08●『未来少年コナン』(7)アニメグルメいろいろ

08●『未来少年コナン』(7)アニメグルメいろいろ




 アニメの中で、なにかを食べる場面がよく出てきます。


 “食”となれば“こだわり”と“大食い”に彩られた二十一世紀ニッポン、TVをつければどこかのチャンネルで必ずお笑いさんか新米アナとか誰かが何かを食べさせられているんじゃないかな?

 朝ドラなんて、飲み食いしていない回があったらお目にかかりたいほどでは?

 アニメでも同様で、料理人の物語でもないのに調理レシピや盛り付けまで丁寧に描写してくれるケースが見受けられます。


 『未来少年コナン』でも、食事の場面は多々見られますが、料理そのものについての絵的描写は実にシンプルです、特別なディナーの場面を除いて、たいていが、ありふれた食パンとカップスープ、といった程度ですね。

 ただし、それを食する前の配膳から、おいしい、おいしくない、といった反応が、かなり丹念に描かれています。占領したハイハーバーでモンスリーが本物の紅茶を味わう場面とか、ですね。

 視聴者の方も、おいしい紅茶を味わった過去の記憶を思い出します。

 有名な“ハイジのチーズ”を引き合いに出すまでも無く、料理そのものの描写よりも、それを誰が出し、どう味わうか、が重要だということですね。

 ダイス船長とジムシイの食べっぷりは、その典型かと。


 『ルパン三世カリオストロの城』では、伯爵の上品な半熟卵と、ルパン&次元のミートボールスパゲティが双璧でしたね。奪い合いが美味を引き立てます。

 同じく『死の翼アルバトロス』冒頭の“点火プラグ入りすき焼き”も肉の争奪戦が見ものです。

 『紅の豚』のピッコロ社のファミリーパスタも逸品。

 『天空の城ラピュタ』の、トースト+目玉焼きの“ラピュタパン”もなかなかのもの。『魔女の宅急便』の“にしんパイ”は珍味の部類かな。グーチョキパン店のパンはさすがに美味そうでした。

 そして、ジブリアニメでおそらく最も調理過程に手を入れて描いたと思われる『崖の上のポニョ』の“ハムラーメン”。


 あくまで筆者の主観ですが、宮崎アニメグルメで意外と注目なのは、『天空の城ラピュタ』の冒頭でパズーがオーダーする肉団子シチューかもしれません。

 パズー本人がのに、肉団子を頼む声の弾み具合だけで美味を舌に伝えてくれ、“これはイケるかも!”と期待させてくれるんですから。


 逆に最も不味そうなのが、『千と千尋の神隠し』で両親がかぶりつく中華風料理の数々、本人は憑りつかれたかのように食べているのですが、なんとなく“味わっていない”様子が伝わります。食物を食べているのでなく、逆に胃の中から自分の身体が食物に食べられているような印象すら覚えます。


 さて筆者が経験した主観的に最も美味いものは、家内の魔法的手料理を除けば、その昔、東京の“山の上ホテル”で食した生ガキです。あの舌感ぜっかんは死ぬまで忘れないだろうなあ。

 逆に、見かけのわりに最も不味かった食べ物は、その昔、英国の大〇博物館のミュージアムショップに近い某レストランで食したパスタ。

 新聞紙の味しかしない。

 博物館だから、きっとこれはミイラの包帯を食わせてるんだ……と思わせるほどの、超絶テイストでした。この味もきっと死ぬまで忘れないですよ。


 英国といえばあの超有名魔法映画で、某超名門魔法学校の新入生歓迎パーティに出て来た豪華ディナー。魔法で空中に出現、各テーブルに垂直降下するというファストフードぶりが祟ってか、見た目のわりに、なぜか、とても不味まずそうに感じたものです。ニッポンの幕の内弁当か寿司パックにでもしておけばよかったのに。


 なお、文学の世界に登場する最も幸せなお食事メニューは、筆者が知る限り、ディケンズ作『クリスマス・キャロル』に描かれたボブ・クラシット家のクリスマスのごちそうでしょう。何を食べたか、アイテムがきちんと紹介されています。



 SF史上、本能的に最も不味マズそうな点では、“ソイレントグリーン”の右に出るものはなさそうですが。あ、映画の『宇宙征服』(1955)におけるエリート乗組員用の丸薬食事も相当なものでしたね。『2001年宇宙の旅』のディスカバリー号でオートキッチンからサーヴィスされる、あのペースト状弁当も、現代の離乳食かペットフードみたいで、どうも……といった感じです。不味くは無くても、すぐに飽きそうだなア。

 逆に美味そうなのは、ヴェルヌの『月世界へ行く』で砲弾型宇宙船に持参されたワイン、ヌイ・サン・ジョルジュでしょうか。


 国産アニメで「不味マズそう」の代表格は、『この世界の片隅に』に登場する“楠公なんこうめし”。レシピを見せられただけで、「う、薄~」という心境になりますね。

 仙人並みにかすみを食らって生きるようなものでしょう。

 同じような水分含有率でも、スイカはおいしく感じるのに……


 あ、もうひとつ、『未来少年コナン』のインダストリア工場で生産される“合成パン”を忘れてはなりません。

 原料がプラスチップで、そのまた原料は石油で、石油はもともと古代生物の遺骸の成れの果てですから、有機物を上手に分離して分子を再結合すれば、食えるものが作れるかもしれません。

 しかしある意味、古タイヤを砕いてタピオカを造るようなもので、そのお味はどうも……想像しない方が健康に良さそうですね。


 で、ゲテモノ路線の筆頭は、“エヴァに食われる使徒”。

 エヴァ本人は、あれで美味いと感じてるんだろうなア。

 つくづく、味覚って主観の産物だと思います。


 ゲテモノ路線の二番手は、『トップをねらえ2!』(2004-6)でサーペンタイン姉妹が仲良く食していた“タイタンガニ”ではないでしょうか。

 つくづく、味覚って主観の産物だと思います。


 ゲテモノの成功例は、『ヘルシング』で婦警さんがむさぼりすする血液パック。

 見た目トマトかベリーのスムージーなので、美味しそうに見えてしまうのが憎いですね。


 所謂“グルメアニメ”は別格とします。『〇〇しんぼ』『クッ〇ングパパ』『中〇一番』とか『立〇〇列伝』とか。それはもう、グルメ自体が目的とされる特化アニメなので、比較対照できない別世界となります。

 にしても、グルメアニメが成立するこの国の文化、凄いというか、国民的に食い意地が張っていると申しますか……


 ほかにビミョーなグルメとして……

 『カウボーイビバップ』の“肉無しチンジャオロース”。

 さぞや哲学的な味わいであることでしょう。シェフが盆栽マニアですし。


 飲料だと、やはりミサトさんがグイ飲みのエ〇チュビール、でしょうか。

 あのプッハーの場面を見ると、一杯やりたくなりますね。

 え、そういえば『君の名は。』の口噛み酒……あれはまあ、美少女の分泌物だから、美味の部類に入るんでしょうか? 嫌ったら神を冒涜する異端者だし、好んだら唾液フェチの変態だし、どうにも手におえない飲料品です。


 唾液、と言えば『謎の彼女X』(2012)の“よだれ”がありました。

 妖しさといい、刺激的なことといい、ドキドキ感といい、アニメグルメの最高峰は、それかもしれませんね。





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