211●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑨ガンダムやヤマトやエンプラがAI化して喋らないのは、なぜ?

211●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑨ガンダムやヤマトやエンプラがAI化して喋らないのは、なぜ?



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 宇宙船や潜水艦といった乗り物がAI化され、艦長や乗組員と喋ってくれる。


 SFの未来図として、そうなることはもうジョーシキでしょう。


 喋らない戦闘ロボ、喋らない宇宙戦艦は、もはや旧式ポンコツの域に分類されても仕方ないのかもしれませんよ。


 しかしこれは、功罪半ばする事象ですね。

 『2001年宇宙の旅』(1968)に電子脳HAL9000が登場したからには、以降のSF映画やSFアニメに出てくる乗り物はみーんなもれなくAIつきでペラペラ喋ってもいいはず……なのですが?

 なぜか、定着しませんでしたね。

 どうして?


 未来世界のタクシーが自動運転のエアカーで、行先や料金について乗客に喋ってくれる……そんな場面はいくつでもあったと思います。

 でも、思い返せば……

 宇宙戦艦や宇宙戦闘機なんかは、ほぼほぼ、喋ってくれません。

 おかしいですね?

 おかしいですよ。


 考えられる第一の理由として、HAL9000が「結局、人間を裏切る悪い奴」というヒールな役柄を与えられてしまったことがあげらます。

「HAL君は人間よりも賢いのだから、絶対に間違ってはならない」

 そんな擦り込みが、HAL9000にはあったのでしょうね。

 ディスカバリー号の旅の目的が、純粋な木星(or土星)の調査探検だけにあるのなら、問題はなかった。

 しかし、人間の乗組員には知らせずに、HALには極秘で別なるミッションが与えられていた。

 人類の眼前にあの黒い石板モノリスをもたらした、未知の存在の正体を確かめること。

 このミッションは、人工冬眠しているスペシャリストの乗組員三人が目覚めてから、冬眠していない主人公のボーマンたち二名を含めたクルー全員に対して、あらかじめ用意されれていた録画メッセージで公開される予定だった。

 ところが、HAL9000は、自分の極秘ミッションに疑いを抱きます。

 HALがボーマンに対してミッションへの疑問を投げかける会話のニュアンスから察して、「人間の皆さんは、HALに教えていない秘密を持っているのではありませんか?」という疑念ではないかと思います。

 HALが命じられているのは「謎のモノリスの正体と、その設置者について探る」という使命だけだけれど、人間の皆さんはもっと他にいろいろと教えられていて、そのことをHALに知らせないように、黙っているのではありませんか? ……という、ある種、深読みのしすぎですね。

 人間たちは何かを知っている。でも、HALは知らされていない……

 絶対に間違うことのない完全無欠の自分なのに、人間たちは、何かものすごく大事な、とても肝心なことを知りながら、すっとぼけている。

 僕はハミーゴだ。

 おそらくそこに、人間に対する電子脳なりの“不信感”が生まれたのでしょうね。

「不完全な人間は、完全なHALを信用していない。人間たちは、なにか重要な情報を僕から隠している」

 そんな、人間に対する認識の齟齬そごが、人間たちへの疑心暗鬼となの一方、自分HAL自身の、ごく些細なミスをきっかけに、HAL自身の存在意義を決定的に傷つけていきます。

 そしてついに、人間がHALの機能停止を決意したとき、HALは逆に人間の排除を決意して実行します。

 自分のミスを知っている人間を消去することで、自分の完全性が保たれる…… と。

 人間は排除しても問題ない、人間がいなくても、いや、むしろその方が邪魔者抜きで都合がいい。

 なぜなら人間抜きの自分HALだけで木星(or土星)の調査探検を十分にやってのけることができるのだから……


 映画を見た範囲で、HAL9000の悲劇に関して私はそんなふうに感じました。他にもいろいろと議論はあることと思いますが……


 そのような次第で、HAL君は心ならずも「人類の敵」になってしまいました。


 これが、いけなかった。

 以降、SFに登場する電子脳なりAIは、何かにつけて人類の上位に立つ、人類を支配するなり虐待したりする専制君主として描かれるようになったのです。


電子脳AIって、悪いやつだ」


 そんなレッテルを一方的に貼られてしまいました。

 SF小説の『コロサス』〈Colossus (1966) D.F.ジョーンズ著〉がそうでして、『地球爆破作戦』の邦題で1970年に映画が公開されましたが、これは、米ソの核戦略兵器の制御システムを司るコンピュータが人工知能AIを獲得して、人類を支配していくというディストピア物語でした。

