210●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑧なぜ喋らない? 搭乗型ロボットの不自然。『ガンヘッド』(1989)と『青の6号』(1967)の偉業、その先には……。

210●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑧なぜ喋らない? 搭乗型ロボットの不自然。『ガンヘッド』(1989)と『青の6号』(1967)の偉業、その先には……。



       *


 さて、巨大ロボットに神様が宿る前に、21世紀の私たちの現実世界では、“巨大ではない”ロボットにAIが宿ろうとしています。

 まるでタマシイあるものの如くに、自律的に思考し、喋り、行動するロボット。

 アニメの世界の「搭乗型ロボット」がAIを実装し、擬人的なインターフェイスでパイロットと対話しながら戦闘、あるいは仕事や作業を行う……というフェイズは、もはや目の前にある“まぎれもない現実”と考えてもよさそうですね。


ネットのニュース

●Amazon Echoに「コンピュータ」と呼びかけてみた

2017年11月17日 17時45分 松尾公也,ITmedia

現在のスマートスピーカー、音声エージェントは、ウェイクワード(ホットワード)が設定されており、そのキーワードが認識されると、その後に聞き取った言葉を命令として判断する。Clova WAVEなら「Clova」、Google Homeなら「OK Google」、Siriならば「Hey Siri」、Amazon Echoなら「Alexa」。


       *


 つまり、音声によるAIと人間のインターフェイスは、2024年の現在からみて十年近くも昔から家電製品のレベルで成立しているってことですね。


 ということは……

 今後、クルマの自動運転が普及すれば、当然、ドライバーはクルマのナビゲーターAIと口頭で対話しながら指示をして、目的地を目指すことになるでしょう。

 「〇〇へ行ってくれ」「〇時に到着してくれ」「もっと急げ」「窓を開けろ」「〇〇へ電話してくれ」とか、「最新のニュースを」「心地よい音楽を」「面白い小話を」「もっと甘い声で」と、サービスの要求はあつかましく増大するでしょうし、AIの性格設定も老若男女を問わず、メイドさんや執事、ジゴロの語り口、いや著名タレントさんのソックリボイスまで、自在に選択できるようになるでしょう。

 廃車にするときは、ハードディスクを取り外して新車に移設して個人情報を保護し、そのAIとのお付き合いを、AIか人間、どちらかが死ぬまで続けていくことになるのでは? まるで専属の運転手、いや夫婦みたいに。


 アニメでは人型ヒューマノイドのAIロボットが流ちょうに喋るシーンが目につきますが、それが実用化される前に、なにはともあれ、おしゃべりなAIカーが街中をいっぱい走り回ることになる……と思われます。


       *


 それならば、ロボットアニメに描かれる未来世界では、家電製品やバイクやクルマはもちろん、戦車も戦闘機も軍艦も、いや宇宙戦艦だってAI搭載で喋るのが普通になっていておかしくありません。

 そうなりますとアニメや実写ドラマで、とっくの昔に「搭乗型ロボットのAIとパイロットが対話して物語ドラマを進める」作品が当たり前になっていてもよさそうなのですが……、なぜか、まず、見かけませんね。

 そこが、かなり不思議。

 ガンダムシリーズのモビルスーツたち、それぞれAIを装備しているはずなので、パイロットとあれこれ喋ってもいいと思うのですよ。暇なときはしりとりで遊んでくれたり、落語や講談や猥談わいだんも聞かせてくれたりとか。

 それに戦闘時でも、積極的な攻撃バトルはともかく、敵弾が迫って来た時の自動回避なんか、AIにやってもらった方がいいですよね。敵のロボットだってそうするでしょうし。


 そうなんですが、どうも、主人公が乗っているロボットがコクピットで喋ってくれる場面って、ほぼ見たことがないような……


 最近のNetflix映画『アトラス』(2024)では、ようやくそれが実現して、搭乗型ロボットが男性AIで、女性パイロットとトークで意思疎通しながら、バディを組んで戦うようですが。アイデア的には、「何をいまさら」感が漂うわけでして。


 じつは国産の実写特撮映画で、なんと35年も前に、搭乗型ロボットとパイロットの対話場面がキッチリと、かつ感動的に描かれていたのです。

 『ガンヘッド』(1989)ですね。

 戦場は廃墟と化した超巨大ビル。そこで闘うロボット小隊の隊長格である変形ロボット・ガンヘッド君には疑似人格のAIが搭載されていて、乗り込んで戦う主人公と対話してくれます。

