『2024.01.02羽田空港・衝突事故』JAL516の奇跡を推論する。

171●『2024.01.02羽田空港・衝突事故』、JAL516の奇跡を推論する。①コクピットの二人、黄金のベストランディング。※20240111追加

171●『2024.01.02羽田空港・衝突事故』、JAL516の奇跡を推論する。①コクピットの二人、黄金のベストランディング。



 あけおめ、どころではない、「明けましてご愁傷様です」と悲嘆し黙祷するしかない年明けとなってしまいました。

 西暦2024年、元旦の夕刻に能登半島地震、発生。

 そして翌1月2日夕刻、『羽田空港・衝突事故』発生。


 巨大スケールの自然災害と人為的な事故が、相次いで日本のお正月を襲いました。


 もう30年ほど昔の阪神淡路大震災(1995)、そして13年前の東日本大震災と同じ、惨憺たる悲劇が、能登半島において繰り返されました。

 正月という良き日に犠牲になられた方々に、ただ哀悼を申し上げるしかありません。意図せざる出来事とはいえ、あまりにもむごいことです。


       *


 本稿では、1月2日夕刻の『羽田空港・衝突事故』を扱います。

 SFや映画ではない番外編ですが、「事実は小説よりも奇なり」と「奇跡は人が作るもの」を地で行くような日航機のSF(スーパーフライト)を目の当たりにしたのかもしれない……ということで。


 1月2日夕刻、羽田空港へ着陸して来た日本航空JAL516便のエアバスA350型機と、滑走路上にあった海上保安庁の航空機が衝突。双方とも機体は炎上、全損。

 この事故で日本航空の旅客機の乗客乗員379人は全員脱出に成功しました。


 日本航空が運航するエアバスA350型機の座席配置図をネットで見ますと、乗客の最大定員は369人もしくは391人とされています。

 当日の「乗客乗員379人」はもう満席と言っていいでしょう。

 つまり、全員が機外に脱出するために要する時間もMAXであるということです。

 死者ゼロで生還できたことは、やはりミラクルなのでしょう。


 のちに見た映像では、真っ暗な滑走路で海保機に激突したJAL516便が火だるまとなって滑走路を疾走する姿が。まさにファイアボール状態でした。


 乗客乗員とも、あれは絶望的だと思いました。

 しかしまもなく、日航機は全員生存で救助されたとのテロップが入り、ほっとしましたが、同時に驚きました。全員生存なんて嘘じゃないか? と思わせるほどの惨状だったのですから。


 翌日の1月3日、事故機の空撮を観て、おおっ、と声がでました。


 JAL516便は、滑走路の舗装されたランウェイから右カーブして、ランウェイの横に広がる草地に機体を持ってきて、そこで停止していたのです。

 形を残しているのは主翼の一部のみ、胴体は完全に燃え果てて、骨組みも崩れ落ちています。

 しかしその残骸がここまで走って来た痕跡は、草地にくっきりと残されていました。機体は滑走路のランウェイ上で十分に減速し、最後の最後で、草地の上に移動して止まったわけです。


 これは偶然なのか、それともパイロットの操縦の賜物なのだろうか?


 それはわかりません。

 が、ここでは、パイロットの操縦によるものだと仮定してみます。

 あくまで私個人のシロート推測です。創作的妄想です。

 間違っていたらどうかお許し下さい。


       *


 壊滅的なトラブルに直面した巨大な機体を、最後の瞬間にランウェイから離脱させて、隣の草地に持ってきて停止させたのは、大きなメリットがあります。

 ひょっとすると、そのようにマニュアル化されていたのかもしれません。


① パイロットは滑走時に後方が見えません。つまり火だるま状態で走っている間、機体の後ろの方で何が起こっているのか、まるでわからないということです(後方監視モニターがあるかもしれませんが、衝突の衝撃で壊れるでしょう)。とすると、ランウェイの上で機体を止めたら、万が一、後方から着陸してくる別機があった場合、大規模衝突を繰り返す恐れがあります。大惨事を上回る大惨事となります。

 絶望の二次災害を避けるために、JAL516便のパイロットは最後の最後で機体を右カーブさせて、草地に移動させたのではないか、そのように思います。


② 草地に停止すれば、非常脱出シューターで滑り降りる乗客を迎える地面は、カチカチに舗装されたランウェイでなく、いくらか柔らかいクッションが期待できます。接地時に乗客が負傷するなどのリスクを軽減できるでしょう。


③ ランウェイ上に停止して火災となれば、舗装された路面が数百度の高熱にさらされ続けて、広範囲に破損して使用不能となる恐れがあります。事故後、迅速に滑走路を復旧するためにも、事故機はランウェイを逸れて止まってくれた方が望ましいということになります。