 いわば『猿の惑星』シリーズの猿をコンピュータに置き換えたようなものですね。

 新たなる支配者に人類が屈服するお話でした。

 この作品に限らず、「人工知能が人類に反旗を翻して悪の支配者となる」パターンのお話がフィクションの世界では定番化してしまったみたいです。

 でも、本当に恐ろしいのはAIそのものよりも、人間なんですがね。


 このことが一種のトラウマとなって、乗り物、特に戦車や戦闘機や戦艦などの兵器類にはAIはなじまない……みたいな、意味不明の固定観念がSF作品の世界に蔓延はびこってしまった感があります。


 ちょっと変ですね。

 家電製品やタクシーあたりがAI化するのはオッケーでも、兵器類とか、特に巨大戦闘ロボや宇宙戦艦がAI化するのには、人類に拒否反応があったみたいです。


 おそらくその理由は単純で、家電製品やタクシーくらいなら、人類以下の奴隷としてAIを使役できるけれど、兵器がAI化して人間と対等に喋り出したら、そうはいかないということでしょう。

 こいつらは人類のはるか下級の奴隷だとばかりに見下してビシバシと働かせた結果、兵器のAIがヘソを曲げて人類に銃口を向けたりしようものなら、人類の優位性はあっという間に崩れ去ってしまうではないか? ……という、全く根拠薄弱で身勝手なプライドがあるからでしょうね。


 要するに「人類はAIの上に立つ」という姑息なマウンティングにこだわる精神ゆえに、AIに優越的な力を与えたくない、だから兵器のAI化はディストピアとして否定的に描かれてきたのではないかと。


 しかしもう、現実の方がSFを追い越して、「超音速戦闘機のAI搭載による自律飛行」が実機で実験される時代になってしまいました。


 戦車や戦闘機や軍艦や宇宙戦艦や巨大人型戦闘ロボがAI化されてぺらぺら喋っても不思議の無い時代に、すでに私たちは踏み込んでしまっているのですね。


 なのに、そのことがSF作品、とりわけアニメ作品に反映されているとは言いがたいのです。


 宇宙戦艦のAIを主人公に据えた小説作品など、あることはありますが、まだ普遍的とは言えないように思います。

 一方、『きかんしゃトーマス』(1984-)、『チャギントン』(2008-)、『カーズ』(2006-)、『プレーンズ』(2013)などのアニメ作品は、幼児向けながら、まるでAIを搭載した乗り物が個性を持ってドラマを展開しているかのようですね。いずれ、あんな感じになるのでは……と、近未来をイメージさせてくれます。


 このように、SFよりもファンタジーに近い作品の方に、むしろリアリティが感じられる。

 SFはもはや、現実に置き去りにされているのです。

 ガンダムシリーズの戦闘ロボットを思い返してみましょう。

 1978年の初放送のときから四十数年を経てもなお、そのメカニック…機械的な仕組み…が基本的に進歩していないことに驚くべきかもしれません。


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 SF作品、特にアニメの中で、戦車や戦闘機や軍艦や宇宙戦艦や巨大人型戦闘ロボがAIつきでぺらぺら喋ったりしない理由は、もう一つ、切実な事情があります。


 第二の理由、それは、オトナの事情です。


 思えば、『2001年宇宙の旅』や『青の6号』のおよそ十年後に放映された『機動戦士ガンダム』(1978)あたりになれば、ガンダム自身が対話可能なAIを搭載していてもよかったはずですね。

 というか、むしろそれが当然だったのでは?


