172●『2024.01.02羽田空港・衝突事故』、JAL516の奇跡を推論する。②紙一重の避難、CAナインの奮戦と、第三の脱出口。

172●『2024.01.02羽田空港・衝突事故』、JAL516の奇跡を推論する。②紙一重の避難、CAナインの奮戦と第三の脱出口。




 エアバスA350型機のキャビンアテンダント編成数は……

 一般に国内線ではファーストクラスに2名、クラスJに3名、普通席に4名の合計9名のCAさんが乗務している、とされています。


 なるほど、9人。

 理由がわかりました。

 非常時の脱出口は機体の左右舷に四か所ずつの計八か所。

 いざ脱出というときには、非常口に一人ずつCAさんが張り付いて、乗客の誘導とシューターへの飛び込み指示をおこなう、ということですね。

 だから八人が必要、その八人を統括するチーフ一名を加えて、計九人ということでしょう。


 野球チームと同じ……はずがありませんが、この“CAナイン”の奮戦あってこそ、「乗客乗員379人の全員生還」が成し遂げられたことは間違いありませんね。


       *


 乗客がスマホに録画して、ネットに公開された映像と音声には、停止した機内に漂い始める煙の不気味さと、子供たちの悲鳴、そして金切声に近いほど、よく通る声で乗客に呼びかけるCAナインの声が溢れています。

 数分先には死んでいるかもしれない……という、恐るべき緊迫感がひしひしと伝わります。


 その緊迫度は実際、時間的にどうだったのでしょうか。


ネットのニュース

●日航機の乗員乗客379人、18分で全員脱出…専門家「乗客が指示通り動いた」

1/3(水) 20:09配信 読売新聞オンライン

乗客の脱出が完了し、機長らが最後に滑走路に降り立ったのは、着陸から18分後の午後6時5分だった。それから約10分後、機体は大きな爆発音とともに激しい炎に包まれた。



 ……ということは……

 着陸から18分後に最後の一人(機長)が脱出、その10分後には激しい爆炎に覆われたのですから、乗客の避難に残されていた時間は、着陸後28分以内ということになります。

 しかし、機体が爆炎に覆われる数分前に有毒ガスの煙が機内に充満したでしょう。

 かりに爆炎の5分前に煙が充満したとするならば、着陸後に乗客が安全に生存できた時間は、せいぜい23分間であっただろう思われます。


 他のニュースでは、着陸してから非常口を開けて避難が始まるまで、6分余りかかったといいます。

 そうしますと、の時点から、安全に避難作業を続けられる時間は「23分-6分余り」で、「16分余り」しかなかったことになります。


 一方、実際には「着陸後18分」で避難を完了しましたから、実際に避難作業にかかった時間は「18分-6分余り」で、「12分程度」で完了できたことになります。


 以上のことから推察できますのは……


 避難の作業に充てられる時間は「16分余り」であり、そのうち、「12分程度」で避難作業を終えられた……ということですね。

 余すところ、4分程度……


 つまり、乗客の避難作業に手間取って、……という現実が(あくまでも仮定の数字ですが)浮かび上がってきます。


 これ、大事なことです。

 いずれ専門家が細かく検証するでしょうが、おそらく避難作業の「四、五分の遅れ」があったなら、乗客乗員の誰かが死んでいたかもしれない、というほど、事態は切羽詰まっていたのです。


 まさに生死紙一重の脱出作戦でした。


      *


 そこで注目するのが、「第三の脱出口」ですね。

 JAL516便の機体の脱出口は、左右舷にそれぞれ四か所の、計八か所。

 便宜的に、右舷の脱出口を機首から「右1」「右2」「右3」「右4」とします。

 同様に左舷の脱出口を機首から「左1」「左2」「左3」「左4」とします。


 着陸し、機体が停止して6分ほど経過した時点で、「右1」と「左1」の脱出口の窓外は安全が確認でき、ただちにシューターを出して乗客の避難を開始したものと思われます。

 このときJAL516便は、地上のタイタニック号と化しました。

 まず最前部の左右の脱出口から供用されたため、機体前半に座席が配置されているファーストクラスとクラスJの乗客、すなわち高額座席の客から避難を始めたと思われるからです。

 1912年に大西洋に沈んだタイタニック号も、概ね一等客、二等客……の順番にボートに乗っていったと言われますし……

 あくまで偶然ですが、JAL516便の機内では、タイタニックと同様に、高額座席の客の後にエコノミークラスの乗客がずらりと列を作って避難待ちをする、という光景になったことでしょう。


 問題は、座席がほぼ満席であったこと。

 乗客乗員379人をたった二か所の脱出口から避難させるには、やはり時間がかかります。

 困ったことに、機体中央部にある「右2」「左2」「右3」「左3」の脱出口は、炎上しつつある主翼の付け根の前後にあったので、使用不能でした。


 残るは機尾の「右4」「左4」の二か所です。

 しかし「右4」も、窓の外に炎が回って使用不能。

 最後の頼みの綱は「左4」。

 これは機外にまだ炎がなく、当面安全に使用できることがわかりました。

 確認したCA嬢は、機長に「扉開放」の許可を得ようとしますが、機内電話がつながりません。そこで自らの判断でドアを開け、シューターを延ばして乗客の避難を開始します。

 これはマニュアル通りでした。

 おそらくマニュアルでは、機長が負傷か死亡して指示を出せない場合も想定されていたのでしょう。

 この「第三の脱出口」が、大幅に事態を好転させたこと、疑いもありません。

 エコノミー客が作った長い列、その最後尾から次々と脱出させることができたからです。


 前述しましたように、避難の作業に充てられる時間は「16分余り」であり、そのうち「12分程度」で避難作業を終えられた……と思われますが、この「12分程度」を可能にしたのが、「第三の脱出口が開いた」ことにあると思われます。


 二か所しか使えなかった脱出口が三か所に増えたことで、たぶん全員が避難するための作業時間は、三割ほど短縮できたでしょう。

 時間を三割ほど短縮できた、その結果が「12分程度」だったのです。


 ですから。

 もしもこの「左4」、すなわち「第三の脱出口」を使うことができなかったら……

 「12分程度」で済んだ避難作業の時間は15~17分に延びて、その結果、避難する列の最後尾……それは機長、コ・パイ、CAさんたち乗員になったことと思われますが……最後の瞬間に逃げ遅れて、不幸な犠牲者を出すことになったかもしれません。


 「乗客乗員全員生還」の輝かしい結果だけを見ると、なんだか余裕しゃくしゃくで逃げられたかのような印象になりがちですが、実際は本当にギリギリの勝負で生死を分けたのですね。

 懸命な努力で「第三の脱出口」を開くなど、CAナインの力量があってこそ可能になった、まさに「人が作った奇跡」と言わざるを得ないファインプレーでした。


 JAL516便は、陸上のタイタニックになることを免れました。

 タイタニックのように、避難できずに死亡する人を出さずに済んだのです。

 それはCAさんが、「第三の脱出口」を開いてくれたおかげでした。


 CAナインの素晴らしい行動が、ギリギリのタイミングで、死神の天秤を「死」から「生」に傾けたのではないか、そう思います。


 魔法なんかではなく、生きるために戦うチームワークによって。





      【次章へ続きます】


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