137●『ガリバーの宇宙旅行』③:先進的な宇宙SF!

137●『ガリバーの宇宙旅行』③:先進的な宇宙SF!



 『ガリバーの宇宙旅行』は、宇宙を扱ったSFでもあります。

 そりゃまあ、本来、“子供向けのメルヘン”であることは確かですが、オトナの視点でSF的に解釈しても、なるほどとうなずかされるアイデアがちりばめられていることに驚きます。


 まずは、恒星間宇宙船ガリバー号のメカニックデザイン。

 船首はずんぐりした砲弾型のガリバー号本体、続いて長大なブースター部分がシンプルな円筒ミサイル型にまとめられています。

 平凡な外見ですが、最大の特徴はその巨大さ。

 ガリバー号本体の全長を30~40メートルとしたら、ブースター部分を含めた総全長は二百メートルを超えるでしょう。


 その船体が森の中に敷かれた鉄道軌道上をゆるゆると移動し、広大な広場中央の発射台で垂直に起き上がるシークエンスは、鳥肌もの。

 で……でかい。

 このマッシブな重量感もさることながら、周辺環境のすばらしさ。

 豊かな緑に囲まれ、ウサギやネズミやタヌキ、そのほかさまざまな鳥たちに見物されて飛び立つあたり、ガリバー博士の一行は“人類の代表”というよりも“全地球生物グローバル・ネイチャーの代表”と言うべき貫禄が漂います。

 発射時の衝撃波ブラストは大変なもので、動物たちが吹き飛ばされそうな勢いですが、ガリバー号の噴射ガスは有毒物質や煤煙を含んでいないことが察せられます。

 つまり、燃料がクリーン。

 黒煙モクモクの固体燃料でなく、液体の水素と酸素を燃やしているのでしょう。


 美しい森に囲まれて宇宙へ飛び立つ……古今東西の映画に登場したロケット打ち上げシーンの中で、最高にロマンティックな離昇風景だと思います。


 さて、宇宙空間に船出したガリバー号は、ブースター部の先端に載せられていた宇宙船本体を切り離します。

 この分離シーンで、ブースター部分がいかに大きいか、そしてガリバー号本体の、全船体に対する構成比がとても小さいことをしっかりと見せてくれます。

 なるほど、これだけ大きなブースター部が必要なのは、地球の衛星軌道に上がるだけでなく、公転軌道も一気に脱出して、すみやかに太陽系を離れるだけの推力を得るためでしょう。


 この先端部分、つまりガリバー号本体ですが、ずいぶんとずんぐりした、寸詰まりの砲弾型に設計されています。一方、1965年前後の東宝特撮映画における宇宙探検ロケットは、たいていがすらりとした細長いスタイルでカッコいいのです。『妖星ゴラス』(1962)の隼號、『怪獣大戦争』(1965)のP-1号しかり。

 なぜか、ガリバー号は真逆。

 でも、このズングリムックリスタイルは便利です。

 宇宙空間は完全真空でなく、希薄ながらガスなどの星間物質があり、猛烈な高速で飛ぶと抵抗が生じます。

 いわば地球の海を行きかう船の、舳先へさきに生じる“造波抵抗”みたいな感じ。

 そのように進行方向から抵抗を受ける環境で方向転換するには、前後に短いズングリスタイルの方が有利ですね。短時間で機敏に進路変更する、あるいは進行方向はそのままで姿勢を自在に変える……といった機動性を重視した船体デザインと言えるでしょう。


 そこで気になるのは、このズングリスタイルのガリバー号本体はいかなる動力で進んでいるのか、その推進機関は何かということ。

 エンジンすなわちロケットモーターは、胴体の尾部から三方に生えた短い翼によって、ポッド式に装架されています。ちょうど同時代のサンダーバード3号(TV人形劇 1965)と同じ設置方式ですね。

 勝手な想像ですが、ポッドはそれぞれが核融合エンジンを内蔵していて、エンジンを居住区からなるべく遠ざけて安全距離を確保するために、胴体から離れたポッド方式を採用していることと思われます。

 安全性の高いエンジンとはいえ、想定外の原因で事故った場合を考えて、ポッド方式にしているのですね。爆発するような最悪の場合は切り離せるとか。


 かつ専門的な解説として、「レーザー核融合ロケット(LFR)において、核融合反応で生成した高エネルギーのプラズマは磁気ラストチャンバーと呼ばれる磁気ノズルによって熱エネルギーから運動エネルギーに変換されます。従って、従来の推進機では不可能な、高い排出速度(即ち高い比推力)と大推力および長寿命を同時に達成可能であり、核融合プラズマを利用した宇宙推進システム(ロケット)は、画期的な 高速推進システムとして非常に有望です。」(九州大学 先進宇宙ロケット工学研究室ホームページより)とありますので、ガリバー号本体のエンジンポッドから噴出しているのは高エネルギー・プラズマといったところでしょう。


 なお、三基のエンジンポッドの先端は閉じているのでなく、航空機のジェットエンジンみたいに、エアインテーク状に開いています。

 ということは、エンジンポッドの前方に、例えば磁場で細長い漏斗状のラムスクープを形成し、進路前方の希薄なガスもしくは粒子状の星間物質を集めてインテークから吸収し、補助的な噴射燃料に使用する、エコな節約システムを備えているのではないかと。

 つまり、ラムスクープ核融合エンジンです。


 見た目に不思議な装備として、船尾の全面がパラボラアンテナ風の滑らかなディッシュであり、中心に一本のロッドアンテナ風スティックを伸ばしていること。

 私も以前は光子ロケットの光子噴射用凹面鏡かと思っていましたが、推進装置として使われている様子がないので、たぶん高性能の超空間汎用アンテナなのでしょう。

 地球からかなり(何光日か何光月か?)遠ざかったにもかかわらず、船内のTVモニターで地球の野球中継を受信しています。ほぼリアルタイムで観戦しているようですから、亜空間搬送波のような、超光速の送受信を可能にする原理を使っているのでしょう。