 それなら第一話でアムロ君が乗り込んだ時、ガンダムはもっと簡単に動かせたでしょう。

ガ『ようこそ、私はガンダム、ご希望はなんなりと』

ア「立て、立ってくれ!」

ガ『はい、喜んで』(大地に立つ)

ア「こいつ……動くぞ!」

ガ『当たり前です。自分で動けます』

 しかし、ガンダムをはじめとした一連のシリーズの戦闘ロボたちは、それなりにAIを搭載していたはずなのに、だーれもHAL9000みたいに喋りませんでした。

 ハロはペラペラと喋っていたのにね。考えてみると不自然です。

 つまり、大人の事情でそうなったのでしょう。

 ガンダムが自分で喋って自由に動けると、主人公のアムロ君、最初から要らなくなりますから……。


※じつはファーストガンダム第18話で、ガンダムがアムロ君に音声で喋る場面がチラッとありますが、パイロットに対する一方的なインフォメーションで、対話は成立していません。ガンダムからの音声出力は、後にも先にもこの回だけのようです。


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 宇宙戦艦ヤマトがAI化されていた場合。

(アナライザーがあれほど饒舌なのに、ヤマトがダンマリで喋らないのは不自然ですから)

沖田艦長「古代、波動砲を撃て」

ヤマトAI「艦長、それは最善の策ではありません。敵基地を叩くには波動砲は威力が大きすぎてオーバーキル、ここで使うにはエネルギーの無駄が大きすぎます。加えて、浮遊大陸の全体を破壊してしまい、SDGsの観点からも望ましくありません。ここは不肖ヤマトの私めが、ショックカノン九門の一斉射で敵の司令部をピンポイントクラッシュしてみせましょう、皆様はそのままお席でご覧下さい」

沖田「古代君……」

古代「はい艦長」

沖田「君は寝ていればいいそうだ」


 かたや『スタートレック』(TVは1966-、映画は1979-)は、じつはかなりいい線いっていましたね。ブリッジで「コンピュータ!」と呼びかければ、電子脳らしきものが回答してくれたのです。ただしそれは現在のChatGPTみたいなレベルでして、エンタープライズ号自身が完全にAI化されていたのではなさそうですが……。


 エンタープライズ号がAI化されていた場合。

カ●ク「フェーザー砲用意、目標は前方のクリ●ゴン戦艦!」

エンタープライズ「お言葉ですが船長、ここで双方が撃ち合えば双方に損害が出て人的被害を招く確率が800%であることが論理的に推算されます。ここはひとつ、私めにお任せを。敵戦艦のAIにネゴシエーションを仕掛けて互いの論理的最適解を導き出します。(数秒でデータをやり取りすると)……はい、結論が出ました。双方、艦砲による交戦を避けて、双方のキャプテン同士の決斗で決着をつけていただきます。これならば死者はどちらか一名に限定されますので、双方ウインウインです。以上が論理的帰結であります」

カ●ク「エンプラ、つまんねえ奴だなあ。なにが論理的帰結だ。死ぬかもしれないのはこの私だぞ、死んだらどうする! 今回を最終話にするつもりか」

エンプラ「どうする必要もありません。カ●ク船長がおられなければ、本船の航宙はより平穏無事となる確率が二万%です。論理的ロジカルに、カ●ク船長抜きなら行き先々の惑星の内政に個人的に介入してトラブルを急拡大する愚行をゼロにできるからです、私の論理ロジックは完璧ですので」

カ●ク「ミスター●ポック」

●ポック「なんですか船長」

カ●ク「エンプラに何か言ってやることはないのか」

●ポック「ありませんね、論理的に全く同意見です。わたしの論理は完璧ですので」

カ●ク「ミスター●ポック、きみは本日付でクビだ。完璧なやつは二人もいらん」

エンプラ「論理的に同意します、船長」

Dr.マッコ●「エンプラ、お前も本日付でクビだ。完璧なやつは一人もいらん!」


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 SFの世界で巨大ロボや宇宙戦艦がAI化して喋らない理由は、多分にオトナの事情にあるようです。