 コクピットで機体を操縦するのは、機長キャプテンとコ・パイの二人。

 二人にとって、おそらく羽田空港は降り慣れた滑走路であり、もしも滑走中に機体に異常が発生したら、隣の草地に機体を乗り入れて避難させても障害はない……といったリスクヘッジの思考が常日頃から行われていたのではないでしょうか。


      *


 燃え盛る機体を滑走路の舗装部分から離脱させて停止させる。

 これがパイロットの技量で行われたとしたら、まさに神業です。


 エアバスなどの旅客機が着陸するときの速度は時速250~300キロメートル。

 新幹線の最高速度並みです。

 それが、滑走路に止まっていた海保機に激突した。

 最初私は、海保機はJAL516便の機体の下に潜り込み、左エンジンに当たって爆発的に炎上したと思っていました。

 しかし実際は、機首からほぼ正面衝突したようです。


 というのは、ネットの動画を見ましたら、停止後のJAL516便機の機首先端のレドーム部分がパコンと潰れているか欠損しており、そして機首は前傾して地面に接していたからです。


 つまり最初の衝突で機首が破損し、その下の前車輪が喪失したと思われるのです。

 機首の先端からコクピットの二人の座席までの距離は四、五メートルといったところでしょうか。まさに目と鼻の先です。


 そこへ新幹線並みの速度で、他機に激突した。

 この瞬間、コクピットの二人は死を覚悟したのではないでしょうか。


 爆発、炎、同時に機首はがくんと数メートル下を向いて路面に接触、火花を散らしてガーッと滑る状態。機体の進路コントロールは喪失します。


 例えば、『サンダーバード』の第一話で、“超音旅客機”ファイアーフラッシュ号の機首を下支えしていた高速エレベーターカーがはずれて、機首が路面に落下、火花を引いて首を振り、ふらつきながら激走する場面です。

 ファイアーフラッシュ号のコクピットは垂直尾翼の付け根にあるので、パイロットは安全でしたが、エアバスA350のJAL516便は、そうはいきません。


 エアバスA350は日航が運用する最大級の機材で、全長約70メートルの巨人機。

 これが新幹線並みのスピードで機首を削りながら走り、速度ゼロになるまでの、およそ30秒。いつ、機首がへし折れて吹き飛ぶのかわかりません。

 まさに地獄の30秒だったと思います。

 しかも……


 エアバスの操縦装置は、じつにデリケートです。

 コクピットの操縦パネルに紅茶がこぼれただけで、飛行中のエンジンが停止したという事案があります。


ネットのニュース

●コックピットで飲み物をこぼしただけで…飛行中のエアバスのエンジンが停止

David Slotnick Feb. 07, 2020, 03:30 PM TECH NEWS

FlightGlobalによると、ソウル行きのデルタ航空など2便で、飛行中にコックピットで飲み物がこぼれたことでエアバスA350-900のエンジンが停止した。

パリに本社を置き、A350型機のみを運航するLCCのFrench Beeの社長、マルク・ロシェ(Marc Rochet)氏はBusiness Insiderに対し、パイロットと客室乗務員は、A350型機での同様の事故を避けるために、コントロールパネル付近での液体の取り扱いについて特別に訓練されていると語った。

「客室乗務員は、コックピットの中央部からパイロットに飲み物を与えることはできない。飲み物は横から渡さなければいけない。昔は、航空機は完全に機械的だったので、水をこぼしたら乾くのを待っていれば大丈夫だった。今はすべてがコンピューター制御で、液体とコンピューターは相性が悪い」



 このような機体が海保機に激突。

 JAL516便のコクピットでは、電子的な操縦システムが一瞬で死んだのでは?

 かつ、機首が路面に落ちて、削りながらの激走。

 前車輪を喪失しているので、機体の進路コントロールは困難です。

 通常、地上で機体の進行方向を変えるには、前車輪の向きを左右に変えることで行っているからです。

 その前車輪が、無い。

 速度は新幹線並み。

 いつ機首が折れて、機体が暴走し、ランウェイを外れて草地の向こうの海に突っ込むかもしれません。

 もっと恐ろしいのは、左に暴走して、管制塔から誘導路にかけて移動している別機に衝突することです。


 ここでコクピットを救ったのは、左右両翼に併せて二基のエンジンでした。

 この機体のエンジンはまことに巨大。エアインテークの直径は、見上げれば二階建ての家屋の軒下に届くほどもあります。

 前車輪を失って機体が前に傾いた結果、このドデカエンジンのエアインテークの下辺が接地して、ガリガリバキバキと破損しながら走ったことと思われます。

 その結果、機体前半の重量がエンジン部分にも引き受けられて、機首から分散されたことによって、かろうじて機首の切断が避けられたのではないかと……

 まあ、素人の推測ですから、その程度のリアリティと思ってくだされば。


 しかし、前輪を失ったJAL516便が、よくも暴走せずに減速できたものです。

 滑走路の状態が良好で、氷上のスケーターのようにツーッと滑れたのかもしれませんが……


 この状態で機体の進行方向を制御する手段、ひとつだけありました。


ネットのニュース

●旅客機の地上走行 実は操縦桿ほぼ不使用です…どうやって曲がるの?