 また、周囲の空間を探査するレーダーとしても機能していると思われます。前方へ進行しながらでも、船体そのものを回せば全周をサーチできますから。


 それらを考えあわせますと、ガリバー号は、けっこう合理的な設計思想で綺麗にまとまったスタイルであるように思えます。


 当時考えられていた未来の宇宙船のイメージはというと……

 テッド少年たちが忍び込んだ遊園地の宇宙館で、警備員に追われているテッドの背後に、1965年当時に想像されていた未来の宇宙船の構造図がチラっと映ります。

 宇宙船は三タイプが描かれていて、上段の船は一目瞭然で光子ロケットです。船尾にパラボラ・ディッシュ状の光子噴射用凹面鏡を備えています。

 残りの二タイプは判然としませんが、中段の船はイオンエンジンか核融合、下段の船は原子力エンジンか化学ロケットでしょうか。

 いずれも昭和の時代を感じさせる想像図ですが、作品をつくるうえで、科学的リアリティを意識している姿勢が伝わってきますね。SF的センスというのか。


 1965年と言えば、TVアニメで『宇宙エース』『宇宙パトロールホッパ』『遊星少年パピィ』『宇宙少年ソラン』が、翌66年には『レインボー戦隊ロビン』が放映され、いずれもモノクロ映像ながら、太陽系を飛び出す勢いの、元気な宇宙活劇が大ブームでした。後年のキャプテンフューチャーの主題歌みたいに、「♪どっちを向いても宇宙、どっちを向いても未来」の時代だったんですよね。


 とくに『宇宙エース』の巨大探検船シーホース号は最新の光子ロケット推進で、ガリバー号と同様のずんぐりスタイル。これも理にかなった形状ではないかと。しかも、映画に比べて横幅の狭いTV画面に船体の全体像を収めやすいというメリットも有する、スグレモノでしたね。

 60年代の空想宇宙船の最高峰はシーホース号とガリバー号で、双璧を張るのではないでしょうか。『スタートレック 宇宙大作戦』(1966-)のエンタープライズ号もよろしいですが、複雑な船体形状で、過酷な宇宙空間への露出面積が多いエンプラ号のデザインに比べて、シーホース号とガリバー号は無駄のない実用性で、はるかに優っているように思うのですが。


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 なお、テッドたちが遭遇する異星人の宇宙船は球形をしています。

 これも、真空で、かつ危険な放射線等に被曝する可能性のある船体外面の面積を最小にとどめ、そして船体内外の圧力に対して抗堪性こうたんせいの高い、合理的な姿と言えるでしょう。深海潜水艇の耐圧殻が球形であるように。


 また、ガリバー号にない装備として、異星人の宇宙船が時間逆行空間からガリバー号を救い出すために“牽引ビーム”を用いたことは注目です!

 電磁波なり粒子の高エネルギー・ビームをもちいて、特定のターゲットを拘束し、あるいは引き寄せるという“牽引トラクタービーム”は、1977年公開の『スター・ウォーズ』で、デス・スターがミレニアム・ファルコン号を捕獲するなどに使用して、一般に知られるようになりましたが、『ガリバーの宇宙旅行』はその12年前の映画です。国産アニメ映画として、なかなかの先見性。


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 そしてなによりも慧眼だと驚くのは、ガリバー号の乗り組みクルーたち。

 テッド少年は歳が若く問題ありませんが、ガリバー博士は結構なご老体、当時の空想科学映画の宇宙飛行士では最高齢かもしれませんね。

 まず、老人が宇宙の海へ船出する、という発想のユニークさ。

 そして一行は、マックという名前の子犬を連れています。

 なんと、ペット同伴。

 未来の宇宙旅行に必ずあるべきシチュエーションですが、意外とこれ、描かれていないのですね。“ペット可の宇宙旅行”は、それだけでも様々な課題とエピソードが生まれる題材でしょう。

 それに兵隊人形の“大佐”。

 いわば小型ロボット同伴。ガンダムならハロを連れて旅行するようなもの。

 これも未来の宇宙旅行に必ずあるべきシチュエーションです。素人の旅客を乗せる宇宙船の中では、船客の抜け毛やフケ、汗や涙、唾液や鼻水、ポテチ等の細かい食べかす、そういったこまごまとしたゴミが全部、無重量空間の通路なんかに漂い続けるはず。それらを常時、清掃し続けるために、スペースルンバともいうべき超小型清掃ロボットが随時巡回しなくてはならないかと思われます。

 “大佐”はルンバではありませんが、こうした汎用性のある船内用小型ロボットは、未来の宇宙旅行に欠かせないでしょう。


 そして極めつけは、カラスのクロウ君。

 鳥類でありながら高度な知能を持ち、ガリバー号の実質的なパイロット兼ナビゲーターを務めます。くちばしでキーボードをつついて仕事するあたり、人類顔負けのテクニックですね。

 このような、知能を向上した異種生物が人類と共同して仕事をこなすケースは、未来の宇宙SFを考察する上で注目に値しますね。作中ではごく自然に描かれていますが、SF的視点でみれば、じつに魅力的です。


 テッド少年、ガリバー翁、子犬のマック、ゼンマイ人形の大佐、カラスのクロウ、この五人(?)の組み合わせは、エドモンド・ハミルトンのフューチャーメンに並ぶ、名クルーというべきではありませんか?


 たかが“子供向け”の漫画映画とはいえ、『ガリバーの宇宙旅行』のSF的センスの先進性は、タダモノではないと思うのです。




  【次章へ続きます】


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