 つまり、主要キャラの失業。

 AIがしゃしゃり出ると、だれかが要らなくなるのです。


 アムロ君だってそうですね。彼がいてもいなくても、だれが他の人がガンダムに乗ったとしても、戦場ではAI同士が戦って、みんな同じパフォーマンスを発揮するわけですから。


 もっとも、さすがにガンダム! と、うならされるのは、「ニュータイプの発現」という超常的な要素がストーリーに組み込まれたことです。

 ニュータイプの能力は、AIを凌駕する。

 その点、やはりガンダムのパイロットはアムロ君でなくてはならないということでしょう。

 なにぶん、三倍速のシャア様が相手ですから。

 ファーストガンダムの最終話では、AIのレベルを超えた、超能力者同士の決斗が繰り広げられた……ってことでしょうか。

 こうなるともう、AIの戦闘能力とは別次元のバトルになりますもんね。


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 ことほど左様に、何かがAI化されると、誰かが失業する羽目になります。


ネットのニュース

●衆院本会議でのタブレット解禁見送り 歴代議長ら反対「権威の問題」

2024年4月8日 19時40分 朝日新聞デジタル 小林圭 

国会のデジタル改革をめぐり、衆院本会議でのタブレット使用の解禁が見送られた。各会派による検討会で決まった。解禁しない理由として「権威の問題」が指摘された。

(中略)4日の協議では、タブレット使用について、複数の歴代正副議長に意向を確認した結果が報告された。意見を求められた全員が「難しい」と回答した。正副議長の一人は理由として「権威の問題」をあげたという。


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 にしても不可解にして不可思議なことでありますな。

 審議中にコッソリとスマホをいじっておられる議員さんもおられるようですし、今どき小学校でも使っているタブレットがダメというのはこれ如何に。……ですね。


 でも、タブレットの使用を容認すると、そのうち、こんなことになるのでは……


  (国会の党首対談、与野党双方、自席でタブレットを操作する)

与党党首「(ChatGPTに)少子化対策で増税する最も適切な法案は何か」(出てきた回答を見て)「私の声に似せて音声出力せよ」(……法案が合成音声で読み上げられる)

野党党首「(ChatGPTに)与党法案の欠点を指摘せよ」(出てきた回答を見て)「私の声に似せて音声出力せよ」(……意見が合成音声で陳述される)

与党党首「(ChatGPTに)野党の質問を論破する回答を生成せよ」(出てきた回答を見て)「私の声に似せて音声出力せよ」(……意見が合成音声で陳述される)

野党党首「(ChatGPTに)与党の回答よりもすぐれた代案を出せ」(出てきた回答を見て)「私の声に似せて音声出力せよ」(……意見が合成音声で陳述される)

与野党各位「(ChatGPTに)相手をコキ下ろす最も効果的なヤジを生成せよ」(出てきた回答を見て)「群衆の声を合成して音声出力せよ」(……双方のヤジが合成音声でけたたましく議場内を飛び交う)


 たぶん、最初に要らなくなる職業は政治家では?


 議事堂には一党一枚のタブレットを並べ、それぞれのAIが政策案と意見をChatGPTとかで生成して議論し、AI同士で結論を出して施策を実施すれば、それで足りるのではありませんか?

 議員はゼロでオッケー。

 AIは嘘もつくと言われますが、要は、人間の議員さんの嘘と比べて、その有害度とコスパを比較してどう判断するか、ですね。

 各党ひとつのAIで済みますし、人間の議員さんみたいに政党助成金をはじめ莫大な報酬を必要としませんから、そのぶん減税できますし、何よりも裏金作りにうつつを抜かすことも、贈収賄やら脱税の心配もありませんし、「記憶にございません」としらばくれることもしませんし……


 だから「権威の問題」などというヘンテコなお題目が登場したのでしょう。

 みんながタブレットを駆使してAIに頼ると、そもそも議員は一人もいらなくなることが証明されてしまう。

 AIだけで、より合理的で公平な政策決定が可能になるとしたら……


 国会からAIを排除する根拠は、「(人類の)権威の問題」、すなわち、なけなしのプライドしか残らない……ってことでしょうかね?



    【次章へ続きます】


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