111●おすすめ映像音楽(9)…『ベン・ハー』のミステリー、本物サントラはどこに?
111●おすすめ映像音楽(9)…『ベン・ハー』のミステリー、本物サントラはどこに?
ミュージカルがらみのお話が長くなりましたが、『オズの魔法使』が公開されたのと同じ西暦1939年、音楽的にも作品スケール的にも、常識を塗り替える超大作が爆誕していましたね。
『風と共に去りぬ』(1939米)。
尺が三時間半を超えて全編テクニカラーという、いかにもアメリカならではのデラックスさ。オスカーも総なめ。日米開戦直前の時期にあたり、日本国内では公開されず、上海やシンガポールで観賞した文化人たちが、こんな凄い作品を産み出すアメリカと戦争するのは正気の沙汰ではないと驚愕したとか。
マックス・スタイナー作曲のサントラ音楽が響き渡り、壮大なスペクタクル&ロマンスには、壮大な音楽が欠かせないことを示しました。
この後の1950-60年代の映画音楽をまとめて聴くには、キングレコードから“スーパーツインシリーズ”として出ている『不滅の映画劇場【50~60年代編】』が良いですね。
私の手元にあるのは2014年のKICW9639-40です。当時の洋物大作映画のテーマが全29曲、演奏は日本フィルハーモニー交響楽団で、『風と共に去りぬ』は1939年なので収録されていませんが、『ベン・ハー』や『クレオパトラ』『80日間世界一周』、それに音源の少ない『素晴らしきヒコーキ野郎』が本格オケで聴ける幸せ。
個性的とまでは言えませんが、サントラに敬意を払った模範演奏かな。謹厳実直な演奏家魂を感じさせる、気持ちのいいサウンドです。
で、なんといっても超大作中の超大作として輝く金字塔が『ベン・ハー』(1959米)。“東京タワーが二つ建つ”という巨費を投じられた、文字通り金ぴかの金字塔ですね。といっても当時のレートは1ドル360円に固定されていたのですが。
で、スペクタクル映画のスペクタクルをモリモリに盛り上げてくれる要素として、音楽があまりにも効果的に使われた成功例こそ『ベン・ハー』ですね。
たとえば“海戦”の音楽。地中海にて、帆と櫂を両用するローマの軍船が、同じ構造の敵船と闘うのですが、無音で画面だけを観ていると、模型の船が火のついた玉をヒョロヒョロと投げているようにしか見えない……のは、CGのない当時のミニチュア特撮の宿命ですね。いや確かに、模型ワークはハイレベルで当時の最高水準であることは間違いないのですが、まあどうしてもモノホンには見えないところが辛い。
しかしそこに勇壮な音楽が重なると、俄然、本物感覚が高まります。模型同士でなく、船に乗った人間同士が戦っている、そんな緊迫したスピリットに満たされるのですね。
音楽の精神効果が、特撮のリアリティを一段と高めてくれると思うのです。
昭和の怪獣映画がそうですね。伊福部昭先生の音楽があればこそ、ゴジラや自衛隊の戦車が本物に見えるというものです。
*
さて私の手元にあるCDは、『MGM映画 ベン・ハー オリジナル・サウンドトラック』と銘打った、ビクター音楽産業がおそらく西暦2000年に再販した一枚、VDP-5070です。ジャケ裏には“オリジナル MGM レコーディング”と表記され、これぞサントラの決定版といった風情。
演奏はカルロ・サヴィーナ指揮の、ローマ交響楽団。
ライナーノーツの末尾には“LP発売時のものを一部訂正”とありますので、1970年代にはレコードで国内販売されていたのでしょう。
しかし、この“サントラ盤”を聴き込んでみますと……。
ちょっと変だ、と感じます。
これ、映画のサウンドと明らかに違う。
なぜ、違うことがわかるかと言いますと、やはり西暦2000年頃に『ベン・ハー』のDVDを買って、何度か観ているうちに、気が付いたわけですね。
全国のご家庭にDVDプレーヤーが普及したのは、やはり西暦2000年頃。
あの超大作がキレイな画面でいつでも全部見れる!
飛びつきます。
私が最初に買ったDVDは、『2001年宇宙の旅』と『ベン・ハー』でした。
当時一枚1500円で出ていたもので。
ビデオテープに比べて、画面だけでなく、音声が圧倒的に明瞭。
となると、CDのサントラ盤との違いがくっきりと際立ちます。
なんか変だ。やっぱ、違うぞ……
しかしCDの帯には、“オリジナル・サウンドトラック”と、でかでかと大書されているではありませんか。
何やら不信感が募ります。
間違っているのは自分なのか? でもやっぱり、違うゾ。
それにこのVDP-5070の“サントラ盤”には、『ベン・ハー序曲』に次ぐ有名曲である『
取り敢えずそれが不満で、『戦車の行進』を収録したCDを探します。
で、のちになって、もうひとつの“サントラ”である『オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック ベン・ハー』を見つけて買いました。ターナーTCMから出ているメイド・インUK版の“7243 8 52787 2 3”です。
あ、こちらがアタリだ。
一目瞭然ならぬ一聴瞭然です。
複数の曲の接続部分が、映画そのまま。
先のVDP-5070の“サントラ盤”では各曲が独立して演奏されていましたが、こちらは映像の移り変わりと共に曲想が変化してゆく様子が映画本編そのままで、よくわかります。
『
演奏はライナーノーツの末尾に、“MGMスタジオ・オーケストラ”と示されていました。これが本物です。
ということは、先に購入していたVDP-5070の“サントラ盤”は、まあ、悪く言えば“偽物サントラ”。オリジナル・サウンドトラックの楽譜に準拠して、カルロ・サヴィーナ指揮でローマ交響楽団が演奏したものということですね。
そもそもサントラでは無かったわけです。
これで一安心、とはいえ……
なんと、紛らわしい。
どちらもジャケットのデザインがてんで同じ。
巨大な石造りのロゴ“BEN-HUR”が聳え立つ手前を四頭立ての白馬が牽く
見た目だけで騙されるがな。
ジャロの“まぎらワシ”に言いつけてあげたくなりそうなクリソツぶりです。
その経緯はさっぱりわかりません。
ウィキペディアの記述を参照しますと……
“オリジナル・サウンドトラック盤は、本編の音源と異なるカルロ・サヴィーナ指揮によるローマ交響楽団の演奏が長年公式盤とされ、”
とあり、その後、1996年になってようやく、本物サントラが、当時MGM作品の配給を行っていたTurnerから発売された……という顛末のようです。
サントラの本物が不明という奇妙なミステリー状態が、映画公開当時から四十年近く続き、20世紀末の1997年になってようやく本物サントラが発売されて、ケリがついたということですか……。
版権のオリジナリティに物凄くうるさい業界なのに、どうしてそんなミステリじみた状態になっていたのか……
謎ですね。
ちなみに“偽物サントラ”にされてしまったローマ交響楽団版のCDには、“オリジナル・サウンドトラック”とあります。
一方、本物サントラでは“オリジナル・モーションピクチャー・サウンドトラック”と表記されています。“サウンドトラック”だけじゃダメで、“オリジナル・モーションピクチャー”がつかなければ、本物じゃないってことか……
そのほかのCDで“フロム・ザ・オリジナル・モーションピクチャー・スコア”となっているのは、オリジナル
そうは言っても、わかりにくい……
私のような素人は、かなり混乱します。
そもそも作曲者のミクロス・ローザ氏があちこちの楽団で指揮して、それがCD化された歴史もあるようで、それがまた混乱に拍車をかけたであろうと察せられます。
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