2020.01.11 乗りものニュース

……これらのほか飛行機の車輪にはブレーキがついており、左右の車輪ブレーキを組み合わせることで、地上で方向を転換する方法もあります。


(なお、左右の翼のエンジンは逆噴射モードになっていますから、この出力を左右どちらかで減じることで、機体の方向を左右へとコントロールする手もあるかもしれません。ただしこの場合は、逆噴射の出力が全体的に減るので、走っている機体の減速が遅れることになるでしょう)


 エアバスの巨大な機体の中央部から、左右に降ろした主脚。その六輪(ないしは四輪)ずつの特大のタイヤが、機体を支えています。

 この車輪にはブレーキがついており、もちろん着陸して減速滑走するときに、ブレーキをかけます。

 この仕組みが生きており、JAL516便は火だるまで走りながら減速。

 そして、最後の停止直前に、右脚のブレーキを生かしたまま左脚のブレーキをゆるめて右方向へ機体をカーブさせ、ランウェイの舗装面を離脱して草原へ移動、機体がすべて草原の上に移動したところで、海に飛び込むはるか手前で停止させた……のではないかと思うのです。


 このタイミング、すげー神業では?

 これ、地獄の30秒を堪えて機体の制御に尽力したコクピットの二人、機長とコ・パイの渾身の着陸だったのではないでしょうか。


 あくまで私個人の想像ですが、乏しい映像資料から見えてくるのは……


 黄金のベストランディング。


 乗客乗員全員生還のミラクルを生み出した、その土台を作ったのは、コクピットの二人の功績と考えてよいでしょう。


       *


 21世紀の日本航空の安全努力は、1985年の『日本航空123便墜落事故』を大きな基盤としています。御巣鷹山の峰々に命潰いのちついえた犠牲者520人、世界史上最悪の航空事故とされます。

 以来、未曽有の経営難とコロナ禍の苦境を乗り越えて生き延びてきた航空会社の日々の積み重ねが、ここに試されたということでしょうか。

 JAL516便の379人全員生還という不幸中の幸いは、坂本九さんを含む、あの犠牲者の方々の御霊みたまに見守られていたのかもしれませんね。


 あかん、涙が出てきた。





※2024.01.11追伸


ネットのニュース

●羽田航空機衝突事故 日本航空パイロット 衝突後に「ブレーキを操作したが機能せず操縦不能と認識」

2024 1/11(木) 12:46配信 FNNプライムオンライン

羽田空港で日本航空と海上保安庁の航空機が衝突した事故で、(中略)国の運輸安全委員会や日本航空などが聞き取りを行っているが、関係者によると、日本航空のパイロットは衝突後の状況について「ブレーキなどを操作したが機能せず、操縦不能だと認識した」と話していることがわかった。


●JAL機パイロット、衝突後「ブレーキやハンドル機能せず」「機体が滑っている感覚」

2024 1/11(木) 19:21配信 読売新聞オンライン

海保機と衝突した日航機のパイロットらが、日航や運輸安全委員会の聞き取り調査に対し、「ブレーキやハンドルなどを操作したが機能せず、アンコントローラブル(操縦不能)と認識した」と話したことが、関係者への取材でわかった。

日航機は海保機と衝突した直後に炎上し、約1500メートル先で停止した。この間の状況について、パイロットらは「機体が滑っている感覚だった」と表現したという。



 ……ということは、滑走路を長らく直進し、最後に舗装面を右に外れて停止したのは、パイロットの操縦によるものでなく、全く偶然ということのようですね。

 私の「パイロットの技量による、黄金のベストランディング」説は誤りのようです、お忘れ下さい。

 とはいえ、理想的なポジションに停止できた幸運は、やはり衝突直前の機体の向きや姿勢が模範的なほどに良かったということでしょう。また、衝突と同時に咄嗟にブレーキをかけているでしょうし、ブレーキの機能が完全に失われる寸前の刹那に、いくらかでも減速モードに入ることができたかもしれません。

 真相は決めつけることができませんが、「機体が滑っている感覚だった」ことから、滑走路の路面が非常に綺麗に整備されていたことは確かであり、だから素直にまっすぐに進んだのだろうと思います。

 何にしても、素晴らしい結果でした……



    【次章へ続きます】





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