188●この国が良くなる気がしないのは、なぜだろう?③“家族愛至上主義”の衰退。

188●この国が良くなる気がしないのは、なぜだろう?③“家族愛至上主義”の衰退。




 元始、アニメは子供たちのものでした。

  中学生にもなって漫画を読みアニメを観ると、親たちから「おつむがパーになるよ」と蔑まれた時代もあったわけです。昭和30-40年代のこととされますが。(いや実際、日本人はあれからみんな、おつむがパーになっていったのかもしれません)

 東映動画が「まんが祭り」などと称して長編アニメ映画を製作・公開していた時代ですね。

 観客層は親子連れ。となると必然的に、親子という“家族”で安心して鑑賞できる作品であることが基本条件となります。


 そんな風潮を受け継いで昭和のブラウン管を支配したのが、いわゆる「世界名作劇場」でした。

 例えば……


『アルプスの少女ハイジ』(1974)

『母を訪ねて三千里』(1976)

『ペリーヌ物語』(1978)

『赤毛のアン』(1979)

『牧場の少女カトリ』(1984)

『小公女セーラ』(1985)

『トラップ一家物語』(1991)

『ロミオの青い空』(1995)

『家なき子レミ』(1996)


 いずれも、親と子の家族関係が作品中で極めて好意的に、かつ丹念に描かれ、それが作品テーマの一翼を担っていることがわかりますね。


 またジブリアニメでも『火垂るの墓』(1988)、『となりのトトロ』(1988)、『魔女の宅急便』(1989)、『おもひでぽろぽろ』(1991)、『耳をすませば』(1995)など、家族の姿を描く作風がこの時期に目立っています。


 つまり、“家族愛”が作品の中核的な要素を構成するわけです。

 引き裂かれた家族の探索と再会、あるいは家族に対する誤解を解いて和解する。家族が団結して問題を解決する。恋人と出会い、新たな家族を見出す……。

 そういった、“家族愛の成就”が作品の大団円を形作りました。


 いわば、“家族愛至上主義”です。


 それが昭和の終わりである1989年あたり、もしくはバブル景気の崩壊に至る1990年代前半の時期まで続く、アニメの巨大な潮流であったと言えるでしょう。


 そういえば『Dr.スランプ アラレちゃん』(1981-86)も、そんな雰囲気でしたね、SFアットホーム・ギャグとでも言うのか。


 洋物の実写ドラマでは『大草原の小さな家』(1974-82)が決定版。超ロングヒットを飛ばしました。

 もっとも、その前に『宇宙家族ロビンソン』(1966-68)がありましたので、それぞれが西部劇とSFの両分野を代表するファミリードラマということかもしれません。こちらは、あさりよしとお先生の傑作SFアニメ『宇宙家族カールビンソン』(OVAが1988)にもつながっていきます。


 1940-60年代の古き良きアメリカ映画の影響も大きかったでしょう。

 アカデミー賞総ナメの『風と共に去りぬ』(1939)、『わが谷は緑なりき』(1942)、ノミネート作品の『素晴らしき哉、人生!』(1946)、またジェームズ・ディーン主演の『エデンの東』『理由なき反抗』『ジャイアンツ』(1955-56)の三部作もベタベタの家族テーマでしたね。


 ということで……

 ことほどさように、昭和のアニメは(実写ドラマもそうでしたが)、“家族愛至上主義”に燃えていたのです。


       *


 しかし時代は変わります。

 昭和が終わり、平成の時代に入ったあたりから、アニメのファミリードラマは急速に退潮をきたしていきます。

 1996年の『家なき子レミ』を最後に「世界名作劇場」が終止符を打ちます。理由はいろいろあるでしょうが、やはり視聴率を稼げなくなった、つまり、観る人が少なくなったことに原因があるのでしょう。高視聴率をキープできたら、続いていたはずですから。


 この退潮傾向は21世紀になっても変わることなく、一時的に『レ・ミゼラブル 少女コゼット』(2007)と『ポルフィの長い旅』(2008)で復活したように見えながら、長続きはしませんでした。

 ただ、視聴者に飽きられた、というだけではないように感じます。

 私の主観ではありますが、「飽きられた」のではなく……


 私たちにとって、「家族そのものが現実に崩壊していった」ことが真の要因ではないだろうか、そう思うのです。


       *


 例外に見える作品があります。

 まずは、あのご長寿番組『サザエさん』(1969-)と『ちびまる子ちゃん』(1990-)ですね。

 ただし両作品とも「さあ、一緒に昭和を懐かしみましょう、いい時代でしたよね」といったノスタルジー・モードを前提にしているのではありませんか? 

 視聴者は最初から「今は失われた、温かい家族の光景」の思い出にひたるために、古い家族のアルバムを開く……という仕掛けを楽しんでいるのだと思います。

 三世代同居で育つことのできた、現在の高齢者世代が、自分自身の過去に重ねて懐かしむのではないでしょうか。


 また、『ドラえもん』(1979-)と『クレヨンしんちゃん』(1992-)にも家族の風景が見られますが、こちらは祖父母の世代が同居していません。最初から父母のみの核家族で設定されているのですね。

 ですから、作品に描かれるほのぼのとした核家族生活を懐かしむのは、まさに核家族で育った、現在の子育て世代ではありませんか? 皆様はしんちゃんたちのオバカぶりを笑いながら、自分たちがジジババ抜きの核家族家庭で、小学生や幼稚園児だったころの記憶をリフレインしているのですよ。


 21世紀の高齢者は『サザエさん』と『ちびまる子ちゃん』を懐かしみ、子育て世代は『ドラえもん』と『クレヨンしんちゃん』を懐かしんでいる。


 「懐かしむ」というのは、今ここに無いから、「懐かしむ」のですね。


 そこで、私たちの現実を見回してみましょう。


 今ここに、幸せな三世代家族、いや幸せな核家族すら、21世紀の現在の現実に、どれほど実在しているのでしょうか?


 それって実際、絶滅危惧種になってはいませんか?


 アニメの傾向を鏡に映すかのように、現実世界の“家族”も崩壊し、蜃気楼のように消滅しつつあるのでは?





   【次章へ続きます】


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