04●『未来少年コナン』(3)メカのリアリティ…“未来震電ファルコ”
04●『未来少年コナン』(3)メカのリアリティ…“未来震電ファルコ”
男の子のアニメに、戦闘メカはほぼ必須。
見た目はどうあれ、本物っぽいリアリティが求められます。
ファーストガンダムが、1981年発行のムック『宇宙翔ける戦士達 GUNDAM CENTURY』で抜群のリアリティを与えられ、人気が爆発したように……です。
文字通り、世紀を超える生命を作品が獲得した好例でしょう。
で、メカのリアリティこそ、“作用と反作用そして慣性”の賜物です。
ちなみに“作用・反作用・慣性”が効果的な演出として示された初期の作品として、アニメではありませんが『サンダーバード』(1965-66)が挙げられます。
事実上、歩いたり走ったりする動作に無理があるマリオネットの世界に超絶級のリアリティを授けたのは、毎回登場するサンダーバードメカや無数の壊れ役メカが演じる“作用・反作用・慣性”の妙技でした。
崖っぷちに落下寸前で止まったトレーラーを救うために、サンダーバード2号が上空から降下しますが、垂直上昇の排気がかかると、トレーラーがぐらぐらと危なげに傾ぎます。これを支えるため、1号がトレーラーの下に機首を差し入れます。
たったそれだけのことですが、サンダーバード2号が反重力とか魔法とかで飛んでいるのでなく、地表に向けて
作用に対する反作用で飛んでいる、こういった演出が数限りなく重なって、作品世界を本物にしています。
『未来少年コナン』でも、様々なメカの動きに、理屈に合った原理が表現され、独特の本物感覚を与えています。
作用・反作用・慣性の法則だけでなく、環境に即応した合理的なメカデザインと、動きの見せ方が秀逸ですね。
自動小銃を発砲すると、その反動で銃口がブレる。
あるいはブレを防ぐように構える。
飛行艇ファルコが低速飛行する際にフラップを最大に開き、かつ機首を上げて揚力を確保する。
沈船を引き揚げようとするサルベージ船のワイヤーが張り詰め、巻き取るクレーンが震えるさま。
自重を支えつつドシドシと駆けるロボノイド。
船が針路を変更する時など、船体が重々しく揺れる様子。
などなど……
ひとつは航空機、とくに飛行艇ファルコの描写。
まず、プロペラが垂直尾翼の上端、高所に設置してあること。
ゲタバキフロートでなく艇体ごと水上滑走するため、高い場所に置かないと、プロペラが波しぶきを被って回転を阻害されるからですね。『紅の豚』のポルコの飛行艇のエンジンとペラの位置も高所になっています。
ファルコのプロペラは、後方からみて右回転、時計回りです。
日本海軍の零戦なんかと同じ回り方です。
すると機体には、プロペラの回転と反対方向に反作用のトルクがかかり、この場合、機体は左方向に傾きがちになります。
何もしないでおくと機体はひとりでに少しずつ、左旋回するという癖を持っているわけです。
ファルコはこの癖を利用してか、目標に対して左旋回する場面が多く見られます。
それゆえ、仮設の機関銃を使用する時、機首の左舷丸窓の銃眼に銃身を差し込んで射撃しています。左旋回で目標を狙うからです。
また、エンジン起動時のプロペラの回転に着目してみましょう。
第一話で、のこされ島を離れて飛び立とうとするときです。
プロペラは時計回りに回転を始めます。しかしプロペラの取り付け角度は……
後進になっています。
後ろから前へ風を送る回転になっているのです。
あれっ? と思ったのですが、乗降ハッチがフロントにあるファルコは陸側に機首を向けているため、いったんバックして岸から離れなくてはならないから、と、理由がわかります。
しかしそのあと、エンジン音に切れ目がありません。つまり、いったんプロペラを止めて、後進を前進に切り替えるために、回転を逆にする……というプロセスが不要なのです。
ということは……
ファルコのプロペラは、
細かいことですが、合理的です。水上を自力航走する場合に、プロペラの回転方向はそのままで、機敏に前進と後進を使い分けられるからです。
ただし、この、“プロペラをリバースモードにしたエンジン起動”の画面はその後、ファルコが飛び立つごとに繰り返し使われている(たぶん、使いまわしている)ようなので、飛び立つたびに一度、後進をかけていることになります。
駐機時には、必ずプロペラ角度を後進状態にセットしておく……という決まりになっているのかもしれません。艇体が勝手に前進しないよう、ブレーキのかわりとして。
付言しますと、第7話でエンジンルームに忍び込んでいたコナンに乗降ハッチを開けられ、バランスを崩して海面にタッチした直後、エンジンを再起動、プロペラを一気に回転させる……というシーンでは、ちゃんとプロペラ角度が前進モードで回っていました。
間違いなく、可変ピッチプロペラです。
さて多少、気になる箇所はあります。
第25話で、ギガントから離れたモンスリーとラナが、エンジンをやられて滑空状態のファルコを操ってインダストリアへたどり着くシーンです。
ファルコのプロペラは空回りしているかのようですが、よく見ると“反時計回り”で、後進がかかっています。
つまりこれは空回りでなく、なんらかの機械的な操作……ギアの切り替えなどで、前方からの風に逆らって空力的ブレーキをかけているようです。いわば“逆噴射”状態です。
ただしこれは、機体後方高所のプロペラでささやかな空力的ブレーキをかけることで、機首を上向けて主翼が揚力を得やすくしている、と解釈すれば納得できると思います。
ファルコのメカとしての凄さは、第20話で武装強化型が登場した事実にあらわれています。
機首に多数の砲を増設、12.7ミリ砲二門、7.7ミリ機銃二挺でしょうか。
これは重い。しかしそのために飛行性能が著しく落ちているとは見えません。
これはかなりの高性能です。重武装と言うことよりも、それだけの武装を機首に搭載できるほど、機体の飛行力にキャパシティがあることを物語るからです。
たとえば、セスナ機のような軽い機体の機首に同様の武装を増設しようと考えてみて下さい。
無理だ、となります。
飛行機が飛ぶには、機体の重心点が翼の取り付け部分のなるべく中心にあることが肝要です。
翼が生み出す揚力で、機体を空中に浮かべるわけですから。
機首や機尾に重心が寄りすぎていると、離陸できません。
大戦中の艦爆や艦攻で、爆弾や魚雷など重たいものは主翼の取り付け部分の下に搭載していることからも、わかりますね。
しかしファルコには、重たい武装の機首への増設が可能でした。
というのは……
ファルコのプロペラは機体後方に
ファルコの機体重心は、もともと後方に寄っていました。
だから、機体前部に機関砲などの重量物を載せることができたのでしょう。
なぜ、ファルコの機体重心が後方寄りに設定されているのか。
おそらく、機体前部のキャビンに、荷物を積むことが想定されていたからと思われます。
主たる任務は空中偵察ですが、必要に応じて輸送任務もこなさねばならなかったはずです。
ファルコに似た形態の実例としては、旧海軍の局地戦闘機“震電”がそうですね。
プロペラは機体後端の推進式、エンジンも機体後部。
それだけなら重心は後方寄り。
それゆえ、胴体前部に重量級の30ミリ機関砲を四門も積むことができたと思われます。
ファルコはある意味“震電”と肩を並べるスグレモノ機体だったといえるでしょう。
傑作揃いの宮崎メカの中で、小粒ながらピリリと光っています。
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