボの間に、新たな関係を生み出したわけです。


 思えば、画期的なことではないかと。


 しかしそういうことになると……

 かりにパイロットが不在でも、エヴァは自力で行動できる。

 整備ハンガーで立ったままのときは、たまたま、拘束具などの制約が加えられて、「今は動かないでおこう」と判断しているだけ、なんでしょうね。


 パイロット、いらんぞ。


 しかし、そうなってしまったとき、個性あるAIによって自律行動できるロボットは、人類に何をもたらすのだろうか?


 これからのロボットアニメの方向性が、そのあたりにあるのかもしれません。


 AIという「意思と個性」を備えた巨大ロボットは、何を守るのか?



    【次章へ続きます】

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