 『ガンヘッド』は興行的には振るわず、「話の通じる戦闘AIロボット」はSF映画史のダークサイドに埋もれてしまいました。

 惜しむべきことです、まだCGがほとんど使われていない時代、特撮のレベルはいまひとつだったかもしれませんし、キャストの演技もSF慣れしていない感じだったかも。

 しかし私は『ガンヘッド』こそ、SFロボット史の偉大なメルクマールだと思いますよ。

 戦闘に特化したロボットが、ただの機械兵器でなく“相棒”にまで昇格した作品というのは、今でこそ刮目ものです。

 その結末は、独特の哀愁に満ちていましたね。ロボットのガンヘッドは、人間達のチームの中で人間と同等の立派な一員となったのですから。

 この作品は主人公の人間たちよりも、ガンヘッドの物語でした。

 彼の魂に幸あれ。


 作品の登場が、おそらく十年以上早すぎたのでしょうね。


       *


 乗り物のAIが人間と対話するケースの元祖は、やはり『2001年宇宙の旅』で宇宙船ディスカバリー号と一体化したAI、HAL9000でしたね。映画公開が1968年、もう半世紀以上も昔のことです。


 しかし、乗り物のAIが人間と喋るケースは、『2001年宇宙の旅』(1968)の公開前年の漫画『青の6号』(1967~)ですでに本格的に登場していました。

 作者は小沢さとる先生。(のちに“小澤さとる”)

 時代は近未来、世界の海洋の治安を守る国際組織“青”に所属する潜水艦の活躍を描くこの作品は、前作の『サブマリン707』(1963~)と並んで、まさに日本の潜水艦漫画の金字塔です。

 スケールの大きさ、科学的合理性、様々なギミックのアイデアの斬新さ、それに絵的にも素晴らしく、一つ一つのコマの構図レイアウトのダイナミズムは、まるで映画を見ているような迫力にあふれていました。

 傑作中の傑作だと思います。もう空前絶後の逸品! というべきか。

 そんな『青の6号』に登場した未来型の潜水艦“青の1号:コーバック号”たるや、AIによる完全自動操艦、しかもAIさんが冗談もまじえて喋ってくれる。ということで、のちの『レッド・オクトーバーを追え』とか『沈黙の艦隊』の“やまと”なんか足元にも及ばない、超スグレモノのスーパーサブマリンだったわけです。

 艦長が命じるまま、AI操艦で海中を50ノットでブッ飛ばす排水量5500トンの鋼鉄くろがね魚影サブマリン! この爽快感!

 そりゃもう、マニュアル人力の操舵では、何かにぶつかってしまいますよね。

 時速90キロ以上になるんですから。 

 しかし、AIの想像力を超えた、想定外の存在が海中に現れたことで、AIは混乱し、判断を誤って失策をおかす……という展開になります。

 そのあたり、論理的に納得できるのですね。私が読んだのは小学生のころでしたが、AI(当時の作中の呼び名は“電子頭脳”)の判断能力の破綻が、とてもわかりやすく、すんなりと理解できました。

 作者である小沢さとる先生の、超人的な先見の明が存分に発揮された作品だったわけです。


 『サブマリン707』と『青の6号』は、発表が1960年代でありながら、今でも十分にオトナの鑑賞に堪える大傑作漫画です。

 (『サブマリン707』は1997年と2003年に、『青の6号』は1998~2000年にアニメ化されていますが、内容的には全く異なる印象です。漫画とは別物)

 さらに、同じ小沢さとる先生作の『エムエム三太』(1965)を加えた三作品は、メカの設定や軍事科学、国際情勢の想定、とりわけ敵の組織の行動原理が単なるおバカな世界征服ではなく、緻密な方法論を確立している点の物凄さを絶賛するしかありません。

 作品発表時では数十年後の未来となる20世紀末から21世紀の軍事・経済・政治の情勢を精確に読み込み、要点のポイントをピタリとついていることに驚かされます。

 『サブマリン707』(1963~)の「アポロノーム編」では、「平和の守り神」とされる究極兵器が平和の破壊者に一瞬で変貌する、その人間的要素の不気味さと、そのプランニングを実行する天才軍人のカッコよさ。

 『青の6号』(1967~)では、今でいう多国籍企業みたいな“多国籍な悪の組織”が国境のない散在国家としてふるまう……という仰天の発想と、そのリアリティの深さ。

 『エムエム三太』(1965)では、三十年後の1995年に日本を震撼させた某宗教組織によるテロ事件をそっくり予言してくれました。


 今どきの若い世代にこそ、古いマンガとバカにせず、ぜひ読んでいただきたい作品ですね。

 60年昔に、これだけの科学的かつ合理的な発想が生まれていたことを。

 いずれ詳しく感想をまとめたいと思います



    【次章へ続きます】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る